新しい年を迎えました。昨年から続き今年はさらにAI(人工知能)を活用した機械やロボットの開発が進むと思われます。これから私たちの身の周りにもロボットが普及してゆくことになりますが、ではペットはロボットと良い関係を作れるのでしょうか?
目次
【自宅にロボットがあれば…】
「ロボット」という言葉が初めて登場したのは100年以上前の1920年です。そもそもロボットの語源は「労働」という意味だそうで、これが転じて「人の代わりに働いてくれる機械」=ロボットとなりました。
20年前のアンケート
今から20年ほど前、1,097人を対象にロボットに対する認識調査が行われています(日刊工業新聞社、NTTレゾナント 2005年)。この中で「自宅にあれば便利だと思うロボットは?」という質問があり、回答のトップ3は第1位:清掃ロボット(76.1%)、第2位:洗濯ロボット(42.8%)、第3位:炊事ロボット(40.5%)でした。
当時最も多かった要望は「自動で自宅の掃除をしてくれるロボット」でしたが、これは現在「ロボット掃除機」として普及しつつあります。ちなみに日本国内でロボット掃除機が発売開始されたのはアンケート実施前年の2004年でした。
やって欲しいペットの世話
「あなたが留守中にロボットにやって欲しいペットの世話は何ですか?」とイヌ飼育経験者97人へ質問した結果報告があります(鈴木もとこ 電気通信大学 2016年)。これによると希望する世話の第1位はトイレの掃除、第2位エサやり、第3位遊び相手となっています。
近頃は少人数の家族や1人暮らしのペットオーナーが増えています。仕事や買い物などで留守中の家の中はペットだけという家庭は少なくありません。このような場合も家庭用ロボットがあれば一番やって欲しいことは「掃除」のようです。さて皆さんの要望は何でしょう?
【ロボットに対するペットの反応】
自動の給餌機・給水機、ライブ観察できるカメラなど、1人暮らしオーナー用のペット商品はすでに販売されています。これからいろいろ便利な家庭用ロボットが登場すると思われますが、ペットはロボットをどのような存在として捉えているのでしょうか。
ロボット掃除機
発売当初は贅沢品と思われていたロボット掃除機ですが、購入を希望する人は年々増えているようです。部屋の中で稼働するロボット掃除機に対するペットの反応を調査したおもしろい報告があります(鈴木もとこ 電気通信大学 2016年)。
供試犬はロボット掃除機を見たことがないイヌ5頭(0.5歳~7歳)です。ソファー、テーブル、テレビなどがある7畳の部屋にイヌを1頭だけにしてロボット掃除機を稼働させカメラで観察しました。
結果ではロボット掃除機に自分から近寄り関心を見せるイヌ1頭、自分から接近しない無関心のイヌが1頭、残り3頭は怖がって逃げまわりロボット掃除機とは30cm~1mほどの距離をキープするというものでした。またロボット掃除機が後ろから近づく場面では、5頭すべてが逃げるという反応が見られました。
追加試験として興味を示した供試犬Aに対してロボット掃除機の上におもちゃやおやつを乗せて観察したところ、より積極的にイヌの方から近づいてくるという行動も見られました。
初めて見る動き回る機械・ロボットに対してペットが警戒心を持つのは至極当然のことです。何事にも慣れは大切なことであり、おもちゃ・おやつといった興味を引くようなものを上手く活用することによりロボットに対するペットの恐怖心は小さくなる可能性があります。
ボール遊びロボット
鈴木はボール遊びをしてくれるヒト型ロボットへのイヌの反応についても報告しています。一般の飼育犬17頭(0.5~9歳)を対象にロボットがボールを転がし、それをイヌが咥えて返すという遊びを10回行いました。
結果としてイヌの反応は一緒にボール遊びをする9頭(10回中9.88回返却)と遊ばない8頭(10回中0.375回返却)の2グループに分かれました。イヌはオーナーとのボール遊びがとても好きというイメージがありますが、やはりヒト型とはいえ見慣れないロボット相手では遊ばないイヌがいるということです。
【ペットとロボットの良い関係】
ペットの世話をしてくれるロボットへの期待が膨らむ中、ペット側の反応は必ずしも良いとは言えない感があります。ではどのような工夫をすればペットはロボットに対して親近感をもつようになるのでしょうか?鈴木の試験報告の続きを見てみましょう。
遊んでくれるロボット
ペットの親近感評価として「どちらから先にエサをもらうか?」という確認方法があります。先ほどの実験でボール遊びをしたイヌ9頭に対して次の様な試験を行いました。
(A)10回一緒にボール遊びをしたロボットの前にエサを置く
(C)何もしないロボットの前にエサを置く
すると供試犬はロボット(A)から先に10回中平均6.22回、ロボット(C)から先に平均3.66回エサを食べました。これより一緒に遊びを行うという世話をしてくれるロボットに対してイヌは親近感をもつということが判ります。
エサをくれるロボット
ロボットと一緒にボール遊びをしなかったグループのイヌがいました。この中から7頭を用い、同じようにロボット(A)(C)のどちらから先にエサを食べるかを確認しました。この場合の結果では(A)が10回中平均4.125回、(C)は平均5.75回となりました。遊びに興味がないイヌにとってはどちらのロボットにも親しみを感じないようです。
最後にロボット(A)の代わりに少量のエサやりを行うロボット(B)を設定し同様の実験を行いました。すると(B)から先に10回中平均6.142回、(C)から先に平均3.857回食べるという結果になりました。
このようにボール遊びに興味を示さなかったイヌでも、エサ・おやつを与えるという世話を行うロボットには親近感を抱くようになることが判りました。
ペットが親しむロボットは?
ペットとロボットの関係に関する研究報告はまだ多くありません。今回はすでに実用化されているロボット掃除機とヒト型ロボットに対するペットの反応を紹介しましたが、これにはポジティブなもの(親近感)とネガティブなもの(恐怖感)の2パターンがありました。
まずロボットに対してポジティブ反応を引き出すには、遊び相手をすると良いということでした。しかしペットの中にはロボットとの遊びに興味を示さないものもいます。こういう場合はエサ・おやつを与えるという世話をすることで多くのペットはロボットに対して親しみ・親近感を持つことが判りました。
対してロボットへのネガティブ反応対策のポイントは、急に動かない/視界にない後方から近づかないという事でした。これはロボットに限らず私たちヒトでも同じことで、ペットが驚くような急な動きをしないということが大切です。
今年以降、本格的に家庭用ロボットが普及してくる時代に入ると思われます。ロボットが家事の一部を代行してくれると私たちはとても楽になりますが、ペットがいる家庭ではいろいろな心配事も予想されます。ペットが怖がらず安心して一緒に生活できるような機能をもつロボットの開発が期待されます。
(以上)
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。