これから普及が進むと思われるペット型ロボットについて紹介しています。ロボットはあくまでも機械ですが、動きや音声、外観などが改良され本物の動物に近づいてくると、やがて生きているような感覚を覚えるといいます。今回は、ロボット型ペットはコンパニオンアニマルのように私たちの幸福・健康に貢献できるのかについて考えます。
目次
【ペット型ロボットと幼児】
私たちはペット型ロボットを見た時、生き物ではなく機械であると認識します。これはイヌやネコといった本物の動物の生態をよく見聞きしており、ロボットとの違いを知っているためです。では見聞経験が少ない幼児がペット型ロボットと接した場合、これを何者と理解するのでしょうか。
幼稚園児の反応
幼稚園の年中児(平均年齢5.0歳:28人)と年長児(平均年齢6.0歳:26人)を対象として、2人1組でイヌ型ロボットと5分間遊んでもらい、その様子を観察した報告があります(藤崎亜由子ら 大阪経済法科大学 2007年)。
両グループ共に全体の約85%の幼児はロボットに話かける、約70~85%がなでるといった興味を示しました。これらの対応を取るまでの時間(初接時間)は年中児が99.6秒、年長児が68.4秒と初めてイヌ型ロボットを見て1~2分で交流を開始することが判りました。
この実験で興味深いのは、ロボットが設定された動きをとった場合に幼児が後退するという反応を見せることです。その割合は幼い年中児の方が75%、年長児でも54%という高い値でした。幼児の半数以上は動くイヌ型ロボットに対して警戒感を示すということです。
生きていると思うか?
5分間イヌ型ロボットと遊んだり触れ合ったりした後、幼児たちに「生きていると思うか?」と質問しました。その結果、年中児(64%)、年長児(46%)、トータルで54人中30人(56%)が「イヌ型ロボットは生きている」と回答しています。生きていると感じた理由は「動くから」でしたが、同時に「動くロボットである」と認識する幼児も半数いました。
この実験を行った藤崎は、幼児は動くイヌ型ロボットを本当に生きているとは思っていないが「生きているような気がしている」とまとめています。すなわちイヌ型ロボットは生き物(ペット)と非生き物(おもちゃ・機械)のちょうど境界上に存在するものとして捉えられていると考えられます。
【ペット型ロボットと成人】
幼稚園児のおよそ半数は動くペット型ロボットを生き物と感じているようです。ではいろいろな知識・経験を身に着けた大人はこれを単なるおもちゃと評価しているのでしょうか?
反応するロボットと活気
大学生13人(男性7人、女性6人:平均年齢20.7歳)に小型犬ロボットと5分間触れ合ってもらい、その後の気分がどのように変化するかを調べた報告です(大森慈子ら 仁愛大学 2014年)。
実験はテレビに風景画像を映した部屋で行われ、小型犬ロボットとの触れ合い条件は次の3パターンとしました。
a)反応ありロボット(首を動かす、吠えるなど)
b)反応なしロボット(動かない)
c)小型犬ロボットなし(テレビ映像を見る)
実施前後の被験者の精神的変化を総合的に数値化して評価したところ、男女共に反応する小型犬ロボットとの触れ合い後のみ、「活気」を感じることが判りました。
心があると感じるか?
では本題の大人はペット型ロボットに命を感じるか?という試験結果をみてみましょう。成人男女12人(21~33歳)に自宅でイヌ型ロボットと7日間生活をしてもらいました。なお、被験者はペット飼育経験あり(8人)、経験なし(4人)の内訳で、全員イヌ型ロボットと関わったことのない人たちです(足立絵美ら 奈良女子大学 2006年)。
試験終了後、「イヌ型ロボットを生きていると思うか?」と質問したところ、12人中5人(42%)が「思う、少し思う」、「イヌ型ロボットに心があると感じるか?」には半数の6人(50%)が「感じる、少し感じる」と回答しています。
見識ある20~30代の成人であれば、スイッチを入れれば反応し切れば動きが止まるという事は十分理解しているはずですが、1週間も一緒に生活するとイヌ型ロボットに感情移入する人がいるようです。
成人の感想
次いで「今後、イヌ型ロボットをペットとして飼いたいか?」という質問には12人中4人(33%)が「飼いたい、少し飼いたい」と答えています。被験者のおよそ1/3がこのロボットをペット=生き物として成立すると評価しました。
被験者12人はイヌ型ロボットをペットとして認める肯定派と受け入れられない否定派に分かれました。それぞれの代表的な感想を聞いてみると肯定派では「かまってやれなくて悪く感じた。」「私のことを飼い主と思ってくれているのかなと思う。」否定派では「生きている感じがせず、愛着も興味もわかなかった。」「困った。何者として扱っていいか判らない。」とありました。
このように動くイヌ型ロボットはヒトに活気を与え、生きているような感じがするものの、本物のペットと比べるとやはり何か違和感があるといえます。
【ヒトの健康への貢献】
ペットを飼っている人は健康であるという話をよく聞きます。これは毎日の世話や散歩をすることで体を動かし、脳を刺激するためと考えられます。ではペット型ロボットもまたヒトの健康に関与するのでしょうか。
愛着度とオーナーの健康
私たちの健康には身体的健康(体調)と精神的健康(生活の幸福感)の2つがあります。ペット飼育がオーナーの健康状態に及ぼす影響についての調査報告を見てみましょう(杉田陽出 大阪商業大学 2003年)。
愛犬オーナー428人(男性206人、女性222人)にペットへの愛着度と自分の健康度合いを聞き取りし数値化してその関係性をまとめましました。なおこの時の愛着度とは次のような内容です。
・ペットは孤独感や寂しさを癒してくれる
・世話をすることで規則正しい生活ができる
・ペットは自分を必要としている
・ペットを通じて家族や周囲の人間関係が広がる
・ペットは私の生きがいである など
結果は身体的健康では男性、精神的健康に関しては男性女性共にペットへの愛着度が高いオーナーほどより健康であるというものでした。単にペットを飼うことと、愛情をもって飼育することとは別であり、毎日の世話や触れ合いがオーナーの身体的/精神的健康に関与することが判ります。
健康への貢献
今回紹介した試験データを基に、オーナーの健康への貢献という点からペットとペット型ロボットを比べてみましょう。まず命の有無についてペットはもちろんですが、幼児/成人の一部の人はペット型ロボットに「命や心があるように感じる」という結果でした。
しかし根本的な違いとして、生きているペットに対しては世話をしてあげなければならないという責任感が生まれます。スイッチを入れればかわいいしぐさをし、切れば動かなくなるというロボットではこの感覚はありません。毎日の世話や責任感はやがて喜びに変わり、オーナーの精神的健康にペットは大きく貢献しているのです。
シリーズでペット型ロボットと私たちヒトとの生活に関して述べてきました。命を預かるという点でヒトとペットには強いつながりが生まれ、共に健康で幸福な毎日を送っています。また近年ではペット型ロボットを病気・ケガ・認知症の高齢者のリハビリに活用することでセラピー効果が得られるという事が判ってきました。
これからはペットおよびペット型ロボットと上手に付き合うことにより、私たちヒトのQOL(生活の質)がますます向上することが期待されます。
(以上)
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。