これからの季節、キノコといえばシイタケ、シメジ、エリンギ、そして高価なマツタケなどがあります。日本に自生するキノコは3,000~4,000種類もあり、食用に供されるものは約120種、その中で人工栽培により市場に出回っているものは10数種類とのことです。そんなキノコには野菜とは違った特別な抗酸化機能があることをご存知でしょうか?
【キノコに求める機能】
キノコには食物繊維やビタミンDが多いことはよく知られています。緑黄色野菜と比べて茶色をベースとするキノコには、フレッシュさはない代わりに何か意外な健康機能をもっているような気がします。
いろいろな健康への期待
前回紹介したアンケート結果では、キノコを食べる目的に「病気の予防」が挙げられていました。また新しいキノコ開発に求める項目でも美味しさを抑えて、「機能性」がトップでした。では具体的に私たちはキノコにどのような健康機能を期待しているのでしょうか。
東京在住の男女500人へのアンケート調査では、キノコに期待する機能性としてコレステロール値低下(45.8%)、便秘解消(43.2%)、抗ガン作用(40.4%)がトップ3を占め、他に美容効果や血圧低下などがありました(大石卓史ら 近畿大学 2020年)。
キノコの抗酸化能
コレステロール値低下や便秘解消は食物繊維との関係と思われますが、抗ガン作用や美容効果はキノコの何に期待しているのでしょうか?ガン発生の背景はさまざまですが、その1つに活性酸素による細胞の酸化変性があります。また美容では紫外線による皮膚細胞の酸化ダメージがあげられます。このようにキノコに対して抗酸化機能を強く求める声があるようです。
抗酸化活性の測定方法にはいくつかあり、その1つであるDPPHラジカル消去能測定というもので市販キノコの抗酸化活性を測定した報告があります。これによるとホワイトマッシュルーム(約240μmol Trolox相当量/100g)、シイタケ・エノキダケ(約225μmol)、マイタケ(約120μmol)、ブナシメジ(約80μmol)という値でした(下橋淳子 駒沢女子大学 2017年)。
これらの数値だけではピンときませんので野菜と比較すると、ブロッコリー(約200μmol)、キャベツ(約150μmol)となります。意外ですが、キノコの中には私たちが日頃よく食べている緑黄色野菜と同等の抗酸化能をもつものがあるということです。
ビタミン以外の抗酸化物質
抗酸化性をもつ栄養成分というとポリフェノールやカロテノイドがありますが、最もポピュラーなのがビタミンCやEでしょう。先ほど同等の抗酸化活性をもつと紹介した生シイタケとブロッコリーの抗酸化性ビタミンの含有量を確認しましょう。
ブロッコリーには100gあたりビタミンC(140㎎)、ビタミンE(3.0㎎)の量が含まれます。対して生シイタケでは両ビタミンとも0㎎です(日本食品標準成分表 八訂)。シイタケを代表とするキノコ類には抗酸化性ビタミンは含まれておらず、何かこれに変わる有効成分があるようです。それがエルゴチオネインという物質です。
【エルゴチオネイン】
エルゴチオネインという成分が登場しました。おそらく皆さんは初めて聞く名前ではないでしょうか。ここではエルゴチオネインの概要とその働きを確認します。
エルゴチオネインとは?
エルゴチオネインは今から100年以上も前に発見された物質で、その正体はアミノ酸です。体の中の細胞を酸化から守る(抗酸化ストレス)、炎症を抑える(抗炎症)、紫外線による老化を防ぐ(抗老化)などの作用が確認されています。また水に溶けて、熱に強いという性質があります。
エルゴチオネインはキノコのみが産生できるアミノ酸です。私たちがキノコとして食べているのは、カビの仲間である真菌という微生物がつくる糸状の菌糸です。キノコの真菌が増殖しながら土の中で作り出したエルゴチオネインは根から他の植物に移行し、これを食べることで動物体内に取り込まれます。
野菜・果物を経由して動物に摂取されたエルゴチオネインは、酸化ストレスが大きい臓器に移行・蓄積されます。具体的には肝臓、腎臓、心臓です。体内で発生する活性酸素からこれら主要臓器を守るために、キノコ由来の抗酸化物質エルゴチオネインはいろいろな食物を通して働いてくれているということです。
生体内抗酸化作用
私たちは経験的に「あぶら」は酸化されやすいことを知っています。同様に体を構成する細胞が酸化ダメージを受けるとは、脂質で構成される細胞膜が酸化により破損し細胞が障害を受けるということです。
活性酸素の1つである過酸化水素(H2O2)に対して、エルゴチオネインが細胞をどれくらい守る作用があるかを調べた実験報告があります(海外文献 2010年)。これによると対照細胞の生存率を100%とした場合、過酸化水素で酸化処理した細胞は約17%まで減少しますが、エルゴチオネインを添加しておくと約62%に抑えられました。
エルゴチオネインは細胞膜の抗酸化に重要な働きをもち、生体内で活性酸素から細胞を守る作用があることが判ります。
【キノコで細胞の酸化ケア】
野菜に抗酸化物質が含まれるのは光合成を行うためです。日光には紫外線が含まれており、植物の細胞は光合成を行うと同時に有害な紫外線も浴びることになります。この紫外線による酸化ストレスから身を守るために緑黄色野菜や果物には抗酸化物質が含まれるわけですが、そもそもキノコは光合成を行いません。キノコが抗酸化物質エルゴチオネインをつくる理由は何なのでしょうか?
