シーズーの体に触れると柔らかな被毛の手触りが伝わり心地よさを感じます。
「シーズーの印象は?」と聞くと、「ぬいぐるみみたい」という答える飼い主さんが多いのも、あのふわふわで艶々な毛並みのせいでしょうか。
小型犬というわりにはしっかりとした体形をしていますが、それさえも包み隠してしまうようなふんわりとした被毛がシーズーの大きな魅力といえるのかもしれませんね。
さあ、今回は人気犬種シリーズの「シーズー」です。
根強い人気はいったいどこにあるのでしょうか。
いっしょに見ていくことにしましょう。
目次
シーズーってどんな犬?
※FCI:国際畜犬連盟は1911年、ドイツ、オーストリア、ベルギー、フランス、オランダの5か国で設立された畜犬団体(ケネルクラブを含む)の国際的な統括団体
シーズー誕生ストーリー
まずは、シーズーの祖先を探ると、チベット地方で飼育されていた「ラサ・アプソ」に行きつきます。
チベット僧院で飼育されていたこの犬種は「幸運を招き寄せる魔除けの犬」と称され、当時近隣諸国への貢ぎ物として雄のみが献上されていました。
この犬種は、小型犬と掛け合わせて多くの愛玩犬を誕生させたといわれています。
一方、8世紀ごろにチベットから寄贈されたチベタン・スパニエルを中国王宮内で繁殖させて誕生したのがペキニーズです。
「シーズー」は、ラサ・アプソとペキニーズと掛け合わせて誕生しました。
日本語では「シーズー」はカタカナ表記ですが、中国語では「獅子狗」と書き、獅子はライオン、狗は犬という意味を表し「ライオンのような風貌の犬」と例えられます。
チベット僧院から中国王宮へ贈られるということは、「聖なる力をもつ神の象徴」として扱われていましたので、中国でも大切に育てられ、王宮以外の犬との繁殖は禁じられていたのです。
しかし、19世紀後半に起きたイギリスとの第二次アヘン戦争(アロー戦争)で中国は惨敗し、その際、中国王宮に残っていた犬たちはイギリス軍に略奪されたり殺傷されたりしてしまい、生き残った犬たちはその後イギリス軍によってイギリス王室へと手渡され保護されました。
イギリス王室へ連れてこられたラサ・アプソ、ペキニーズなどの犬がイギリスで繁殖を繰り返し、そこで、新たにイギリス生まれのシーズー犬が数を増やしました。
こうして、シーズーはイギリス王室から一般の家庭犬として広まっていったといわれています。
イギリスからシーズーが日本にやってきたのは、1960年代です。
JKC(ジャパン・ケネル・クラブ ※1)が毎年発表する『犬種別登録数』を見ると、2000年には2位、2005年には6位、2010年には7位、2015年には7位、2018年には9位と、この20年ほどはトップ10以内にその地位を保っている根強い人気の犬種です。
※1)JKC:一般社団法人ジャパン・ケネル・クラブは、血統書を発行や、各種協議会、展覧会の開催災害救助犬、育成事業等、飼育奨励などの活動をしている団体
外見上の特徴
日ごろよく見かけるシーズーは、トリミングで短めに整えられたつやつやの被毛にちょこんと小さなリボンを付けている子たちですが、画像などを見ていると驚くほど被毛を伸ばしていて「えっ?これってシーズー?」と、目を疑うような容姿の子がいたりします。
「シーズー誕生ストーリー」にも書きましたが、シーズーはラサ・アプソとペキニーズから誕生しました。
いずれもロン毛スタイルの長毛犬で3頭とも共通点が多いのですが、とくにシーズー犬とラサ・アプソの見分けがつきにくいくらいこの2頭はよく似ているといわれています。
体格
・ずんぐりとした安定感のある体形
・体高よりも体長がわずかに長い
・太くて短い足
・足の裏が広い
・歯が小さい
顔
・垂れ耳
・クリクリとした丸い目
・マズルが短い
・下顎の出た受け口
被毛 ― 色
・成長によって被毛の色に変化がみられる犬種
・「ゴールド&ホワイト」「ブラック&ホワイト」「ブラウン&ホワイト」
・「ソリッド」(単色)や「パーティーカラー」(白色が入っていない)色のバリエーションに規制が無い
被毛 ― 長さ
・ダブルコート(上毛と下毛をもつ二層構造)
・長毛種
・被毛の伸びるスピードが速い
