てんかんをもつペットの自宅ケアにケトン食フードを活用するという考えが広まっています。これは体内で作られたケトン体に脳の過剰な興奮を抑える働きがあるためです。さらに近年は中鎖脂肪酸を活用したMCTケトン食の健康機能に関する研究が進んでいます。
目次
【がんケアとMCTケトン食】
がんはヒトやペットの死因の上位に位置している病気です。がんの治療には外科療法、放射線療法、化学療法の3つがありますが、この化学療法(抗がん剤の投与)にケトン食療法を併用するという考えがあります。
がん細胞のエネルギー源
がん細胞とケトン食の関係を見てみましょう。がん細胞は正常な細胞に比べて増殖スピードが速いということはよく知られています。このためエネルギー源として大量のブドウ糖を必要とします。
がん患者が一般の食事をしていると、ブドウ糖は正常細胞とがん細胞の両方に消費されます。しかしがん細胞は大量のエネルギー源を取り込むため(正常細胞の数倍~数十倍といわれています)、結果的にブドウ糖はがん細胞に独り占めされてしまいます。
ここで炭水化物(糖質)を制限するケトン食を実施します。するとブドウ糖を補う形としてケトン体が生成されますが、がん細胞はこのケトン体をエネルギー源として利用することができません。これより形勢は逆転し、正常細胞が優勢となりがん細胞は減少してゆきます。ケトン食はがん細胞の増殖スピードを10~20%遅くするとされています。
ケトン食の抗がん作用
進行再発性の大腸がん患者を抗がん剤投与群(14例:平均年齢70.1歳)と抗がん剤+MCTケトン食併用群(10人:平均年齢63.5歳)に分けて治療を行った報告があります(古川健司ら 東京都保健医療公社多摩南部地域病院 2018年)。
がん治療の効果判定には寛解(がん徴候の消失)、奏功(状態の改善)、
安定(状態の変化なし)、進行(状態の悪化)の4つがあります。これにより両群患者1年経過後の治療成績を見ると、抗がん剤単独群では寛解は確認されませんでしたが、抗がん剤+MCTケトン食併用群では全体の50%が寛解という結果でした。
抗がん剤とケトン体
ここで抗がん剤とケトン体の役割を整理しておきましょう。抗がん剤は細胞が増殖する時のDNA合成を阻害します。そのターゲットは増殖活動が活発な細胞であるため、がん細胞の他に体の正常な細胞にまで作用してしまいます。
対してケトン体はブドウ糖の代替エネルギー源です。正常細胞と違いがん細胞はこのケトン体を利用できないため、ケトン食を長期間摂取するとエネルギー切れを起こしやがて死滅してしまいます。ケトン食はがん細胞のみをターゲットとした兵糧(ひょうろう)攻めという作戦です。
このように抗がん剤だけでなく、中鎖脂肪酸を利用したMCTケトン食を併用する治療方法によりがんが改善(寛解・奏功・安定)されることが期待されます。
【認知機能とMCTケトン食】
加齢により脳の認知機能が低下することは避けられません。しかし近年、脳の活性化にケトン食が良い成果をあげるという試験結果が確認されています。
血中ケトン体量の増加
2016年に㈱明治からMCTケトン食が高齢者の認知機構を向上させるという研究結果がリリースされました。これによると認知症ではない高齢者にMCTケトン食(中鎖脂肪酸を含む)と対照ケトン食(長鎖脂肪酸を含む)を別の日に食べてもらいました。
それぞれの試験品摂取後の血中ケトン体濃度を測定したところ、MCTケトン食の方がケトン体の生成量は格段に高いことが確認されました。前回にも紹介した通り、中鎖脂肪酸は素早くケトン体に変換されるということです。ではこの結果が脳の認知機能とどのような関係があるのでしょうか?
認知機能の改善作用
認知機能テストには「作業記憶」や「実行機能」といったものがあります。作業機能とは行動を起こすために必要な情報を一時的に脳に保持する働き、実行機能とは目的をもって活動を成し遂げる働きとされています。
2つのテスト結果ならびにこれらをまとめた総合認知機能の成績を見ると、対照ケトン食群よりもMCTケトン食群の方が高ポイントでした。これは加齢により脳はメインエネルギー源であるブドウ糖の利用能力は低下しますが、代わりとしてケトン体を利用するためと考えられています。
以上より中鎖脂肪酸から成るMCTケトン食は摂取後90分や180分といった短時間で高齢者の脳を活性化し、認知機能を改善させる作用があることが判りました。
【ココナッツオイルの利用】
私たちの一般の生活において、正式なケトン食を準備するのはハードルが高すぎます。しかし少しでも利用価値の高いケトン体を体内に作り出したいものです。そこで現在提案されているのが中鎖脂肪酸を毎日の食事・フードに取り入れるというアイデアです。
中鎖脂肪酸が豊富なオイル
脂肪酸とはあぶらを構成する物質であり、炭素数が6~12のグループを中鎖脂肪酸、これより多いものを長鎖脂肪酸と呼んでいます。そして中鎖脂肪酸(MCT)を豊富に含む油としてココナッツオイル、長鎖脂肪酸が多い油には一般の食用油があります。(一般食用油とはサラダ油、大豆油、ナタネ油のことです)。
ではココナッツオイルは現在どれくらいの使用実績があるのでしょうか?日清オイリオグループ㈱が2018年に行った消費者調査(全国の20代~60代女性対象、1189サンプル)によると使用している油のトップ3は次のようなものです。ココナッツオイルはというと使用実績4.4%で第8位という結果でした。
・第1位 一般食用油(78.1%)
・第2位 ゴマ油(70.4%)
・第3位 オリーブオイル(69.9%)
大切なのはここからです。一般食用油とココナッツオイルに含まれる脂肪酸割合を比べると、使用実績第1位の一般食用油(数値は大豆油)はおよそ85%が長鎖脂肪酸です。対してココナッツオイルは脂肪酸全体の約60%は中鎖脂肪酸(MCT)から成っています。
ココナッツオイルの魅力
食事やフード作りは毎日のことですので、油の購入の決め手は使いやすさや価格です。上記の調査の中で使用中の油の購入きっかけは何ですか?という質問があります。一般食用油の購入理由トップは「料理の使い勝手が良い」次に「価格が安い」となっています。
ではココナッツオイルの購入理由は何でしょうか。理由のトップは「健康によさそう(79.1%)」、次いで「味や風味が好き(36.1%)」、「好きな料理に必要(25.6%)」となっていました。ココナッツオイルは毎日の料理に使用される割合はまだまだですが、その利用者は高い健康意識をもっているようです。
内容が厳しく継続率が低いケトン食をマイルドに改良したMCTケトン食には、てんかんの他にがんの改善や高齢者の脳機能の活性化といった作用が確認されています。これらは「治療」ですので病院でのしっかりとした指導が必要です。
対して毎日の健康管理/高齢化対策の1つとしてケトン体の生成を促進する中鎖脂肪酸を食事・フードに取り入れることは可能です。今回は中鎖脂肪酸を豊富に含む食材としてココナッツオイルを紹介しましたが、まだあまり普及していないようです。ペットの健康ケアとしてフードショップでココナッツオイルを使った商品を探してみましょう。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。