「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
今回は加齢とともに出てくる老犬のトラブルについて解説させていただきます。
目次
【加齢と疾患の関係】
イヌの年齢と罹患率
私たちの愛犬は年齢の経過に伴いいろいろな病気にかかりやすくなります。
実際にはどのようなジャンルの病気が増えてくるのでしょうか?
イヌにおいて年齢と病気の罹患率との間には4つのパターンがあることが報告されています(アニコム 2009年)。
これをもとに少しデフォルメすると次のようになります。
「イヌの年齢と罹患率の4パターン」
老犬で増加する疾患
パターン(A) …年齢に関係なく発生する
〃 (B) …幼犬でよく発生し成犬で減少後、老犬で再び増加する
〃 (C) …加齢に伴い発生が増加する
〃 (D) …幼犬で多発し、その後の発症は減少を維持する
これら4パターンの内、老犬で増加傾向を示す病気としては(B)椎間板ヘルニアや関節炎などの筋骨格系疾患、(C)糖尿病を代表とする内分泌疾患になります。
【老化による健康トラブル】
ヒト:高齢者の場合
私たちヒトが高齢期に入るとガンや心臓病、脳梗塞などの病気が起きやすくなります。
このようなものとは別に「老年症候群」ということばがあります。
老化による低栄養や歩行困難、骨粗しょう症、認知障害といったものです。
イヌ:老犬の場合
今のところペットにおいてこのヒトの老年症候群にあたる適当なことばはありませんので、ここでは「老犬症候群」としておきましょう。
症候群とは特定の病名ではなく複数の症状の総称のことで「○○シンドローム」とも呼ばれます。老犬症候群とは「愛犬の老化に伴う衰えが原因で認められる様々な症状」といえます。
【老犬症候群】
老犬症候群は大きく分けて肥満・削痩、運動能力の低下、認知機能の低下の3つから成ります。
(1)肥満・削痩
摂取したエネルギー量の超過または不足によって体重は増減します。体脂肪の過剰な蓄積による体重増加が肥満、筋肉量の減少による体重減少が削痩です。
肥満の場合、運動の時だけでなく日常生活においても骨や関節に負担をかけてしまいます。
また血糖値を下げるホルモン(インスリン)の反応も鈍くなります。老犬において椎間板ヘルニアや関節炎、糖尿病が増加するのには肥満が背景にあります。
(2)運動機能の低下
筋肉は鍛えると大きくなり(=活動性肥大)、使わないと縮んでしまいます(=廃用性萎縮)。
これは運動量によって筋肉の細胞(筋繊維)が太くなったり細くなったりするためです。
肥満老犬では体重増加により、また削痩老犬では筋肉量の減少によって、運動量の減少→筋肉の委縮→運動機能の低下→(ふたたび)運動量の減少→ …という「いけないスパイラル」に陥ります。
(3)認知機能の低下
高齢化する愛犬に対して最も心配されているテーマに認知症があります。イヌの認知症の代表的な行動として次の4つがあげられます。
「認知症の4兆候」
このように老犬症候群は関節炎などの疾患と共に愛犬の日常活動に障害を与え、生活の質(QOL)を低下させて、やがて介護が必要な状態にしてしまいます。
「老犬の健康トラブル」
【老犬症候群の対策】
では老犬症候群の対策として何をすれば良いのでしょうか?次の3点を提案します。
(1)適正体重の維持
まずはライフステージに合ったフードの給与やおやつの与え過ぎ等に注意して、愛犬が摂取するエネルギー量を確認しましょう。
そしてボディ・コンディション・スコア(BCS)の活用などにより適正体重の維持に心掛けて下さい。
(2)運動・散歩
肥満犬でも削痩犬でも運動量の減少は筋肉量を減少させてしまいます。
京都大学大学院の荒井秀典 氏は高齢者の筋肉減弱症対策として、運動と栄養(高タンパク食、ビタミンD補給)が重要であると述べています(2014年)。
同様に老犬でも関節痛のケアを忘れず、ムリのない運動や散歩によって筋肉量の維持に努めて下さい。
(3)フード
筋肉はタンパク質でできていて、タンパク質はアミノ酸で構成されています。
従ってタンパク源として「良質の肉」を与えることは理にかなっています。
老犬にとっては高タンパクで低脂肪の肉として馬肉が適しています。
また認知機能の維持回復策としては、血液をサラサラにする機能性栄養素の補給などにより、脳への血流を促進することが1つの方法といわれています。
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【機能性栄養素の活用】
老犬の健康維持に有用な栄養素を2つ紹介します。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)
毎日の運動により筋肉は鍛えらますが、同時にエネルギー源として筋肉のタンパク質は少しずつ分解されアミノ酸の放出も起きています。
運動能力を維持する目的として、この大切なアミノ酸を補給するという考え方があります。
体内で合成することができず、食物から摂取しなければならないアミノ酸を必須アミノ酸といいます。ヒトとイヌの必須アミノ酸の代表としてバリン、ロイシン、イソロイシンがあります。
これら3つのアミノ酸をまとめてBCAA(分岐鎖アミノ酸)と呼んでいます。
BCAAには筋肉が分解して放出されたアミノ酸の補給や疲労回復を促進させる作用があります。
「老犬の筋肉補強」
オメガ3脂肪酸
ヒトだけではなくイヌの脳神経の活性化を期待してオメガ3脂肪酸が活用されています。オメガ3脂肪酸ではDHAやEPAがよく知られています。
動物エムイーリサーチセンターの内野富弥 獣医師は認知症犬ではDHAとEPAが有意に減少していること、さらにこれらを給与した結果、76.4%の有効率で症状の改善が確認されたことを報告しています(2005年)。
「認知症犬のオメガ3脂肪酸量」
老犬においてはさまざまな健康トラブルが発生してきます。そのまま放置しておくと日常生活の質(QOL)が低下し、介護が必要になるリスクが高まります。ペットオーナーのみなさんは適切なケアを行い、愛犬が素敵な高齢期生活を送れるようにサポートしてあげて下さい。
【今回のポイント】
●愛犬の老化によりさまざまな疾患や症状が発生しやすくなります
●老犬の健康トラブルはQOLの低下や要介護の原因になります
●老犬症候群として肥満・削痩、運動機能低下、認知機能低下があります
●運動機能の維持には良質な肉や必須アミノ酸BCAAが有効です
●認知機能の維持回復にはオメガ3脂肪酸が有用です
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。