・下毛(アンダーコート)が厚い
・抜け毛が少ない
・ふわふわとした柔らかい毛質
・絡みやすく毛玉ができやすい
・放射状に伸びる顔面の毛
ヘアスタイルでさらにバージョンアップする表情
犬を観察していると、被毛のカットで印象が随分かわるものだと思うことがしばしばあります。
もともとは、長毛の姿を披露していたシーズーも、カットの技法が進むと丸い顔の形を活かした短めのカットをする子が増えました。
長毛を活かしたロン毛スタイルはいかにも優雅で気品あふれる表情が伝わってきますし、短いカットは活発でキュートな感じのお茶目な印象を受けます。
飾りゴムやクリップ留がアクセントとなって、シーズー犬のかわいい表情がさらにバージョンアップ。
長毛を活かした編み込みカチューシャ風のシーズー犬もいて、被毛でこれだけ表情の変化を楽しめるのもシーズーの特徴のひとつといえるでしょう。
長毛が目に触れると眼病などを招くことがあります。
その予防のためにも、目の周りの毛をカットすることでシーズーのクリクリとしたかわいい目が強調され、目力がいっそう発揮され、これは一石二鳥といえますね。
育てやすいおだやかな性格
・のんびり
・おだやか
・人懐っこい
・無駄吠えが少ない
・非常に賢い
・攻撃性が低い
・プライドが高く頑固
・気に入らない指示には従わない
シーズーは、とても飼育しやすい犬種です。
小さなお子さんのいるご家庭やご高齢のご家庭にも向いているといわれています。
しかしながら、幼犬の時にしつけを怠るとわがままな子に育ってしまいますから、根気強くしつけやトレーニングをしておきましょう。
もちろん、個体によってはおとなしい子もいれば元気いっぱいの子もいます。
それぞれの個性を活かしながら、社会性を身に付けることが大切です。
かかりやすい病気と対策
シーズーといえば、クリクリとしたかわいい瞳が印象的ですが、その一方で目にまつわる病気や怪我が多いことでも知られています。
また、アトピー性皮膚炎の発症や熱中症も……と、心配は尽きないものです。
病気をいち早く見つけてあげることも、飼い主さんの大きな役目です。
愛犬が発する小さなサインを見逃さないようにしたいですね。
では、これらの病気を具体的に見ていくことにしましょう。
角膜炎
目の中に入った異物が原因で角膜に炎症を起こす状態
被毛、ほこり、細菌、ウィルス、アレルギーなどによるもの
●症状
・涙や目やにが多くなる
・痒くて目を頻繁に触る
・痛み
・目が赤くなる
●予防・対処方法
・顔まわりを清潔に保つ
・長毛犬種のシーズーは、被毛の伸びるのがとても速いので、マメにカットする
・アレルギーは、ハウスダスト、食べものなどの何に反応しているのか検査する
・サークルや寝床などの清潔に保つ
・眼球が出ているので、目をぶつけないように気を付ける
・刺激性の強いシャンプー剤などを使用しない
・かかりつけの病院で受診し、点眼薬などの処方を受ける
アトピー性皮膚炎
体内に侵入した異物を除去しようとする働きが備わっているが、その働きや反応が過剰になると自分自身を攻撃してしまい、アレルギー症状の引き金になる
花粉、ハウスダスト、ほこり、食物などアレルギーに対して起こる
●症状
・かゆい部位を舐めたり掻いたりする
・皮膚が赤くなる
・湿疹が出る
●予防・対処方法
・アレルギー反応を起こしている物質を検査なので突き止め、その物質を避ける
・食事の素材の見直し
・内服、外用薬の使用
外耳炎
垂れ耳の犬種に多いのが外耳炎や皮膚炎
垂れた耳と被毛や皮膚の間に炎症が起こる
主な原因としては、細菌、耳ダニ、アレルギーによる皮膚疾患、耳の中にできものによる炎症など
●症状
・臭いがする
・耳の周りに汚れが溜まる
・首のあたりを痒がり頻繁に掻く
・頭を振る
・床に耳を擦りつける
・ただれる
●予防・対処方法
・耳の洗浄(通院)
・内服薬、外用薬(点耳薬など)の処方
熱中症
比較的寒さには強いが暑さに弱く、とくに高温多湿の際には注意が必要
重症化すると昏睡状態となり心不全や呼吸不全で死亡するケースもある
●症状
・体温の上昇
・呼吸困難
・よだれ
・吐血や下血
