少し前の回で猫ひっかき病やオウム病などペットに由来する感染症には、ヒトに特徴的な症状が確認されるものの、当のペットたちは無症状というものが多いとお伝えしました。これよりズーノーシス(人獣共通感染症)の対応策ではペットの定期的な健康チェックはとても大切です。
【ペットの定期健診】
私たちは働いている会社を通して、または自主的に年1回の定期健康診断を受けています。ではこれと同じようにオーナーの皆さんはペットにも定期健診を受けさせていますか?
受診率
全国のペットオーナー412人(愛犬愛猫オーナー各206人)を対象にした調査によると、かかりつけの動物病院があるとする割合は93%だそうです。(株式会社朝日エル 2021年)。ペットにとってかかりつけ動物病院の存在は定期的なワクチン接種や病歴のデータ管理、フード/栄養情報など健康管理にとても有用であることは間違いありません。ではペットの定期健診受診率はどれくらいでしょうか。
調査結果では「定期的に健康診断を受けさせている」という回答は全体の39%、「不定期ではあるが受けさせている」も同じく39%でした。全体の80%近くのペットは定期または不定期ながらも動物病院で健康診断を受けているようです。
受診頻度
定期健診の受診頻度を見てみましょう。年に3回以上(17%)、2回程度(28%)、1回程度(54%)となっており、全体の半分近くのオーナーは1年に2回以上の割合でペットに健康診断を受けさせています。
なお年2回以上とする受診頻度の割合は2017年(30%)以降上昇しています。これは近年のペットの健康への関心の高まりや健康診断の重要性が認識されてきたことによるものと考えられます。
【健康診断の満足度】
私たちが人間ドックや健康診断を受け、「異状なし」の判定が出るとほっと一安心します。しかしこの判定結果と検診の「満足度」とは別問題です。そこには検査費用や医師からの説明の判りやすさなどが関係します。このことは動物病院でも同じです。
受診のきっかけ
アンケートではペットに定期健診を受けさせるようになったきっかけについても質問しています。受診のきっかけの第1位は動物病院からのすすめ(39%)、次にペットが年をとったため(16%)、ペットに病気の徴候を見つけたため(16%)となっています。
第2位のペットの加齢を受診のきっかけとする回答ですが、7歳以上で見てみるとイヌは30%、ネコでは40%と数値がぐっと上昇します。ペットの高齢化の備えとして、7歳をケア開始年齢の目安にするという考えが広まっているようです。
満足度
健康診断に対するオーナーの満足度を見てみましょう。結果では非常に満足している(12%)、やや満足している(53%)、どちらともいえない(29%)、あまり満足していない(5%)となっており満足割合は全体の65%でした。
60%を超える満足評価を得ている健康診断ですが、過去数年の割合は低下傾向を示していました。(非常に+やや)満足とする回答割合は2016年に71%もありましたが、その後低下し2019年には59%まで落ちていました。そして調査を実施した2020年に65%まで持ち直しました。
背景には新型コロナのペットへの感染懸念があったのかもしれません。ペットの健康被害の確認や外出自粛/運動不足による肥満の影響など、健康診断を通して獣医師との情報交換が活発になり、これが満足度アップの一因と考えられます。
ではここで満足/不満足の評価理由を確認しましょう。満足とする理由では「検診対応が親切・丁寧である」や「検診結果の説明などが判りやすく獣医師が信頼・安心できる」というものでした。
対して満足/不満足のどちらともいえないとする理由は「検診料金が妥当かわからない」、不満足では「検診費用が高い」とする回答がありました。同時に行われた費用調査では検診1回あたり5,000円未満(29%)、5,000~1万円未満(49%)とのことでした。手術などの治療に比べて健康診断では触診・問診・視診・聴診が主体となるため割高と感じるのかもしれません。
【動物病院の選び方】
今回紹介しているアンケートでは調査対象のオーナーの内、かかりつけの動物病院があるとする割合は全体の93%でした。ではこの人達は何を基準にしてその病院を選んだのでしょうか?
病院選択のポイント
ペットオーナーが動物病院を選ぶ時のポイントを調査した報告が3つほどありましたので紹介します。
○農林水産省/消費・安全局(2009年調査)
○大阪商業大学 杉田陽出(2012年調査)
○株式会社朝日エル(2020年調査)
これらの報告の中でオーナーの回答割合が上位にあるものをまとめると次のようになりました。
●自宅から近い
●獣医師やスタッフが信頼できる、評判が良い
●診療時の説明が判りやすい
●高い医療技術がある
実はこれらの結果は私たちが医療機関を選ぶ時の理由と一致しています。平成23年に健康保険組合連合会が実施した調査によると、かかりつけ医をもつ471人がその医師に決めた理由の上位は次のとおりです。
○自宅から近く通院に便利(72.6%)
○医師の人柄がよい(45.6%)
○病歴や健康状態をよく知っている(42.3%)
○病気や治療についてよく説明してくれる(36.1%)
ヒトの医療機関もペットの動物病院も、通院に便利であることや医師/獣医師への信頼性が病院選択の大きなポイントであることは間違いありません。
3つの選択基準
帝京科学大学の柳澤 綾らは、動物病院の選択基準では獣医師、動物看護師、病院の3因子が大きく関与していると述べています(2023年)。まず獣医師に関しては高い医療技術をもっているか、オーナーに判りやすい診療説明を行っているか、そして信頼できる人柄であるかという点です。
動物看護師に対してはホスピタリティが求められます。ホスピタリティとはホテルなどの接客業でいうところの「おもてなし」のことですが、動物病院では「オーナーへの心配り」という意味になります。また動物看護師には単なるサービス力だけではなく、しっかりとした獣医学の知識も重要です。
そして病院については環境や設備です。待合室の雰囲気や医療設備の充実、救急/夜間対応などに加え、自宅からの距離も大きな因子といえます。
一見健康そうに見えるペットでも、オーナー家族にさまざまな健康被害をもたらすズーノーシスの感染源である場合があります。また逆にオーナーが保有する微生物がペットに感染する(例えばヒトの口内細菌がキスによりペットにうつる)可能性もあります。
ヒトとペットの両者の健康維持のためも信頼できる動物病院を選び、病気の早期発見・早期治療につながる定期健診の活用をお薦めします。
(以上)
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。