ようやく全国的に梅雨明けし、一気に熱い毎日になりました。新型コロナウイルス感染症も落ち着きを見せ、大いにペットとの夏休みを楽しみたいところですがやはり気になるのが熱中症です。今回はヒトよりもペットは熱中症に弱い動物であるという話をしましょう。
【体温上昇のしくみ】
熱中症とは体温の調節機能が働かず、体内の主要臓器が高温により機能低下することで起こる障害の総称です。ではなぜ夏場は体温の調節が利きにくくなるのでしょうか?
外気温と体温
熱は温度の高い方から低い方へ移動し、そして温度差が大きいほど移動量も多くなります。イヌの体温を38℃、冬の外気温を10℃とした場合、温度差は28℃もありますから熱は体からどんどん奪われます。しかし実際は代謝熱などの産生と被毛の保温作用により体温は一定に保たれます。
対して真夏の外気温を35℃とした場合、その差は3℃ほどしかなく熱の移動量はほんの僅かです。イヌは生きている限り代謝熱や運動によって熱を産生するため、体温はじわじわ上昇します。しかし放熱量は冬のように多くないため、体温が41℃以上に達すると熱中症を発症するということになります。
体温上昇:生体要因
体温が上昇する理由を考えてみましょう。体内では常に熱エネルギーが産生されていて、これには基礎代謝熱と骨格筋の運動による熱の2つがあります。基礎代謝熱とは何もしないでごろんと横になっている時の体温、筋運動による発熱は走った後の体温と考えると判りやすいでしょう。
これに加えてペットでは被毛の作用が大きく関わります。全身に密に生えている被毛には、体内で産生された熱を外に逃がさないように保つ働きがあります。このため夏場は放熱しにくく体温はどんどん上昇します。
体温上昇:環境要因
夏の散歩は大人よりも子供やペットにおいて負荷が大きいといわれます。それは直射日光や気温など環境に由来するものの中で、地面からの輻射熱ダメージが大きいためです。
輻射熱とは地面から伝わる熱のことですので、地面と体の距離が近いほど多くの熱=暑さを感じることになります。芝生の公園よりアスファルト道路、大型犬より小型犬の方が熱は伝わりやすく、その分体温上昇リスクが高くなります。
【体温を下げるしくみ】
次に夏場の高い体温を下げるしくみを考えてみましょう。体の中から外への放熱には蒸気として逃がす方法(蒸発性)と、皮膚から直接逃がす方法(非蒸発性)の2つがあります。そしてここでもヒトとペットでは大きな違いがあります。
蒸発性の放熱:呼吸、発汗
蒸発性の放熱には熱く湿った息を激しく吐く呼吸があります。これは運動時に行われますが、イヌの場合ではパンティングにあたります。舌を大きく出してハッハッハッと呼吸することで体温を逃がしています。
もう一つは発汗です。汗を作る汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺の2種類があり、体温を下げるサラサラの汗はエクリン腺から分泌されます。ヒトは全身にエクリン腺が分布していますがイヌには肉球部分しかないため、全身で汗をかいてその気化熱により一気に体温を下げることはできません。
非蒸発性の放熱:皮膚
筋肉を動かすことで発生した熱は血液に移動し、温まった血液は血管を経由して全身の皮膚に届きます。血液中の熱は皮膚の毛細血管から皮膚を通り直接外部に逃げます。これが非蒸発性の放熱です。しかし、ペットでは全身の被毛が邪魔をして熱が逃げにくくなっています。
このようにペットは全身で発汗しないため気化熱による放熱ができず、加えて被毛が皮膚からの直接的な放熱を阻害するため、夏場の体温調節はパンティングのみということになります。結果として産生された熱は体内にこもりやすく、熱中症リスクが高いといえます。
【熱中症の応急処置】
熱中症は経過が速いため初期対応の遅れは命に係わります。これはヒトもペットも同じであり、症状を確認した場合は体を冷やすことが第一です。身体の冷却法としては、体の外から冷やすルートと中から冷やすルートの2つがあります。
主な冷却方法
体外冷却法にはアイスバス(冷水浴)やアイスパック(保冷剤)、その他に扇風機などがあります。ここでもペット特有のハンデ:不利として被毛があります。すなわち、体の外から皮膚や内臓を冷やす時に被毛が邪魔になるということです。
また体内冷却ルートでは給水や経口補水液、アイススラリー(シャーベット)、アイスキャンデーなどがあります。これらを与える場合には、意識が残っていてペットが自分から補給できることが条件になります。
有効な体外冷却法は?
熱中症のペットを体の外から冷やす方法の効果と実用性を見てみましょう。なお、冷却効果は被毛を考慮して体表(皮膚)と深部(筋肉や主要な内臓)に分けて評価しました。
最も簡単な方法は扇風機を使った送風ですが、これは主に汗の気化熱を利用するものですのでペットには適していません。被毛がある体表はもちろん、発熱部位である筋肉や熱ダメージを受ける内臓といった体の深部まで素早く冷やせるのはアイスバス(冷水浴)です。
有効な体内冷却法は?
次に体の中から冷やす方法について確認します。この場合は食べやすく/飲みやすく、糖分を含み十分に冷えているものとしてアイススラリーがあります。アイススラリーとはシャーベットのようなもので、果汁を含んだものは甘く糖分やビタミンも含まれていて応急処置に適しています。
先ほども述べましたが、アイススラリーや経口補水液はペットに意識がないと食べてくれませんので、緊急対応というよりは夏場の運動後に与える熱中症予防策と考えた方が良いでしょう(なお、与えすぎはお腹を壊しますのでご注意です)。
アイスバス実施時の注意点
アイスバスは緊急性を要する場合にとても有効な対処方法ですが、2つ注意すべき点があります。1点は気管内に水が入らないようにすることです。アイスバス利用時のペットは意識がほとんどない状態ですので、誤吸引しても咳やくしゃみで水を吐き出せません。
2つ目は冷却のし過ぎにより体温の低下が止まらなくなることです。これをアフタードロップ現象といいます。アイスバスを行う時は必ず同時に動物病院へ連絡をとり、水温や冷却時間の目安を聞きながら実施すると失敗がありません。
またアイスバスには専用のバスタブは必要ありません。小型犬ならバケツやコンテナ、中型犬ならプラスチック製の衣類ボックスなどで代用できます。
連日テレビでは35℃を超える猛暑のニュースが流れます。熱中症対策は私たちはもちろん、一緒に生活しているペットにとっても重要課題です。しかしペットは①全身で発汗できない ②全身を被毛が覆うという2つのハンデ:不利をもっているため、どうしても熱中症に弱い動物ということになります。
年々暑い期間が延びています。昔は秋と言っていた10月は近頃では残暑真最中です。あと3か月間はみなさんオーナーもペットたちも十分注意して生活して下さい。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。