愛犬愛猫の診療や定期健診など、ペットの健康を守るために動物病院は必要不可欠です。動物病院を選ぶポイントでは、高い診療技術やスタッフの信頼性と並んで自宅からの距離も大きなウエイトを占めていることを前回報告しました。これらに加えて獣医師とオーナーの考え方が一致していることも重要です。
目次
【ペットの動物病院】
オーナーの皆さんが利用されている動物病院ですが、全国に何軒くらいあるかご存知ですか?また近年ペットの飼育頭数が減少している中、動物病院は増えているのでしょうか、それとも減ってきているのでしょうか?
動物病院数
動物病院を開業する場合、都道府県に届出を行います。これを集計した農林水産省の報告によると、ペット診療を専門とする動物病院数はおよそ12,000軒、またペットショップは約20,000軒です。
なお参考までですが、全国にあるコンビニは約57,000軒、一般診療所(ベッド数20未満のいわゆるクリニック)は約10万軒ですので、動物病院は私たちがお世話になるクリニックのおよそ1/10の軒数というイメージです。
増え続ける動物病院
現在全国に12,000軒ほどあるペットの動物病院ですが、最近15年間の数値の推移を見てみましょう。平成20年では約10,000軒、これが10年後の令和元年には約12,000軒にアップしています。そしてその後5年間は微増傾向を示し、令和5年では12,707軒となっています。
また動物病院で診療を行う獣医師数の割合は、1人が全体の62.7%、次いで2人(19.9%)、3人(6.3%)です。このようにペットの飼育頭数が減少する中、獣医師1~2人の小規模動物病院は増加を続けています。したがって、これからの動物病院にはオーナーとの強い信頼関係が求められます。
【両者の考え方の違い】
獣医師とオーナーがしっかりとした信頼関係を築くためには、両者の考え方の一致がベースになります。大阪商業大学の杉田陽出はペット診療におけるいろいろな場面での獣医師とオーナーとの意識の違いを調査し報告しています(2017年)。
獣医師の資質
調査は獣医師304人(男性254人、女性50人:平均年齢50.15歳、平均臨床経験年数22.45年)とオーナー378人(男性67人、女性310人、無回答1人:平均年齢47.07歳)を対象に行われました。
「オーナーが求める獣医師の資質は?」という質問に対して獣医師の回答トップ3を見てみると、第1位:オーナーの考えや意思を尊重した診療を行う、第2位:診療技術が高い、第3位:ペットの生命を尊重した診療を行う、という結果です。中でも第1位の回答率は54.6%と高い値でした。
これに対してオーナー回答のトップ3は同じ内容ですが、どれも同等の回答率(20.6~26.0%)でした。オーナーとしては自身の考え方を第一にしてもらうよりも、診療結果を重要視している感があるようです。
治療方針の決定方法
獣医師とオーナーの考え方の一致が最も求められる場面が治療方針の決定です。投薬治療とするか手術を行うか、根治をめざすか症状緩和策を続けるかなどで方針を決めなければなりません。
「日常の診療においてどのような方法で治療方針を決定しているか?」という質問を獣医師に行ったところ、主流の回答は次の3つでした。
A)獣医師が最良の方法を説明し、オーナーがこれに同意する(9.7%)
B)獣医師が複数の方法とその中の最良の方法を説明し、オーナーがこれに同
意する(31.8%)
C)獣医師が複数の方法を説明し、オーナーと相談の上決定する(51.5%)
このように半数以上の動物病院ではC)獣医師とオーナーが十分に話し合ってペットの治療方針を決定しています。
では質問を「ペットの治療方針を決定する場合、あなたが最も望ましいと考える方法は?」としてオーナーに聞いてみると、回答率はA)14.8%、B)33.3%、C)46.2%と少し違った結果になりました。獣医師は一緒に相談して決定したいと考えているのに対し、獣医師が選定した方針を同意するというやり方でもOKとするオーナーは少なくないということです。
【両者の評価の違い】
獣医師とオーナーの間には、診療に関する考え方に微妙な違いがあることが判ってきました。次は双方が相手側/自分自身の行動をどのように評価しているか、どのような項目で違いがあるのかについて確認しましょう。
獣医師の行動評価
前出の杉田は獣医師とオーナーが面談している際の相手の行動評価をアンケート調査しました(2014年)。評価結果を1~6にスコア化し、数字が高いほど高評価となっています。
まず獣医師の行動に関して、獣医師自身およびオーナー両者が高く評価している項目として「獣医師の方から挨拶をする」「誠実な態度をとる」「オーナーに判りやすい説明をする」があがりました。これらは獣医師が常に意識しており(4.52~5.23)、オーナーも高く評価(5.16~5.26)しているということです。
次はオーナー評価に比べて獣医師が低めに自己評価している項目です。「オーナーの悩みや相談への対応」「十分な対話」「十分な診療時間」の3項目はオーナー(5.00~5.02)、獣医師(4.20~4.36)という評価スコアです。これらについては獣医師自身まだまだ改善すべきであると考えています。
オーナーの知識・行動評価
では面談時のオーナーの知識・行動に対する評価を見てみましょう。「動物の病気に関する知識」「治療方法に関する知識」という項目はオーナーの自己評価(3.32~3.52)に対して、獣医師評価(2.75~2.94)と大変低い結果になっています。
獣医師と比べオーナーが専門知識をもっていないのは当然のことでが、問題はオーナーの自己評価スコアが3(=そこそこ知識があると思っている)という点です。この場合、学術的には誤った知識をもっているとさらに厄介なことになります。
最後は両者の評価の差が大きかった項目です。これには「オーナーがペットの症状を的確に説明する」「獣医師の説明をよく聞く」「獣医師の説明を理解する」というものがありました。オーナーの自己評価が4.71~5.02であったのに対し、獣医師評価は3.37~3.89と低く1ポイント以上の差が見られました。
問診時に症状が正しく説明できない、治療内容や自宅での処置(投薬、フード)の注意点をオーナーが理解しないといった場合、最終的に被害を受けるのはペットです。この点を獣医師は憂慮していることが感じ取れます。
オーナーがかかりつけの動物病院を選定し、獣医師に大切なペットの健康管理を任せるには、両者が同じ価値観をもつ必要があります。しかし今回さまざまな場面において微妙な意識のズレがあることが判りました。
このズレを最小に抑え、根本目的であるペットの健康保持のためには、今回のアンケートを実施した杉田が述べているように、互いに「共感」するという姿勢が獣医師/オーナーの両者に求められます。
(以上)
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。