腎臓に関する記事(知識・食事・対策・摂りたい栄養素)

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「腎臓ケアとリンのコントロール」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
ペットの腎臓疾患にお悩みのオーナーからよく聞くテーマに「ケアフードを食べない」というものがあります。今回のテーマは腎臓ケアとP(リン)のコントロールです。

腎臓ケアフード

ペットの高齢化に伴って、腎臓病を発症する愛犬・愛猫の頭数は増えてきています。特に慢性腎臓病にはコレといった治療薬がないため、動物病院ではケアフードへの切り替えが勧められます。

食べてくれない

腎臓ケアフードの特徴は次の3点です。腎臓は血液から尿を作る臓器ですが、フード中のタンパク質やミネラルの量を減らすことにより、この時の腎臓の負荷を軽減してあげようというものです。

①タンパク質の制限
②P(リン)量の制限
②Na(ナトリウム)量の制限

私たちヒトもペットも塩分(=ナトリウム)控えめの食事はあまりおいしさを感じません。また、タンパク質の制限として肉類の含有量が少ないフードは雑食性のイヌはもちろん、肉食性のネコが食べてくれないというのも納得です。

お肉とP(リン)

P(リン)というミネラルがあります。Pは体の骨のおよそ80%を占めており、また筋肉や臓器の細胞膜の構成成分でもあります。これより、腎臓の負荷を軽減する目的でPの含有量を抑えたフードを作ろうとすれば、結果的に肉類=タンパク質を制限することになります。

しかし、タンパク質は体をつくっている元であるため、あまり減らすわけにもいきません。ここで問題です。慢性腎臓病のペットにとって悪者はタンパク質でしょうか、それともPなのでしょうか?

タンパク質 vs P(リン)

海外の研究報告で次のような実験をしたものがあります(Fincoら1992年)。

●供試犬 腎臓機能が低下したイヌ48頭
●タンパク質とPの量を調整した4種類のフードを2年間給与
フードA:タンパク質(32%)、P(0.4%)
フードB:タンパク質(32%)、P(1.4%)
フードC:タンパク質(16%)、P(0.4%)
フードD:タンパク質(16%)、P(1.4%)
●結果 イヌの生存率はフードAおよびCにおいて有意に高かった

また同様に低Pフードを与えることにより、慢性腎臓病のイヌ(Jacob 2002年)やネコ(Elliott 2000年)の生存期間が延長したという報告もあります。

このように慢性腎臓病のペットにおいて制限すべきフード成分は、肉類(タンパク質)というよりはP(リン)ということになります。

低P(リン)食材

イヌやネコの食欲を落とさないための何かPの少ないフードや食材はないものでしょうか?

肉類

ペットフードの材料となる肉類100gあたりのPの含有量を見てみると次のようになります(日本標準成分表七訂 2015年)。

○牛(もも赤肉): 180mg
○豚、馬、鹿(赤肉): 170~220mg
○鶏(もも): 150mg

脂肪分が少ない赤身やももの部分の肉では、鶏肉はPの値が低くペットの慢性腎臓病対策としてのタンパク源に適していると考えられます。

魚類

魚ではサバやアジなどの青魚はやや低い値ですが、肉類と比べると魚類全体のP含有量は高いようです。

○カツオ、マグロ、サケ: 260~280mg
○青魚(サバ、アジ): 230mg

P(リン)の吸着排除

先ほどの試験結果から慢性腎臓病のペットにおいて、制限すべき成分はタンパク質よりはPであることがわかりました。ではなんとかPだけ減らすことはできないのでしょうか。

リン吸着剤

腎臓機能が低下するとPの排出能も低下するため、血液中のP濃度が高くなる「高リン血症」になります。高リン血症では骨の代謝異常や血管の石灰化などが起こり死亡する例もあります。

この対応としてヒトの慢性腎不全では、人工透析と食事管理、そしてリン吸着剤の投与が行われます。

リン吸着剤とは食事成分のPをお腹の中で吸着して、そのまま糞便と一緒に排泄させるくすりのことです。これにより食べ物から摂取したPは腸管において吸収される量が減少するため、高リン血症を抑えることができます。

リン吸着のしくみ

リン吸着剤が食事成分のPをキャッチするしくみを見てみましょう。大きく分けると次の2つのパターンがあります。

●リンと結合して排泄
・お腹の中でPと結合して水に溶けないリン酸化合物になり、糞便と一緒に排泄させる
・主成分はカルシウムや鉄、ランタンなど

●リンを包んで排泄
・お腹の中で消化されない樹脂(ポリマー)がPを包み込み、そのまま糞便と一緒に排泄させる

両方のタイプとも胃の中でPのみをキャッチして、腸管から吸収されない形に変えてそのまま排泄させるという作戦です。

ペットのリン吸着剤

リン吸着剤は大変便利なくすりのようですが、これだけを投与していればペットの腎臓ケアは十分なのでしょうか。

フードと吸着剤の相乗効果

秋田県の開業獣医師である黒田聡史らが高リン血症のネコに対して治療を行った報告があります(2014年)。

一般的に高リン血症とはイヌ、ネコともに血中のP濃度が6.5mg/d以上の状態をいいます。黒田らが治療を行ったネコ(7か月齢)ではおよそ11.5mg/dと大変高い値でした。

このネコに対してP制限フードへの切り替えを行った結果、P濃度は約9.5mg/dに低下し、さらにリン吸着剤を併用することにより約7.5mg/dにまで減少しました。

リン吸着剤は医薬品であるためその有効性は確認されていますが、低Pフードとセットで給与することにより相乗効果が得られることが判りました。

リン吸着剤

最後に主なペット用のリン吸着剤を紹介します。これには動物用医薬品(=くすり)とサプリメント(=フード)の2種類があります。

動物用医薬品は動物病院において獣医師が投与するものです。くすりですので慢性腎不全の治療とか、尿毒素物質の吸着といった「効能・効果」が明記されています。

ペット用としては活性炭を主成分とするネコ用のリン吸着剤があります。活性炭とは多孔質(小さい穴がたくさん開いた)の炭のことで、この穴にフード中のPや毒素が吸着されるというものです。

リン吸着サプリ

現在市販されているサプリメントでは同じく活性炭の他、カルシウムや鉄を主成分としたものがあります。すべてイヌ、ネコ共に給与可能です。

法律上サプリメントはくすりではなくフードにあたります。したがって腎臓病の治療などの効能・効果は謳えませんが、その代わりにみなさんが自由に購入することができます。

ただし、サプリメントといってもお腹の中ではくすり(吸着剤)と同様のはたらきをします。いくら腎臓のケアといっても与えすぎると下痢や嘔吐などの副反応を示すリスクがありますので、購入時には獣医師とよく相談されるのが良いでしょう。

愛犬や愛猫の慢性腎臓病は、生涯にわたって付き合わなければならない疾病です。このため低タンパク質・低リンの腎臓ケアフードを与えることはやはり基本になります。

しかし、思うように食べてくれない場合も少なくありません。このような時には、比較的Pの含有量が少ない鶏肉を使った手作りフードやリン吸着剤、リン吸着サプリなどを活用するのも1つの方法です。

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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