毎年夏を迎えると、熱中症対策として水分補給の大切さがアナウンスされます。私たちヒトは1日におよそ3リットル、夏場は4~5リットルの水を飲んでいるといわれますが、この中にはご飯や料理、味噌汁など食事の水分量も含まれています。同様にペットにとってもおいしいスープを使ったフードは有効な水分供給策の1つです。
目次
【うま味成分】
料理に使うダシやスープがおいしいと食事が進みます。これはペットも同じでしょう。ではこの「おいしさ」の正体とは何でしょうか?
3大うま味成分
おいしさとは味覚・嗅覚・視覚など五感を通して総合的に感じるものですが、その味覚の中に「うま味」があります。私たちが感じるうま味の代表としてグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸という物質があり、これらは3大うま味成分と呼ばれています。ではこの3つを簡単にまとめてみましょう。
○グルタミン酸
グルタミン酸はアミノ酸の仲間です。幅広くいろいろな食材に含まれており、中でもコンブのうま味として有名です。またキャベツやニンジンなどの野菜にも含まれていて、近頃よく耳にするトマトのうま味もこのグルタミン酸です。
○イノシン酸
イノシン酸は肉や魚といった動物系の食材に含まれる成分です。身近なダシとして鰹ダシがありますが、このかつお節のうま味がイノシン酸です。イノシン酸の正体は動物細胞の中の核酸物質です。
○グアニル酸
グアニル酸といってもピンときませんが、干しシイタケのあのうま味です。グアニル酸も核酸物質の1つで、シイタケやマッシュルームなどキノコに特徴的に含まれています。
うま味の相乗効果
テレビで料理番組を見ていると、和食ではコンブとかつお節/干しシイタケ、洋食では肉・骨と香味野菜といった組み合わせでダシがとられています。これを先程のうま味成分で考えるとグルタミン酸×イノシン酸、グルタミン酸×グアニル酸となります。
このようにダシやスープのおいしさは、うま味成分単独よりも組み合わせることによりぐっと強くなります。これを「うま味の相乗効果」といいます。なおスープを作る時の香味野菜としてネギやタマネギがよく使われますが、これらはペット(特にイヌ)には使用NGですのでご注意下さい。
【鶏がらスープ】
洋食では味付けを行う前のベースになるダシをスープストックといいます(ちなみにフランス語ではブイヨンです)。このスープストックの材料には硬いすね肉や骨が使われますが、このような食べられない部分にうま味成分が含まれているのでしょうか?
牛すね肉vs 鶏ガラ
よく使われるスープストックの材料に牛すね肉と鶏ガラがあります。この2つの材料におよそ3倍の水を加え、120分間煮込んで作ったスープのうま味成分を測定したデータがあります(柴田圭子ら 女子栄養大学 2007年)。
これによると両方のスープ中にはグルタミン酸、イノシン酸が抽出されており、どちらかというと鶏ガラの方に多くのうま味成分が含まれていると報告されています。鶏ガラはしっかりとおいしいスープがとれる材料ということが判ります。
鶏ガラの栄養成分
鶏ガラとは鶏を解体して胸肉やもも肉などを取った残りの骨の部分で、元の重量の17%程度を占めています。骨といってもスジや軟骨、骨髄などスープとしてのうま味の元になる部分はたっぷり残っています。
鶏ガラの栄養分は全体の65.3%が水分、タンパク質(18.3%)、灰分/ミネラル(7.4%)、脂肪(1.4%)となっています。意外とタンパク質が多い感があります。そして、うま味成分であるグルタミン酸は全遊離アミノ酸の19.1%を占めています(木村友子ら 椙山女子学園大学 1997年)。
脂肪分が少なくタンパク質/アミノ酸が多い鶏がらスープは、淡白なおいしさが特徴になります。いろいろな手作りフードのスープストックに鶏ガラが利用されているのも納得といったところです。
【鶏がらスープを作る】
このような話をしていると、だんだん自分で鶏がらスープを作ってみたくなります。では鶏ガラからおいしさを最大限引き出す温度と時間はどれくらいが良いのでしょうか?前出の木村はグルタミン酸およびその他のうま味成分の最適抽出条件を調べています。
グルタミン酸の抽出
まずはグルタミン酸です。鶏がら100gに5倍量の水を加え、煮出し温度を60℃、80℃、98℃として時間ごとの抽出量を測定しました。この結果、温度は高いほど、時間は長いほど多くのグルタミン酸が抽出されることが確認されました。
これよりグルタミン酸の効率的な抽出条件は、沸騰前の温度98℃で煮出し時間は1時間程度であることが判ります。
イノシン酸の抽出
次はイノシン酸です。イノシン酸もグルタミン酸と同様に温度が高いほど多く抽出されましたが、時間を長くしても抽出量に大きな変化はありませんでした。これはイノシン酸の特徴のようです。
調理作業のことを考慮すると、効率的なイノシン酸の抽出条件も沸騰前の98℃で1時間程度と考えられます。
ヒドロキシプロリンの抽出
うま味とは別に、鶏ガラがもつ健康成分にコラーゲンがあります。コラーゲンは動物の皮膚や骨・軟骨・スジなどに含まれている繊維状のタンパク質です。
コラーゲンは加熱によりゼラチンになりますので、これらを一緒に測定するは少々困難です。そこで考え出されたのが、コラーゲンやゼラチンに特徴的に含まれているヒドロキシプロリンというアミノ酸の量をチェックするという方法です。ヒドロキシプロリンの10倍量がコラーゲンやゼラチン相当量となります。
では鶏ガラからの抽出量を見てみましょう。グルタミン酸やイノシン酸の場合とやや異なり、ヒドロキシプロリンが最も多く抽出されたのは煮出し温度が80℃で1時間という条件でした。
以上の試験結果をまとめると、鶏がらを5倍の水量で沸騰させず少し手前温度×1時間の煮出しというのがおいしく、コラーゲンたっぷりの鶏がらスープがとれる条件といえるでしょう。
下処理の方法
ダシやスープを作る場合に気になるのが臭みです。したがって骨からスープをとる前には臭みを取るひと手間が大切です。最後に下処理と鶏がらスープのにおいとの関係についての実験結果を見ておきましょう(安達町子 長崎県立女子短期大学 1994年)。
●鶏がらの下処理方法
1) 30秒間流水で洗浄する
2) 熱湯をかける
3) 30分間水に浸漬する
4) 1分間沸騰水で下ゆでする
●スープの作成
…下処理鶏がら+水5倍量+香味野菜(ネギ、ショウガ)
…沸騰後、弱火で60分間加熱
●香気の測定 不快臭成分(2,4-デカジエナール)を測定
以上4つの下処理を行い作成した鶏がらスープの臭みを測定した結果、3)30分間の水浸漬(13ppb)と4)1分間の下ゆで(20ppb)が効果的に臭みを抑えることが判りました。頑張って作った鶏がらスープの食事を愛犬が食べてくれなかったら悲しくなりますのでみなさんもぜひお試し下さい。
新型コロナウイルスの影響で外食ができず、自宅で料理をするという方が増えています。本格的に鶏ガラでおいしいスープを作ってみようと考えるオーナーも少なくないでしょう。
今年の夏は全国各地で大雨が降り、例年のような暑い日が毎日続くといった感じではなさそうですが油断は禁物です。これからの残暑を元気に乗り切るためにもペットにはしっかりとした食事と水分補給をさせたいものです。その1つの方法としておいしいスープを使った手作りフードはいかがでしょう。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。