獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「ストレスで消費されるビタミンC」

現在、ペットは室内飼育が主流になっており、ヒトと愛犬・愛猫は同じ時間を同じ空間で過ごしています。オーナーの皆さんが毎日の生活において何かのストレスを感じる場合、一緒に暮らしているペットも同じ思いをしているかもしれません。今回はストレスと栄養素の関係を探ります。

【食事メニューとストレス】

よく「バランスのとれた食事」といいます。これはタンパク質、脂質、炭水化物の3大栄養素に加え、ビタミンとミネラルを加えた5つの成分が過不足なく含まれているメニューということです(近頃はこれに食物繊維が加わります)。ここでは野菜類が不足する食事がメンタル面に及ぼす影響について見てみることにしましょう。

野菜の摂取とストレス

女子大学生20人(平均年齢19歳)を対象に次の食事メニューを1週間食べてもらい、その期間中の心身状態と血液検査を行った報告があります(金子佳代子ら 女子栄養大学 1985年)。

○メニューA 
…必要な栄養所要量を満たしているが、野菜・果物・芋類を含まない
○メニューB 
  …必要な栄養所要量に加え、野菜を通常の2倍以上含む

一週間後の感想を聞き取ったところ、メニューBを食べたグループからは良好な睡眠や目覚め、お肌の吹出ものの解消などのコメントがありました。これに対してメニューAグループでは元気や活力の低下、イライラの増大などの回答がありました。野菜類が不足するメニューは大きなストレスを招くようです。

食事メニューと血中ビタミンC

次に被験者の血液検査を行った結果、両グループの間に総タンパク質量の違いはありませんでした。しかし試験開始前と終了後のビタミンC濃度(㎎/dl)を比べてみると、メニューAグループでは1.1→0.7と減少していたのに対して、メニューBグループでは1.1→1.3と増加が確認されました。

このように野菜・果物・芋類が不足している食事メニューを摂り続けていると体内のビタミンC濃度が低下し、これにより心身はストレス状態に陥ることが判ります。

【ストレス適応ホルモン】

野菜や果物が足りない食事を摂り続けると、日常生活ではやる気が低下したり、イライラ感が高まるようです。ではこのストレス下で体の中では何が起こっているのでしょうか?

ビタミンCとストレスの自覚

東京家政大学の猪俣美和子らは女子大学生14人(平均年齢21歳)に上記の食事メニューA(ビタミンC量110.7㎎)、B(ビタミンC量287.3㎎)を6日間食べてもらい、人為的にストレスをかけて体内のあるホルモン分泌量を測定しました(1992年)。

この試験でのストレス負荷は小学生向けの計算問題を1日合計6時間×3日間行うというものです。そして期間中に感じた体がだるい、頭がぼんやりするなどの心身状態をスコア化してこれをストレス度としました。

結果として次の3点が確認されました。
①通常生活ではAグループの方がストレス度は高い
②単純計算という負荷をかけると両グループともにストレス度はアップする ③負荷期間中、両グループのストレス度に大きな差は見られない

このように私たちは特別な負荷がかかっていない生活をしていても、何かしらのストレスを感じています。しかしビタミンCをたっぷり摂っているとそのストレスは軽減されることになります。

ストレスとホルモン

私たちヒトやペットは1日の生活において、何かに興奮・緊張しているか、またはゆったりとリラックスしているかどちらかの時間を過ごしています。例えば愛犬が散歩をしている時は興奮状態、食後うとうとしている時はリラックス状態ということです。

興奮すると心拍数・呼吸数・血圧などが上昇しますが、これは交感神経が作動してアドレナリンなどのホルモンが分泌されるためです。ストレス状態では脳は不健康に興奮しているため、同様に各種ホルモンが血中に分泌されます。これをストレス適応ホルモンといいます。

今回の試験では女子大学生に小学生向けの計算問題を1日6時間行うという負荷を与えています。この時、尿中に排出されるストレス適応ホルモンの1つであるノルアドレナリン量を測定したところ、Bグループでは負荷初日に一気に上昇していました。

ストレス適応ホルモンの役目は興奮・緊張状態から私たちの体を守ることです。さまざまなストレス負荷がかかった時に素早くこれを緩和し、元の状態に戻す働きをしています。そしてこの適応ホルモンを合成する時にビタミンCが必要になります。

悪いストレスと良いストレス

ストレス=心身の健康に悪いものというイメージがあります。このためストレス解消法としてペットと一緒に散歩やスポーツを楽しむ、また近場へ旅行に行くというオーナーもおられるでしょう。ではこの時、本当にストレスは解消されているのでしょうか?

