獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「5回洗米法による腎臓ケア」

機能が低下した腎臓をいたわるフード食材を探っています。一般的に腎臓ケアフードは「低タンパク質食、低リン・カリウム食」とされていますが、タンパク質の量を落とすと栄養/エネルギー不足が心配になります。そこで現在、新しい視点で注目を集めているのが植物性タンパク源である白米です。

【低タンパク米】

みなさんは「低タンパク米」というのをご存知でしょうか?あまり聞き慣れませんが、腎臓病食事療法の1つとして利用されている食材です。

低タンパク米とは?

白米にはおよそ6%のタンパク質が含まれており、これを食べると同時にリン(P)も摂取してしまいます。腎臓病ケアの食事で肉・魚を控えるのは仕方がないとしても、主食であるご飯(白米)も制限するというのは大問題です。

そこで病院から薦められるのが「低タンパク米」というものです。低タンパク米とは酵素処理や品種改良などによって、含まれるタンパク質量を減らした米のことです。栄養成分を見てみると一般の米と比較してタンパク質(6.1%→5.5%)、P(94mg/100g→58mg/100g)と低減されています。

また低タンパク米では含まれるタンパク質のうち、難消化性の割合も高くなっています。一般米の場合、消化性タンパク質(約70%):難消化性タンパク質(約30%)であるのに対し、低タンパク米では消化性(約50%):難消化性(約50%)という比率です。

有効性と問題点

この低タンパク米を透析患者に食べてもらい、血清P値の変化を調べた研究報告があります(兼平奈奈ら 東海学園大学 2011年)。試験条件は次のとおりです。

●被験者 血液透析患者51人(平均年齢58.0歳、透析期間8.8年)
●低タンパク米摂取期間 1か月間
●測定項目 血清リン(P)値

各期間の血清P値は試験開始前(5.9mg/dl)、摂取期間中(5.6~5.5mg/dl)、試験終了1か月後(5.7mg/dl)という動きを見せました。成人の血清P値正常範囲は2.5~4.5mg/dlとされており、もちろんこの値に収まることはありませんでしたが、低タンパク米はP値を低下させることが確認されました。

このように低タンパク米はだれでも購入でき、慢性腎臓病患者の食事療法に有用であることが判りましたが、1つ問題点があります。それは一般の米に比べて1kgあたり200円ほど価格が高いということです。試験後の被験者への聞き取りにおいても、51人中29人は「購入しない」と回答しています。

【米に含まれるP】

前回から植物性タンパク質は弱った腎臓に優しいと述べてきました。その中で白米は意外とタンパク質が多く、リン(P)も吸収されにくいという性質から有望視されています。しかし、先ほど紹介した低タンパク米をフードに活用するのは経済的にハードルが高そうです。何かもっと腎臓に良い食材はないものでしょうか?

精白米のPとK

腎臓ケアのターゲットとなる栄養素はタンパク質、リン(P)、カリウム(K)の3つです。Kが多い食材として果物や野菜が良く知られていますが、もちろん今回のテーマである米にも含まれています。ではここで、玄米と精白米それぞれ100g中のPとKの含有量を比べてみましょう。

玄米はP(290㎎)、K(230㎎)、対して精白米はP(95㎎)、K(89㎎)です(日本食品標準成分表 八訂)。私たちがいつも食べている精白米は玄米から胚芽と糠(ぬか)を除いたものです。これより気になっていた米のPやKは糠に由来するものであることが判ります。

洗米の回数と時間

皆さんはご飯を炊く時に、いつも何回お米を研いでいますか?玄米から糠を除いたものが精白米ですが、研ぎ汁が白く濁るのは米の表面にPやKを含んでいる糠がまだ残っているということです。

病院で透析を受けている患者95人(平均年齢66.25歳、平均透析歴9.19年)を対象に自宅での洗米条件の聞き取り調査が行われました(上原由美ら 東京農業大学 2014年)。これによると最も一般的な洗米回数は3~4回(39%)、1回の洗米にかける時間は平均23.7秒とのことでした。

いよいよここからがポイントです。腎臓病の食事療法として白米を利用する場合、リン(P)やカリウム(K)をできるだけ取り除くには何回洗米すれば良いのでしょうか?

