ペットのてんかんケアは病院からもらった薬(抗てんかん薬)を自宅で使用する維持治療が何年も続きます。対してヒトの難治性てんかんではケトン食という食事療法があります。今回はまだまだ聞きなれないケトン食のペットへ応用の可能性を探ります。
【ケトン食】
ケトン食とは体内で「ケトン体」という物質を通常よりもたくさん作らせる食事というものです。まずここでは、てんかんとケトン食との関係について簡単に説明しましょう。
てんかん治療
今から100年ほど前はまだ抗てんかん薬はなく、患者がけいれん発作を起こした場合、自然に回復するのを見守るしかありませんでした。1911年にフランスで数日間絶食を行ったところてんかんの発作が抑えられたという発表があり、続いて米国でも患者に絶食を行わせると症状が改善したと報告されました。
実は絶食がてんかんに効くというのは、古代ギリシャ時代から伝わる民間療法です。この絶食をもとに極端に炭水化物(糖質)を抑え、代わりに脂質を高く設定するという食事療法が考案されると同様の抗てんかん効果が得られました。これがケトン食の始まりです。
その後、抗てんかん薬の使用が広まるとケトン食は一時下火になりますが、1970年代に脂質源として中鎖脂肪酸(MCT)を活用した改良型ケトン食が開発されました。するとこれが投薬でも治らない難治性てんかんに有効であるという報告があがり、現在再びケトン食が注目されています。
ケトン体とは?
炭水化物を抑えたケトン食によって体内で生成されるケトン体とはいったいどういうものでしょうか。その前にまず脳が働くためのエネルギー源について確認しておく必要があります。
よくテレビや雑誌で「ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源です!」といわれています。通常の食事ではブドウ糖は米飯やパンなどの炭水化物が消化分解されて作られます。しかし、飢餓や絶食状態ではこの炭水化物が入って来ないため脳へのブドウ糖供給が減少します。
このままでは脳の活動が止まってしまうため、緊急事態用のエネルギー源としてケトン体という物質が使用されます。いわばケトン体は第2のエネルギー源であり非常用バッテリーといった役割のものです。そしてこのケトン体の原料が体内の脂肪や食事内容の脂質(脂肪酸)というわけです。
ケトン食の内容
ではケトン食の内容を確認しましょう。私たちが一般に摂っている食事の3大栄養素割合はおおよそ脂質(14%)、炭水化物(68%)、タンパク質(18%)とされています。これを脂質g:[炭水化物g+タンパク質g]=4~3:1に変更し、総エネルギー量も75~85%に制限したものがケトン体の栄養内容になります。
炭水化物が極端に少ないためにブドウ糖は減少し、代わりのエネルギー源として脂質から大量のケトン体が作られます。このように絶食に似たような状態にする栄養内容がケトン食です。なおケトン食だけでは他の栄養分が不足するため総合ビタミン剤やカルシウム剤を併用しますが、食事療法中の間食は禁止とされています。
ちなみに市販のドッグフードの栄養素割合は平均して脂質(15%)、炭水化物(60%)、タンパク質(25%)とヒトの食事とほぼ同じですので、これをそのままケトン食フードに変更するとてんかん犬には大変な負担が発生すると考えられます。
【ケトン食療法の効果】
食事内容としてとてもハードなケトン食ですが、てんかんに対してどれくらいの効果があるのか、またどのような機序で発作を抑えるのでしょうか。
てんかん発作の減少
海外の研究論文によるとケトン食療法を1年間実施したてんかん患者の発作減少率は50%以上減少(18~50%)、90%以上減少(10~27%)、そして発作の完全消失(5~10%)とのことです。
大変良好な成績ですが、ケトン食を1年間継続できた患者割合は33~55%と全体の半分以下でした。やはり栄養内容が厳しいために長続きしない点がケトン食療法の大きな問題のようです。(この点は再度後ほど紹介します)
作用のしくみ
ケトン食の摂取によって体内のケトン体が増加すると発作頻度が低下することは確認されていますが、その根本的な理由には不明な点があります。現在までに考えられているケトン食の作用機序として次のようなものがあります。
①エネルギー制限
…エネルギー源であるブドウ糖を低減することで、脳の過剰な活動(=興奮)を抑える
②グルタミン酸の低減
…神経を興奮させるグルタミン酸の放出をケトン体が抑制する
③GABAの増加
…神経活動を抑えるGABAの産生をケトン体が増加させる
④DHAの増加
…抗けいれん作用があるDHAの血中量をケトン体が増加させる
【MCTを利用したケトン食フード】
このようにてんかん患者やてんかんペットのオーナーの方々には活用価値が高いケトン食・ケトン食フードですが、いくつかの改良すべき問題点があります。
ケトン食の問題点
ケトン食が抱える問題点を簡単にいうと『栄養リスクがあり長続きしない』となります。ではもう少し詳しく見てみましょう。
問題点1)長い実施期間
手術や投薬と比べて食事療法とは時間がかかるものです。ケトン食有効事例の約90%は開始1か月後に何らかの反応が確認されるといいます。これより3か月間で効果判定を行い、結果が良好な場合は2~3年を1つの実施期間とします。
問題点2)副作用の可能性
一般の食事と比べてケトン食には栄養素割合に大きなムリがあるため、幼い子どものてんかん患者にとっては成長障害が予想されます。また低炭水化物からの血糖値の低下や、極端に多い脂質により高脂血症のリスクもあります。
問題点3)低い継続性
脂質g:[炭水化物g+タンパク質g]=4~3:1という極端な栄養素割合で作った食事は美味しくなく(=低嗜好性)、メニュー数も限られマンネリ化するといわれます。このため食事の楽しみが薄れ、長期間のケトン食療法を途中でギブアップする事例が少なくありません。
MCTケトン食
栄養面や継続面の問題の根本は脂質が多すぎるという点です。脂質の割合を増やす理由は体内で生成されるケトン体量をアップさせるためでした。そこで考え出されたのが脂質として中鎖脂肪酸(MCT)を利用するというアイデアです。
脂質(脂肪)はグリセリンと脂肪酸からできており、この脂肪酸の中で炭素(C)数が6~12のグループを中鎖脂肪酸、これより少ないものを短鎖脂肪酸、多いものを長鎖脂肪酸と呼んでいます。中鎖脂肪酸を豊富に含む油がMCTオイルでその代表としてココナッツオイルがあります。
中鎖脂肪酸が体内でどれくらいケトン体が生成されやすいのかを調べた次のような研究報告があります(海外文献 1969年)。
●被験者 健常者14人
●グループ
中鎖脂肪酸群 …MCTオイルを体重1kg当り1g摂取
長鎖脂肪酸群 …コーン油を 〃
上記の条件の下、各オイル摂取前のケトン体量を100としての相対量を算出したところ、中鎖脂肪酸群は摂取1時間ほどで数倍のケトン体が生成されました。これより中鎖脂肪酸を取り入れることで効率よくケトン体が得られ、美味しさやメニューのバリエーションも増えててんかんの食事療法が長続きすることが期待されます。これがMCTケトン食です。
現在、ケトン食を取り入れたドッグフードが発売されており、中鎖脂肪酸源としてココナッツオイルが用いられています。もちろんフードですので「てんかん発作治療」は謳っていませんが、何かしらの良好な反応が期待されます。
てんかんをもつペットのケアは一生涯続きます。少しでも発作頻度を抑え生活の質(QOL)を維持向上させるために、今後ケトン体の考え方や中鎖脂肪酸/MCTオイルを活用したフード、サプリ、おやつの開発が待たれます。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。