・けいれん
●予防・対処方法
・クーラーの使用し室温を一定に保つ
・室内や車中など直射日光の当たる密室状態の環境に置かない
・夏場の散歩は、早朝や夕方、夜間など気温が下がった時を見計らって行う
・初期の熱中症の場合は、体温を下げるために水を飲ませたり保冷剤などを使って体を冷やしたりする
・重症化の場合は、すぐさま受診する
その他のかかりやすい病気
●短頭種気道症候群
鼻腔狭窄:鼻の穴が狭いため呼吸が難しく、口を開けたまま呼吸する回数が多くなる
軟口蓋過長:口の奥にある軟口蓋が伸びると、いびきをかきやすく重症化すると呼吸不全を招く
気管虚脱:気管の軟骨や気管周辺の筋肉が弱くなり気管が潰れて呼吸不全を招く
シーズーのように短頭種の犬種の場合は、呼吸が上手にできないことがあり息が荒く呼吸困難や激しいパンティングなどの症状をみせます。
呼吸するときにゼイゼイと音を鳴らしたり、いびきがひどかったりする場合などは要注意。
症状がある場合は、散歩や激しい運動は控え、高温多湿な時期の温度調節が必要です。
●白内障
老犬になると白内障を患う個体も多くなってきます。
水晶体が濁ることによって視界がぼやけて見えづらくなります。
散歩中、もしくは室内でつまずいたりぶつけたりしやすくなります。
そのような場面が多くなったと感じたら、病気を疑ってみることも大切ですね。
飼育のワンポイント
散歩
一日30分程度の散歩で十分をいわれていますが、個体それぞれの様子を見ながら回数や時間や距離の加減しましょう。
気温の高い日中や雨降りの日の散歩を避けたり、車の往来の多い場所は控えたりしましょう。
あまり散歩が好きではないという子もいますが、散歩は景色の移ろいを感じたり、他の犬と出会ったりするよい機会です。
食事
シーズーは食欲旺盛な犬種です。
太ると動きが鈍くなるので散歩を嫌がることもあり、運動量と食事の量のアンバランスから肥満を招きやすくなります。
肥満体型になってしまうと、心臓病、糖尿病、関節炎、免疫力の低下といった病気を招くリスクが高くなります。
生後約1年前後でたいていの犬は成長期を迎えるのですが、この時期は食欲と体重の増加が著しい時期で、脂肪細胞が増え肥満になりやすい体質を作ってしまう時期といえるでしょう。
また、7~8歳ごろになるとシニアと呼ばれる老犬時期に入り、運動量もどんどん減るため、肥満になる割合がグーンと増えるのです。
体重の増加は関節部分に負担をかけますし、成長期に肥満になると股関節形成不全になる可能性が高くなります。
そのようなリスクを減らすためには、何よりも消化の良い食事を与えることです。
食べものに含まれるタンパク質や脂肪、ビタミン、ミネラルの栄養分をスムーズに消化吸収できることが、免疫力の高い体作りに役立ちます。
良質なタンパク質を摂取し、乳酸菌や酵素を取り入れた食事で肥満対策をしましょう。
ドライフード中心の食生活から消化吸収の良い生肉や野菜、果物を含む食事に変えていくことで、肥満の予防に繋がります。
愛犬の体型が気になる飼い主さんは、まず食事の見直しからはじめてはいかがでしょう。
手入れ
シーズーの被毛をロン毛にしている場合は、ブラッシングはできれば毎日行いましょう。
長毛の場合、ブラッシングをする際に静電気を起こし切れ毛になってしまうことがあります。
シャンプーやリンスにはできる限り自然派のもの、また、切れ毛の予防にはブラッシング用のスプレーを使用して被毛を保護しながら手入れをしてあげましょう。
短くトリミングしている場合でも、ブラッシングは血行をよくするうえでも大切です。
お手入れのときこそ、皮膚の状態を見る良い機会ともいえます。
シーズーは垂れ耳のうえ、耳の中にも毛が密集しているので蒸れて細菌も発生しやすく外耳炎にかかりやすいです。
お手入れの際には、耳を持ち上げて皮膚炎を起こしていないかをチェックしましょう。
ただし、耳の中のお手入れはゴシゴシと強くかき回したりせずに、濡れタオルやウェットティッシュなどでやさしく拭き取る程度にしておきます。
住まいの環境
・つまずく、ぶつける
家の中は意外と危険なものがいっぱいです。
