病気に関する記事

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「フードを活用したてんかんケア」

以前、ペットのてんかんについてお話したことがあります。てんかんは脳神経が短時間過剰に興奮する病気でけいれんを主症状とします。てんかんの治療には抗てんかん薬が用いられますが、近年はこれに加えて食事面からもケアしようとする試みが報告されています。

【愛犬のてんかん治療】

てんかんには脳腫瘍など脳自体に原因がある症候性てんかんと原因が不明な突発性てんかんの2種類があります。ここでは簡単にイヌの突発性てんかんの治療について確認しましょう。

てんかんの自宅治療

突発性てんかんと診断された愛犬が発作を起こした場合、基本的には短時間で回復するため経過を観察します。しかし、次のような重症/緊急状態であればオーナーが投薬を行い、至急動物病院での処置を受けます。

・1回の発作が5分以上続く(発作重積)
・1日に数回以上の発作を起こす(群発発作)

このように動物病院で行う緊急治療に対し、自宅で行う処置を維持治療といいます。原因が判らない突発性てんかんではオーナーによる維持治療が数年から生涯にわたるとされます。

新しいてんかんケア

いつ発作が起こるか判らないペットのてんかんケアは、自宅での経過観察と坐薬を用いる維持治療が主体になります。そこでなんとか重症化しない=発作頻度を抑えるために、近年食事療法が注目されています。具体的にはDHAとケトン食です。

オメガ3脂肪酸の仲間であるDHAは高齢ペットの認知機能を維持・回復させる機能性食材として広く紹介されていますが、ヒトやイヌのてんかん発作を軽減させる試験報告があります。そしてもう1つはケトン食というものです。このケトン食は一般には認識は低いのですが、実はヒトのてんかんの食事療法として長い歴史があります。

【DHAとてんかん】

DHA(ドコサヘキサエン酸)は青魚や魚油に含まれるオメガ3脂肪酸の1種です。このDHAとてんかん発作との関係データを見てみましょう。

オメガ3脂肪酸の作用

薬物治療が効かないてんかん患者(5~45歳)を次の3グループに分けて、発作頻度に対するオメガ3脂肪酸の作用を確認した研究報告があります(海外文献 2018年)。

・対照群 …プラセボ(ヒマワリ油)を摂取
・試験群
DHA群 …DHA(417.8㎎)+EPA(50.8㎎)を含むカプセルを摂取
EPA群 …DHA(81.2㎎)+EPA(385.6㎎)を含むカプセルを摂取

上記の試験品を患者に1年間摂取してもらい、1か月あたりの平均発作回数を比較したところ、対照群(16.6回)、DHA群(11.7回)、EPA群(9.7回)という結果になりました。オメガ3脂肪酸であるDHAやEPAにはてんかんの発作頻度を低減させる働きがあるようです。

DHAと愛犬のてんかん

このようにヒトのてんかんケアとしてDHAが有用であるという報告に対して、今年イヌの突発性てんかんにおいての試験データが発表されました(米澤智洋ら 東京大学 2023年)。

米澤らは1か月に2回以上のてんかん発作を起こすイヌ6頭(2~9歳)にDHAサプリメント(50~100㎎/kg)を6か月間給与し経過を観察しました。6頭中試験を完了した4頭について、ひと月あたりの発作回数を調べると3~6回→0~1回に減少、中には試験開始前45回/月の発作を起こしていたものが11回まで減少したものもいました。

DHAの安全性

この試験で良好な結果が得られたのは、通常のイヌ用DHAサプリメントよりも用量が多く、かつ長期間にわたり給与した点にあると考えられています。これを受けてイヌに対するDHAの安全性を確認する目的で6か月間の試験期間中の体重変化と血液検査を実施しました。

結果では期間中、体重や全身状態、各種血液検査の値に異常は認められませんでした。以上の成績から高用量のDHA給与は安全性に問題はなく、イヌの特発性てんかんの発作頻度を減らす可能性があると考えられました。

【ケトン食とてんかん】

ヒトのてんかんケアとしてケトン食というものがあります。ケトン食とはケトンという食材を食べるという意味でなく、糖質(ブドウ糖)を減らし脂質を増やして体内で「ケトン体」という物質を作らせる食事メニューをいいます。(詳細は次回説明します)

ヒトてんかんへの活用

難治性のてんかん患者54人に1か月~最長7年間のケトン食療法を実施した研究報告があります(小国美也子ら 東京女子医科大学 2009年)。この試験では開始前の発作発生頻度が50%以上改善されたものを「有効」と評価して改善率を算出しました。

結果は摂取1か月後(約42%)、6か月後(約40%)、1年後(約35%)となり発作発生の改善が確認されました。なお、摂取期間が長くなるにつれて改善率が減少傾向をみせたのは、体内でのケトン体生成量が少しずつ減少するためと推察されています。

イヌてんかんへの活用

では愛犬のてんかんに対するケトン食の働きを見てみましょう。突発性てんかんのイヌ21頭にプラセボ食とケトン食フードを3か月間入れ替え給与し、発作頻度を比較しました(海外文献 2015年)。

まずひと月あたりの発作回数でみると、プラセボ群(対照群)が2.67回であったのに対しケトン食フード群は2.31回と減少しました。またケトン食フード群において50%以上の発作減少率を示すものを有効とする改善率は47.6%でした。

ひと月あたりの発作日数ではプラセボ群1.69日、ケトン食フード群1.64日でした。同様にケトン食フード群における改善率は33.3%でした。このようにヒトおよびイヌにおいてケトン食はてんかん発作を軽減する作用があるとことが確認されています。

イヌの突発性てんかんの発症率は1~2%、そして軽度なものは短時間で回復し命に別状はないとされています。しかし原因が判らないため根本的な治療法はなく、自宅での対症療法/維持治療が生涯続くことになります。これはオーナーの立場として大きなストレスです。

今回は薬ではなく栄養面からペットのてんかん発作を軽減する可能があるDHAとケトン食を紹介しました。今後、これらを活用したてんかんケアのフードやサプリメントが開発・実用化されることを期待します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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