先ほどストレスの指標として尿中ノルアドレナリン量を測定しました。東京家政大学の添野尚子らはいろいろな活動がどれくらい身体にストレスを与えているかを次のような試験で調査しています(1992年)。

●被験者 女子大学生8人(年齢21~22歳)
●活動
・連続計算 …小学生向けの計算問題を合計6時間実施
・寒冷刺激 …顔だけを室温4℃の部屋で合計6時間冷却
・遊園地 …ジェットコースターなどに合計3時間搭乗
・小旅行 …電車移動による1泊旅行
●測定項目
 ストレス自覚、尿中ノルアドレナリン量

何も行わない対照時のストレス自覚ポイント(10.71点)と尿中ノルアドレナリン量(226.2μg)を100として、上記4種類の活動後の値を相対比較しました。すると遊園地での遊びや1泊旅行といった活動ではストレスの自覚は低いものの、ノルアドレナリン分泌量は意外と多いことが確認されました。

ストレスには単純作業などの悪いストレスと、散歩や軽いスポーツなどの良いストレスがあります。実は脳としてはどちらも同じく興奮・緊張状態に陥っています。この時、その回復のためにストレス適応ホルモンが分泌され、そして体内のビタミンCが消費されています。

【体内のビタミンC】

動物は日々何かしらの活動をしている時、それが嫌なことでも楽しいことでも脳は興奮しストレスを感じています。ストレスからの回復のためにビタミンCが使用されますが、体内にはたくさんのビタミンCをためておくことはできません。

ビタミンCの排出

ビタミン剤を飲むと尿が黄色くなります。これはビタミンBやCは水に溶けるため、一定以上量は尿中に排出されるためです。私たちが病院で治療や健康維持目的でビタミンCの投与を受ける際、注射と経口の2ルートがあります。ではどちらの方がビタミンCは長く体内に留まるのでしょうか?

神奈川栄養短期大学の照内淳也らが女子大学生(18~22歳)を対象に行った試験によるとビタミンC 300㎎を静脈内注射した時、尿中排出量ピークは投与1時間後、排出率は約70%でした。対して同じ300㎎を経口摂取した場合では排出ピークは4時間後、排出率は約45%となっています(1959年)。

このようにビタミンCは食事やサプリメントとして口から取り入れた方がゆっくり吸収され、ゆっくり排出されます。注射に比べると即効性は劣るものの体内に長く留まるため、ストレス適応ホルモンの合成のように常時必要とされる場合には経口摂取が有用と考えられます。

ビタミンCの補給

私たちヒトやサルはビタミンCを体内合成できないため、必ず食事を通して取り入れなければなりません。対してイヌやネコは合成可能な動物ですが、その能力はさほど高くなく体重1kgあたり40㎎程度とされています。

ビタミンCの体内用途は抗酸化、抗老化、コラーゲン合成、発がん物質の生成抑制など多岐に渡り、老化に伴い消費される機会は増えてゆきます。したがってヒトは、野菜や果物を通してビタミンCを毎日補給する必要があります。そしてこれは体内合成が可能なイヌやネコにもいえることです。

室内飼育されているペットはオーナーと一緒に毎日同じ時間を過ごしています。生活する中でこの両者は、楽しく過ごしている時も何か困った時も常にストレスを感じ、そして体内のビタミンCは消費されます。私たちが栄養バランスの良い食事を摂る必要があるのと同様に、愛犬・愛猫にも不足するビタミンCを与えることには大きな意味があります。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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