獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「ペットのジェネリック医薬品」

製薬会社が新薬を開発すると20~25年の特許期間が認められ、この期間中は独占的に製造販売ができます。その後、特許が切れると他社も同じ有効成分の薬の販売が可能になります。これが後発医薬品/ジェネリック医薬品です。皆さんはペット用のジェネリック医薬品があるのをご存知でしょうか?

【動物用のジェネリック医薬品】

ジェネリック医薬品の普及は、私たちの医療費の削減に貢献しています。ジェネリック医薬品は人用だけでなく動物用も存在し、ペットオーナーの皆さんの中には、以前から動物病院で処方を受けているという方もおられると思います。

年間の承認品目数

ジェネリック医薬品の販売には国の承認が必要です。では動物用のジェネリック医薬品は1年間にどれくらい承認されているのでしょうか?農林水産省 動物医薬品検査所の広報資料によると、平成28年度(30品目)、29年度(36品目)、30年度(47品目)、令和元年度(47品目)、2年度(21品目)、3年度(31年度)、4年度(45品目)となっています。

年間およそ40品目の動物用ジェネリック医薬品が新たに承認・販売されています。(なお、この中にはペット用に限らず家畜用の医薬品も含まれています。)ちなみに令和4年度の人用の承認品目数は約190とのことですので、動物用のざっと4~5倍というイメージです。

まだまだ低い認知度

愛犬オーナー100人(男性31人,女性69人)を対象にした、動物用ジェネリック医薬品に関するアンケート結果が報告されています(中村有加里ら 岡山理科大学 2021年)。その中で「ジェネリック医薬品という言葉を聞いたことがありますか?」という質問に対し、96人が「聞いたことがある、聞いたことがあるような気がする」と答えています。

続いて「動物用にもジェネリック医薬品があることを知っていますか?」に対しては知っている(42人)、知らない(58人)という結果でした。ペットを飼っているオーナーの人達においても、動物用ジェネリック医薬品の認知度はまだまだ低いことが判ります。

【ジェネリック医薬品を使う動物病院】

動物病院においても少しずつ普及が進んできているジェネリック医薬品ですが、皆さんは賛成派ですか、それとも反対派ですか?愛犬オーナーへのアンケートの続きを見てみましょう。

知っているジェネリック医薬品は?

先ほどの質問で動物用ジェネリック医薬品の存在を知っていると答えた42人へ「具体的にどのような医薬品を知っているか?」と質問しました。すると飛び抜けて多かったのがフィラリア症予防薬(81%)、ノミ・マダニ駆除薬(62%)でした。これら2品目は使用頻度が高く、なおかつオーナー自身が愛犬に投与するもので印象に残っているためと思われます。

現在、新しく販売されているジェネリック医薬品には名称ルールがあり、販売名は「有効成分名+剤形+含量+会社名」となっています。具体的には○○○錠100㎎「▲▲▲」というように最後に「」付きで製薬会社名▲▲▲が記載されていますので確認してみましょう。(なお、本ルールが適用されていない製品もあります)

ペットに使用したいですか?

ではオーナーのみなさんは、飼っている愛犬にジェネリック医薬品を使用することをどう思っているのでしょう?回答者100人の割合は、使用したい(49%)、なんともいえない(27%)、使用したくない(17%)、獣医師の勧めるとおりにしたい(7%)でした。

ジェネリック医薬品賛成派は全体のおよそ半数でしたが、その理由として低価格であるため(43/49人)、先発医薬品と同じ効果であるため(3/49人)、先発医薬品と同様の安心感があるため(2/49人)、これらの他に嗜好性が良好、予防に利用可能などといった回答がありました。

対して自分のペットに使用したくないとするオーナーも17人おられました。理由のトップは薬の効果が低いため(13/17人)、効かないと獣医師から聞いている、後発品が好きではない、老犬であるためでした。

このジェネリック医薬品を使用したくないとする人の割合は、前回紹介した患者へのアンケート回答19.2%とほぼ同じ値です。ジェネリック医薬品に対して抵抗感をもつ人は人用/動物用に係わらず一定割合存在しているということです。

受診させたいですか?

人用と比べるとまだまだ感は否めませんが、ジェネリック医薬品を使用する動物病院が増えてきていることは事実です。アンケートでは「動物用のジェネリック医薬品を多く採用している動物病院を受診したいと思いますか?」と質問しています。

回答割合とその理由では、受診させたい(44%)、理由は低価格であるため(37/44人)、これに対して受診させたくない(7%)の理由では効果の低い薬を処方するため(6/7人)、後発薬を処方する獣医師は信用できない(1/7人)というものがありました。

このようにジェネリック医薬品の魅力が低価格である一方、効果に対する疑念や不安感は根強く残っていることが判ります。

【ジェネリック医薬品に求めること】

本来、動物用ジェネリック医薬品の登場は、薬の選択肢が増えるという点で歓迎すべきことです。しかし、オーナーの立場からすると何かモヤっとしたものがあることも事実です。この理由は製薬会社からの情報不足です。

オーナーの希望する点

最後にアンケート項目「動物用ジェネリック医薬品に関して,動物病院に望むことは?」という質問に対するオーナーの意見を確認しましょう。最も多かった回答は低価格にして欲しい(14)、次いで効果・副作用に関する十分な情報提供(10)となっています。また注目したい意見として、先発薬との違いを明確にして欲しい(2)というものもあります。

ジェネリック医薬品に対してオーナーが感じている具体的な不安感は「低価格なのは有効成分が少なくなっているのでは?」や「先発薬のどこを改良したのか判らない」などの不明点が多いためではないでしょうか。このような不安を払拭するためにジェネリック医薬品を処方する動物病院/獣医師は、製薬会社に詳しい製品情報の提供を求める必要があります。

評価のフィードバック

そもそもジェネリック医薬品とは先発薬の使用評価を元に、有効成分はそのままでさらに使い勝手を良くした改良製品です。具体的には飲みにくい粉末を錠剤に変更した、大きな錠剤を飲み込みやすい小さなサイズに変更したなどです。ペット用として改良点が評価されているものには、チュアブル錠にすることで嗜好性がアップした薬があります。

ジェネリック医薬品の開発では治験は行われません。したがって販売後の有効性(効果)・安全性(副作用)・嗜好性(飲みやすさ)などの評価は製薬会社にとって次の製品開発の重要なデータになります。より多くの製品評価を得るためには使用実績数を増やさなければなりませんが、そのためにはオーナーの不安を払拭する製品情報が必要です。

製薬会社からの情報提供→オーナーの理解→使用実績アップ→評価の回収、というフィードバックが次のジェネリック医薬品の開発につながるということです。

医療技術の高度化や寿命の伸長などを背景として、今後ペット飼育に係わる費用はアップしていきます。また契約内容の改訂によりペット保険ではカバーできない医療項目も増える可能性があります。医療費削減策としてペット用のジェネリック医薬品を上手に利用するのも一案です。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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