獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「シカ肉フードの調理法(1)」

野生動物を保護する結果、逆に増え過ぎてしまったシカをペットフード原料に活用する取り組みが進んでいます。フードメーカーは高タンパク質・低脂肪をアピールポイントとして商品開発に取り組み、手作りフード派の皆さんもシカ肉メニューにチャレンジされています。

【冷凍シカ肉】

シカ肉は冷凍状態で販売されるため、解凍時のドリップが気になります。まずは冷凍シカ肉のドリップと調理時の肉汁の漏出について確認します。

狩猟期間と冷凍保存

シカやイノシシなどのジビエ食材は野生動物ですので、猟により捕獲され解体・加工・販売されます。この猟は鳥獣保護管理法という法律によって狩猟期間が決められています

都道府県や対象動物により違いはありますが、一般に野生動物の狩猟期間は10月15日から翌年4月15日までとされています。このため、シカ肉は牛肉や豚肉のように生で販売されることはなく、冷凍状態で保存・流通されます(冷凍保存には寄生虫対策の意味もあります)。

ドリップロス

冷凍肉は調理時に解凍しなければならず、この時どうしてもドリップが発生します。このシカ肉の冷凍保存期間とドリップロスの関係について検証した報告があります(村元隆行ら 岩手大学 2015年)。シカ肉を-20℃で冷凍し14、100、200日目に解凍した時点のドリップ損失割合を測定しました。

これによると14日3.5%、100日4.2%、そして200日目では5.4%と上昇を見せました。冷凍中に細胞内の氷の結晶は成長するため、期間が長くなるほど細胞の損傷は大きくなり解凍時に水分が漏出します。ドリップロス対策としてシカ肉の冷凍期間は200日(6~7か月間)までとするのが適切と考えられます。

クッキングロス

次は解凍したシカ肉を75℃で湯煎加熱した時の肉汁漏出割合であるクッキングロスです。この割合は冷凍開始の0日、冷凍14、100、200日すべてにおいて20%前後でした。一般に生肉に比べ解凍した肉ではクッキングロスが多いとされます。しかしシカ肉では、冷凍期間に対してクッキングロスの差は見られませんでした。

解凍によるドリップロスは冷凍200日目で数値がアップしたことから、このクッキングロスも200日を超えると増加すると予想されます。以上よりシカ肉の保水性/多汁性は冷凍200日までは維持されるものと考えられます。

【シカ肉の調理】

シカ肉には特有のにおいがあります。イヌはヒトの100万倍~1億倍もの嗅覚をもっているとされるため、シカ肉フードに対する食欲はそのにおいに大きく左右されます。ここでは調理方法とシカ肉のうま味やにおいとの関係をみてみましょう。

焼き調理

焼き調理および煮込み調理をしたシカ肉と牛肉を試食し、嗜好性を比べた報告があります(磯部由香ら 三重大学 2012年)。10、20、40代の大学生および大学職員合計21人をモニターとして、試食後の感想を-2(嫌い)~0(普通)~+2(好き)の5段階評価してもらいました。

焼き調理では「軟らかさ」と「滑らかさ」でシカ肉が好評であったものの、「多汁性」「うま味」「味の強さ」「臭み」では牛肉の方が高評価でした。この調理法ではシカ肉の「臭み」は大きく不評となっていました。

煮込み調理

次は煮込み調理です。この場合も全体評価として牛肉の方が好評でしたが、ここでの注目点は「臭み」です。シカ肉の臭み評価は先ほどの焼き調理よりも大きく軽減されていました。以上よりシカ肉の調理法について次の3点が確認されました。

① 焼き/煮込み調理の両方において、シカ肉は牛肉よりも軟らかい
② シカ肉は焼き調理より煮込み調理の方が好評である
③ シカ肉の欠点である「臭み」は煮込み調理により軽減される

【焼き調理のにおい対策】

肉を焼くと美味しそうなにおいで食欲がわいてきます。しかし、シカ生肉の欠点である臭みは、焼き調理において軽減されることはありませんでした。このシカ肉のにおい問題を解決する方法はないものでしょうか?

においの評価

全員女性から成る大学生および大学職員合計8人をモニターとして、味付けをせずに焼いたシカ肉と牛肉を試食した試験報告があります(小木曽加奈ら 長野県短期大学 2014年)。シカ肉を食べた感想を牛肉と比べて弱い(1)~同等(3)~強い(5)で数値判定してもらいました。

モニター8人の焼き調理したシカ肉の評価では、「生臭い」、「血のようなにおいがある」を強いとする意見が多く、また「牛肉のような香ばしさがある」「牛肉よりも好き」とする判定もありました。やはりシカ肉は焼くと特有のにおいが現れるようです

生臭さ対策法

昔から肉のにおいを和らげたり、軟らかくする工夫としていろいろな調味料に漬け込む方法があります。次の試験ではシカ肉を牛乳、赤ワイン、酢、砂糖、シナモン、コーラ、発芽玄米酒粕に30分間漬け込み、焼いた後に試食して無処置の肉との比較を行いました。

これら漬け込み処置の中での生臭さの評価ポイントをみると、無処置(やや強い:4.38)と比較して最も低減効果が高かったものが牛乳(やや弱い:2.25)でした。

牛乳の利用

シカ肉の牛乳への漬け込み効果を詳しく確認しましょう。無処置との評価ポイントの変化では、生臭さ(4.38→2.25)、血のようなにおい(4.57→2.38)と不快なにおいが大きく軽減されています。さらに、牛肉のような香ばしさ(4.00→3.88)、牛肉よりも好き(3.25→4.38)といった元々の高評価項目でもほぼ同等または上昇するという結果でした。

このようにシカ肉の欠点である特有のにおいは煮込み調理、または事前に牛乳へ漬け込むことで焼き調理でも軽減できることが判りました。

シカ肉の生臭さ/血のようなにおいは、豊富に含まれる不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸など)の酸化や筋肉色素ミオグロビンによるものです。ともに健康機能的には摂取したい成分ですが、私たちの中にはこのにおいがネックになるという人も少なくありません。また動物・ペットにとってはこのシカ肉のにおいは逆に食欲を促進する場合も考えられます。

手作りフード派のみなさんはペットの食事反応をよく観察して生肉、焼き調理、煮込み調理などの工夫をもとにシカ肉食材の利用に挑戦してみて下さい。

(以上)

・食物アレルギーに配慮して穀物・乳製品不使用
・添加物を一切使用していません
・主食にしていただいたり、手作り食に


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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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