【連載】楽しい道草

【連載第1回】ライオンと虎の街に生まれて~楽しい道草~

時流を“映した”家業の繁栄

ハウンドカムの川瀬隆庸社長は1952(昭和27)年8月、大阪・北浜のカメラ店の“3代目”として生まれました。

「普通の一軒家のような木造2階建ての店で祖父母が創業しました。

堺筋をはさんで向い側が三越(百貨店)大阪店でした。
カメラ本体を売るだけでなく現像や焼き付けもやってまして社員が2、3人、お手伝いさんもいました。僕が生まれたのが終戦から7年後、ちょうど日本が経済成長していく時代です。
僕が物心ついたときは高級な輸入品でも国産品でも、カメラがあったら売れるような上り調子で、時流に乗ったんでしょうね」

「界隈は相場と薬の街です。当時は証券会社と製薬会社が今よりももっと軒を連ねていていましたね。そんな企業や社員の方々個人がお客さんでした。子供心にも『うちは裕福なんや』と感じたほどです。その後、店があった一帯はホテルに建て替わって、そこの1階でも営業しました。でも跡を継いでいた2代目の親父が初代ほど商売熱心やなくて18年前に廃業しました。僕はカメラには全く興味はなくて継ぐ気もなかったし『継げ』とも言われませんでしたね」

三越大阪店は2005(平成17)年に閉店し跡地には現在、建物の高さが日本で一番の分譲マンションとして知られる「The Kitahama(ザ・キタハマ)」=209メートル=がそびえ立っています。

そこから北に約200メートルの場所にあるのが「大阪取引所」。

2014年に「大阪証券取引所」から現在の名称に変わりました。

この建物と土佐堀通をはさんで土佐堀川と堂島川にかかるのが「難波橋」。
南北両端の高欄(欄干)に獅子の石像があることから「ライオン橋」ともいわれ界隈のシンボルのひとつともなっています。

運命を変えた「夕刊フジ」

北浜エリアは江戸時代の町人文化の中心地となった「船場」の一角ということもあって戦災を逃れた歴史的建造物も多く、現存する木造の幼稚園園舎として日本最古で国の重要文化財にもなっている大阪市立愛珠幼稚園もそのひとつ。川瀬社長も愛珠幼稚園に通ったのでしょうか?

「幼稚園は帝塚山の万代幼稚園です。ぜんそくがあって少しでも空気のいいところへということで引っ越したんです。3つ下の妹が生まれて、しばらくしてからですかねぇ。地元の市立阪南小学校、阪南中学を出て近大附属高校(東大阪市)へ進学して、そのまま近大の理工学部に行きました。卒業後は大阪の鶴見区内にあった建築関係の会社に入ってデザイナーとして図面を引いたり、志願して営業に行ったりしていました」

「東京や福岡、名古屋に支店がある従業員70~80人ほどの会社でした。3、4年は無我夢中で仕事をしていましたが、会社が同族経営で、先輩や上司の話を聞いていると、僕としては将来に夢を見い出せなかったんです。だから建築関係の仕事での独立を考え始めていたんです」

「そんなとき帰りの電車で読んでいた夕刊フジに、東京で“貸しレコード”が流行っているという記事が載っていたんです。『黎紅堂』っていう店で『これやっ!』と思いました。さっそく次の休みに東京へ、その店を見に行ったんです。5人も入ればいっぱいの店に若者客が入れ替わり立ち替わりで大繁盛です。『俺にもできる』って興奮して大阪に帰ってきたんですが、『一晩たって、興奮から冷めてなかったら、やってみよう』と思って寝たら、興奮がさらに高まっていまして、そのまま会社に退職願いを出して辞めました。入社して5年が過ぎていましたね」

大胆な行動に踏み切った川瀬青年の志の行方は? 次回をお楽しみに!

~あとがき~

ところで、三越大阪店の跡地に建った「The Kitahama」と堺筋をはさんで南西方向にあるのが「神農さん」と呼び親しまれる「少彦名神社(すくなひこなじんじゃ)」です。

健康の神、医薬の神として江戸時代から薬種問屋が軒を連ねていた界隈の“顔”ともなっています。最近では犬や猫の病気平癒・健康祈願に参拝する人も多いようで、ペット用のお守りや絵馬も用意されていて、ペットの七五三も行われています。

同神社のシンボルとなっているのが「張り子の虎」。鳥居の脇で等身大とみられる咆哮する金色の虎の像があり“名物”となっています。

難波橋の「ライオン」と、神農さんの「虎」…。どちらも本物をペットにするのはかなり大変そうですが、川瀬社長と動物との縁はこんなところにもあるのかもしれません。
ちょっと強引でしょうかね。でも神農さんにはペットの健康長寿を祈願する飼い主も多いようですし、やっぱり不思議な“何か”があるのかもしれませんよ。

インタビュー・ライティング
岡崎秀俊

関連記事

  1. 【連載第7回】危機の克服が生んだ原点~楽しい道草~
  2. 【連載第8回】序章の終わり~楽しい道草~
  3. 【連載第3回】地図のない航海のように~楽しい道草~
  4. 【連載第6回】新生活の前途に暗雲~楽しい道草~
  5. 【連載第4回】「回盤堂」の幕を引く~楽しい道草~
  6. 【連載第2回】新たなる旅路~楽しい道草~
  7. 【連載第5回】儲ける気はなかったけれど~楽しい道草~
ハウンドカム食堂

新着記事

獣医師が解説

食事の記事

ハウンドカム食堂
老犬馬肉
PAGE TOP