先の項でも書きましたが、シーズーは目が出ているので目をぶつけることが多いです。
床に転がっているものにつまずいたり、物の角にぶつけたりして怪我をしますから、床には物を置かないことや、角のあるものにはカバーをして保護することをお勧めします。
意外と多いのが、ゴミ箱につまずいた拍子にゴミが散乱し「誤飲」という二次被害。
犬の天敵となるプラスティックやお菓子などの食べカス、危険なものなどが含まれていることがあります。
ゴミ箱の中身はその都度、空にして誤飲の無いようにしましょう。
・高低差
ソファー、オットマン、テーブルなど高低差を気にせずに上り下りしたり、飛び跳ねたりします。
また、抱きかかえた腕の中からすり抜けて落下することもあります。
とくに老犬になれば足腰が弱くなってきますので、部屋の中にはなるべく高低差のある物を置かないようにしましょう。
・滑る
犬はふつう肉球と爪でしっかり踏ん張って体を支えているのですが、滑る床材ではそれができません。
また、それに加えてジャンプしたり、ソファーや椅子から飛び降りたりすると、着地時に足を滑らせて捻挫したり骨折したり、膝蓋骨脱臼という膝の骨(お皿)の位置がずれてしまうケースや「股関節形成不全」などを起こす危険性があります。
犬が床を滑るということは、実は大変な足腰への負担なのです。
フローリング素材の床には、タイル状のフロアマットやカーペットを敷いて対処しましょう。
シーズーをとおして考える
シーズーの見た目を比喩することばに
「頭部はライオン、骨格はクマ、足はラクダで動きは金魚」
「尾は羽箒、耳は椰子の葉、歯は米粒、舌は真珠のような花弁」というのがあります。
ひとつひとつの言葉を頭に中に描くと、「そういえば」と納得してみたり、「そうかなあ」と首をかしげてしまったり。
その中の「足はラクダ」という言葉を調べていると、ラクダの足の裏は平たいということを知りました。
それは、山岳、高原、砂漠などで人や荷物を運ぶ際に、しっかりと足を踏ん張って歩けるための足裏の形です。
チベットで交配されたシーズーもそのような環境の中で生き抜いていける遺伝子をラサ・アプソやペキニーズから受け継いだのでしょう。
今や300種類を超える公認の犬種もそうですが、長い歴史を経て人間の労働の役に立つ犬種から愛玩犬・家庭犬として、個性を求め人間の好みに合う犬種などが作出されてきました。
外見の美しさ、愛らしさに加え、個性を求めれば求めるほど、作出される犬種たちには弱い因子をもった子が誕生する確率が高くなります。
犬の祖先はオオカミです。
オオカミからかけ離れた容姿の犬ほど、遺伝的な弱点を備えている子が多いということも知っておきたいですね。
今回「かかりやすい病気」のところで取り上げたのは、ほんのごく一部の病気です。
近年では、犬も人間と同じように癌、心臓病、糖尿病などの病気が多く発症するようになりました。
知り合いのシーズー犬は、2頭飼いをしていたのですが、肝臓や心臓を悪くして1頭は若くして亡くなり、もう一頭の方はもうすぐ15年目を迎えようとしているそうです。
老犬となった現在では心臓も弱ってきたそうです。
寝ている時間もめっきり増えたこともあって、毎日心拍数を測り様子をみつつ暮らしているとのことです。
老犬用のフードを与えたり手づくり食を作ったり、歯磨き用のガムもソフトに変えたりと、年齢に応じた育て方を飼い主さんがしっかり学んで実践していることが話の端々から受け取れました。
人も犬も、命ある限り……深い愛情に包まれながら暮らし続けたいですね。
帝塚山ハウンドカムのネットショップ
愛犬に生肉を与え続けて10年の川瀬隆庸が監修
代表取締役 川瀬 隆庸
- 社団法人 日本獣医学会 正会員 会員No.2010172
- 財団法人 日本動物愛護協会 賛助会員(正会員)No.1011393
- ヒルズ小動物臨床栄養学セミナー修了
- 小動物栄養管理士認定
- D.I.N.G.Oプロスタッフ認定
- 杏林予防医学研究所毛髪分析と有害ミネラル講座修了
- 正食協会マクロビオティックセミナー全過程修了
愛犬の健康トラブル・ドッグフード・サプリメントなどアドバイスをいたします。