傘裏のヒダが大切
キノコの各部位には聞き慣れない名前がついています。傘の部分は「菌傘:きんさん」、傘の裏側のヒダヒダ部分は「菌褶:きんしゅう」、そして柄の部分は「菌柄:きんへい」というそうです。これらキノコ各部位のエルゴチオネイン含有量を調べたデータがあります(菅原冬樹ら 秋田県林業研究研修センター 2020年)。
生シイタケ100g中に最も多くのエルゴチオネインが含まれていたのは、傘裏のヒダヒダ部分(菌褶)で4.80㎎でした。キノコ自体を紫外線から守るという意味では傘の表面部分が一番多そうな気がしますが、そうではありませんでした。
傘裏のヒダ部分というのはキノコの胞子をつくる部位です。ここから胞子が飛び出し、空気中を漂い別の場所で発芽して新しいキノコが育ちます。しかしこの胞子は乾燥状態で直射日光にさらされると10分程度で発芽障害が起こり、3時間では発芽できなくなるといいます。傘裏部分にエルゴチオネインがたっぷり含まれているのは、紫外線による酸化ストレスから次の子孫を残す胞子を守るためでした。
増えるエルゴチオネイン
紫外線はキノコの胞子にとって大敵であり、これから胞子を守るためにエルゴチオネインという抗酸化アミノ酸が産生されることが判りました。では人為的にキノコに紫外線を当てるとエルゴチオネイン量はどう変化するでしょうか?
機械乾燥した干しシイタケに傘裏側(=菌褶)から紫外線(UV)を60分間照射し、エルゴチオネインの変化量を測定しました。この時試験に供したシイタケは、傘がまだ開いていないボール状の冬菇(どんこ)と7~8割開いた香信(こうしん)という状態のものです。
結果では紫外線照射後は冬菇で約25%、香信では約45%もアップしていました。自然に生えている状態はもちろんですが、収穫され乾燥されたシイタケでも紫外線を当てるとエルゴチオネインは増加するということです(飯田千恵美ら 大分県農林水産研究指導センター 2019年)。
スーパーでは生シイタケや干しシイタケが売られていますが、一般の干しシイタケは温風により機械乾燥されたものです。生シイタケや干しシイタケを購入後余ってしまった場合、傘の裏側から日光を当てて天日干ししてみましょう。強い抗酸化能をもったエルゴチオネインの増加が期待されるでしょう。
キノコを食べる利点
本来エルゴチオネインはキノコにしか含まれないアミノ酸です。その一部は土中の栄養分として植物の根から吸収され、野菜・果物に取り込まれます。そしてこの植物を食べる草食動物を通して、私たちヒトやペットの体内に届きます。これは一種の食物連鎖といえます。
このように考えると抗酸化アミノ酸エルゴチオネインを摂るならば、キノコを直接食べる方が圧倒的に効率は良いことが判ります。今まで脇役的イメージがあったキノコですが、食物繊維が多く、熱に強い抗酸化成分を含むなどヒトやペットの健康維持には大変魅力的な食材でした。
間もなく暑かった夏も終わり9月10月と秋の季節に入ると、スーパーにはいろいろなキノコが出回ります。強い夏の日差し/紫外線によって酸化ストレスを受けた細胞をケアする意味からもキノコを使った食事やフードはいかがでしょうか。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。