【5回洗米法によるP・Kの低減】

先ほどのアンケートを行った上原は洗米条件を工夫することにより、透析患者の血清P値が低下するというデータを報告しています。

洗米回数と洗出率

まず市販の精白米を用いて1~5回洗米し、その都度米から洗い除かれる栄養成分の割合(洗出率)を算出しました。なお1回の洗米時間は20秒間、測定する栄養素はリン(P)、カリウム(K)、そしてタンパク質としました。

結果ではPは1回目の洗米で32.9%、5回累計で50.2%、Kは1回目で24.7%、5回累計で46.0%が洗い出されました。これに対してタンパク質は5回累計でもわずか5.4%しか洗出されませんでした。

最も効果的な洗米条件

前出の洗米アンケートでは研ぎ汁が透明になるまで洗うという回答が12%ほどありました。洗う回数が多いほどP・Kを含む糠はどんどん除かれますが、同時に大切なタンパク質も失われるような気がします。そこで上原は洗米回数1~5回までと1~10回までのそれぞれの累計洗出率を調べました。

その結果、Pは5回累計(50.2%)→10回累計(53.6%)、K(46.0%)→(55.7%)、タンパク質(5.4%)→(6.6%)という値でした。すなわち、不要なPとK、必要なタンパク質、共に洗う回数を増やしてもそのままどんどん洗出率がアップするわけではないということです。

さらに条件を検討した結果、できるだけPとKを取り除き、タンパク質はキープされる最良の洗米条件は「水は米の2倍量とし、1回につき20秒間研ぎ、これを5回繰り返す」という5回洗米法であることが判りました。

5回洗米法の効果

意識的に5回しっかりと洗米することで、市販精白米でもPは50%、Kは46%カットできることが確認されました。ではこのようにして準備したご飯を食べると透析患者の腎臓はどれくらい負荷軽減されるのでしょうか。

病院で透析を受けている高P血症患者7人(平均年齢67.3歳、透析歴8.3年)に5回洗米法で準備した食事を18週間食べてもらいました。ちなみに試験開始前の洗米回数は平均3.9回、洗米時間は17.57秒でした。

試験期間中の血液検査結果では、血清P値は開始前6.11㎎/dlであったものが5.47~5.04mg/dlとおよそ10~17%も低下しました。これに比べK値とアルブミン値に変化はみられませんでした。アルブミン値とは血中のタンパク質濃度ですので、5回洗米法の食事は栄養面に悪い影響を及ぼす心配はないということを表しています。

以上より、低タンパク米よりも経済的で特別な作業を必要としない5回洗米法は、PとKをおよそ半分にカットできるため、弱った腎臓にとても優しい調理方法であるといえます。

ヒトと同様にペットにも生活習慣を背景とする病気が増えています。その1つが腎臓疾患です。腎臓ケアの基本はタンパク質やリン(P)・カリウム(K)の摂取を抑える食餌制限ですが、本来肉食動物であるイヌやネコにタンパク源である肉・魚を与えないのは栄養的に大きな負担です。

シリーズで植物性タンパク質はPの吸収性が低く、中でも白米は意外なタンパク源食材であることを紹介しました。さらにご飯を炊く前に意識的に5回洗米することでタンパク質量には影響なく、PとKがおよそ1/2にカットできることが判りました。

腎臓が弱ったペットのために、手作りフードのタンパク源をすべて植物性に置き換えるというのは問題があり行うべきではありません。リン/タンパク質比の値を参考に、動物性食材を主体とし植物性食材を上手に併用する腎臓ケアの食餌にチャレンジしてみて下さい。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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