獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「環境を守るシカ肉とダチョウ肉」

近頃はヒトもペットも健康重視の観点から赤身肉が好まれています。現在、赤身肉として注目を集めているのがジビエのシカ肉と、第4の肉と称されるダチョウ肉です。この2つの赤身肉を消費することが大きな意味で環境保護に貢献するという話をしましょう。

【赤身の肉】

赤身のイメージが強い肉といえば外国産の輸入牛肉です。肉を主食とする海外の人達にとって、量を摂るためには脂肪分は少ない方が適しているのでしょう。まずここでは赤身の正体を探ります。

肉の赤身の正体

赤色→血液→ヘモグロビンと考えがちですが、肉の赤色の正体はミオグロビンという色素タンパク質です。ミオグロビンはヘムという鉄成分とグロビンというタンパク質からできていて、この色素の量によって肉の色が決まります。ヘモグロビンは血液色素タンパク、ミオグロビンは筋肉色素タンパクとよばれ、共に酸素と結合する作用をもっています。

主要な肉とシカ肉、ダチョウの仲間であるエミュー肉に含まれるミオグロビン量を測定した報告があります(中澤洋三ら 東京農業大学 2019年)。これによると肉100g中のミオグロビン量は、牛肉・豚肉・鶏肉(約250~500㎎)に比べシカ肉(646㎎)、エミュー肉(990㎎)と大変高い値でした。シカ肉とダチョウ肉は赤身が濃いことが判ります。

赤身肉の鉄分

赤身の正体である筋肉色素ミオグロビンは鉄とタンパク質が結合したものです。したがって、赤身が濃い肉ほど鉄分を豊富に含むことになります。上記5種類の肉100gの鉄含有量は牛肉・豚肉・鶏肉(約3~5㎎)、シカ肉(10.3㎎)、エミュー肉(11.4㎎)と2~4倍もの値でした。

鉄不足はヒトでは赤血球の減少を招き鉄欠乏性貧血の原因となりますが、ペットではあまりみられません。しかし赤血球の構成ミネラルであることに変わりはありませんので、赤身肉であるシカ肉・ダチョウ肉は、ヒトとペットにとって大変有効な鉄補給食材といえます。

【ジビエとしてのシカ肉】

「ジビエ料理」という言葉をよく耳にするようになりました。ジビエとは飼育/畜産ではなく狩猟により捕獲された野生鳥獣の肉というものです。具体的にはカモ、ウサギ、クマやシカ、イノシシなどどれも赤身肉です。海外ではジビエは食文化としての意味合いが強いのですが、日本では少し違った背景があります。それは野生動物による食害です。

野生動物による食害

野生鳥獣の保護は生態系を維持する点から大切です。しかし近年保護により頭羽数が増え過ぎて街ではムクドリの糞被害、地方ではクマが住人を襲うといった事件が頻発しています。そして野生動物によって農作物や山の樹木が荒らされるといった食害が大きな問題となっています。

農林水産省の報告では、令和3年度の野生動物による農作物被害額は155億円、その内シカによるものが全体の39%(61億円)、次いでイノシシが25%(39億円)を占めるといいます。この対策の1つとして増え過ぎた野生動物を捕獲し、ジビエとして活用するという策が提唱されています。

シカ肉の食用利用率

では野生動物がジビエとして食用に利用されている量はどれくらいでしょうか?令和3年度野生動物が捕獲後に食肉用として解体された頭数はおよそ14万5,000頭、その内訳はシカが最も多く約99,000頭(68%)、イノシシは約30,000頭(21%)という事です。

この解体頭数を捕獲頭数に占める割合で見てみると、シカ(13.7%)、イノシシ(5.6%)です。すなわちジビエ(=食用)としての利用率は10%ほどしかないということになります。

ペットフードへの活用

食害が大きな問題となっている野生動物ですが、国は単に捕獲し処理するのではなく何かの産業に活用することを推し進めていて、その1つが食材=ジビエです。この数年、ジビエの利用量は2017年(1,629トン)から2021年(2,127トン)と1.3倍に増加しています。

しかしジビエ利用の内訳割合では、食用としてのシカ肉(50%→45%)、イノシシ肉(20%→17%)と伸び悩んでいます。対して順調な増加が見られるのがペットフードです。ペットフードの原材料利用率はこの5年で23%から31%へとアップしています。

国が考えるジビエ利用の2025年度目標値は4,000トンです。今後はシカ肉を中心としたジビエがペットフードや手作りフードの材料として拡がっていくことが期待されます。ジビエ、特にシカ肉を料理やフード材料として消費することは、食害対策を通して環境保護につながるわけです。

【第4の肉ダチョウ】

今回紹介するもう1つの赤身肉はダチョウの肉です。牛肉・豚肉・鶏肉の3大肉に次ぐ第4の肉としての期待を集めているのがダチョウ肉です。何の期待かというと栄養的に高タンパク質/低脂肪でヘルシーであること、もう1つは飼育における環境負荷が小さい点です。

ダチョウとエミュー

前出のデータでダチョウの仲間としてエミューが登場しました。ダチョウはアフリカを原産とする大型の鳥類で、成長すると体重は120kgくらいまでになります。エミューはオーストラリアを原産として、ダチョウよりもひと回り小さく分類上ではダチョウの1種となります。

現在日本ではおよそ10,000頭のダチョウが飼育されています。飼育頭数が多い地域としては北海道、青森、茨城、鹿児島で寒暖の影響を受けずに成長するため家畜として飼育しやすい動物です。

ダチョウの正肉量

皆さんは家畜1頭から採れる肉の量をご存知でしょうか?生体から骨や内臓・脂肪・皮などを除いた正味の肉を正肉(しょうにく)といいます。ウシは体重700kgとして約230kg、ブタは110kgで約47kg、ニワトリ(ブロイラー)は2.5kgで約1.3kgの正肉が採れます(あくまでも目安です)。そしてダチョウの場合、体重120kgとしての正肉量は約40kgといいます。

この正肉量を生体重との割合で見るとウシ(約33%)、ブタ(約43%)、ニワトリ(約53%)、そしてダチョウ(約33%)となります。肉を採るという点から見てダチョウの飼育効率は悪くないことが判ります。

飼育に適したダチョウ

肉の値段はさまざまな要因によって決まります。具体的には1年間に生まれる頭羽数、採れる肉の質、飼育期間中に与えるエサの総量などです。この中で生まれてから肉になるまでの飼育期間を比べてみましょう。

ウシ(和牛)の場合は約30か月間、ブタは約6か月間、ニワトリは50~60日間≒2か月間です(あくまで目安です)。また1頭の母親から生まれる頭数はウシで1頭/年、ブタは25頭/年くらいですので豚肉より牛肉が高いのも納得です。

これに対しダチョウは年間40羽ほど生まれ、出荷までの飼育期間はおよそ13か月間とされます。またウシ・ブタ・ニワトリはエサとして大豆やトウモロコシなどの穀物をたっぷり与えなければなりませんが、ダチョウの場合は草や食物残さでも十分に発育するといいます。ダチョウは飼育効率が良く、環境負荷が小さい家畜とされるのはこのような背景からきています。

今回は赤身肉としてシカ肉とダチョウ肉を取り上げました。1つは増えすぎた野生動物による食害対策(シカ)、もう1つは多くの穀物を必要とせず草を主体とするエサでも効率的な飼育が可能(ダチョウ)、共に「環境を守る」という大きな意味をもっています。

次回は第4の肉とされるダチョウ肉の美味しさ評価や栄養/健康機能面について紹介します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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