獣医師が解説

獣医師がアドバイス 老犬介護食

老犬介護
「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
今回は愛犬の介護食についてお話させていただきます。

みなさんの愛犬は今何歳でしょうか?一般的に7~8歳の高齢期を経て、12歳くらいを過ぎるとそろそろ毎日の生活にサポートが必要になってくるのではないでしょうか。

ADLの低下

 私たちヒトは老齢期に入ると歩行や食事、入浴などだんだんと自分のことが自身でできなくなってきます。このような「日常生活を送るために必要な動作」をADL(Activities of Daily Living)と呼んでいます。

老犬もヒトと同様にADLの低下が認められます。ADLの低下は認知機能の低下と共にやがて介護を必要とします。今回はこの中の1つである食餌のサポート=介護食と介護準備について考えます。

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介護食

咀しゃくの低下

愛犬の老化が進むと咀しゃく(=噛む)や嚥下(=飲み込む)の能力が低下してくるため、軟らかい介護食を利用することになります。
市販の介護食にはペースト状のものや、パウダー状のものをぬるま湯で溶いて適度な食感に調節して与えるものなどがあります。

食道につまるリスク

老犬がある程度自分で食べることができる場合は、フードの食器は床ではなく台の上に置いてあげて下さい。
下を向いて食べるよりは頭の位置をやや高めにする方がフードを飲み込みやすくなります。

自力で食べることができない寝たきり状態の老犬には流動食を与えることになります。
流動食であっても寝たままの状態で食べさせると食道につまるリスクがあります。
必ず上半身を抱きかかえてシリンジなどを利用して少しずつ与えて下さい。

水分の補給

また水分の補給も忘れないようにお願いします。
老犬は噛む力と同時に飲み込む力も低下しています。
流動食であっても口の中から食道、胃に流れて行くには水の応援が必要です。
また水分補給には口内洗浄の役目もあります。
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介護食の注意点

 このようにフードを自力で食べることができない老犬には噛まずに飲み込める軟らかい介護食が有用ですが次の2つの注意点があります。

(1)誤嚥性肺炎 …介護食が誤って気管から肺に入り込み肺炎を起こす
(2)咀しゃく力の低下 …噛む回数が減るためさらに噛む力が低下する

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高齢犬が介護によって「いけないスパイラル」に陥らないようにするにはどうしたら良いでしょうか?
もう少し介護食の注意点について解説します。

【誤嚥性肺炎】

季節的に肺炎と聞くとインフルエンザが頭に浮かびます。
細菌やウイルスなどの病原微生物が呼吸器官に侵入増殖することにより起こるのが感染性肺炎です。

これとは別に誤嚥性(ごえんせい)肺炎というものがあります。
誤嚥性肺炎とは飲み込んだ食べ物が誤って気管の中に入り込み、肺で炎症が起きるものをいいます。

介護食の誤嚥

ふつう食べ物は飲み込まれると口→食道→胃というルートで進みますが、口→気管→肺へは流れません。
これは食べ物を飲み込んだ時だけ気管にフタ(蓋)がされるためです。
このフタを喉頭蓋(こうとうがい)といい、またこのフタをする動きは身体が無意識に行うもので「嚥下(えんげ)反射」と呼びます。

ヒトでもイヌでも老化が進むとこの嚥下反射が上手く作動しなくなり、誤嚥性肺炎のリスクが上がります。

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意外な原因菌

誤嚥性肺炎の場合は食べ物が誤って気管に入って起こるため病原菌は特に関係ないのでしょうか?

滋賀医科大学の西川正典 氏は寝たきり高齢者の誤嚥性肺炎の原因菌はプラーク(歯垢)の細菌であると報告しています(2008年)。
同様に東京歯科大学の奥田克爾 氏らは歯周ポケットに常在する嫌気性菌が原因菌の主体であると述べています(2005年)。

意外なことに口の中の細菌が誤嚥性肺炎の原因菌の様です。
高齢者や老犬の口腔内細菌が介護食と一緒に気管内に入り込み、これらが肺の中で増殖して誤嚥性肺炎が起こるということです。

予防策

高齢者における誤嚥性肺炎の予防策を参考に老犬においてもその対策を考えてみましょう。ここでは次の2つを提案します。

①咀しゃくリハビリ
  …少しでも噛むことによって低下した嚥下反射の回復を目指します
②口腔ケア
  …歯垢や舌苔を取り除き口腔内細菌の総数を減少させます

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【咀しゃくの意味】

咀しゃくリハビリ

老化が進むと咀しゃく(=噛む)能力が低下してきます。
私たちはこれに対して噛まなくてもよい軟らかい介護食を与えます。
しかしこれでは噛むための筋肉を使う機会が減り、さらに咀しゃく機能の低下を招きます。

北海道医療大学の池田和博 氏らは食品の軟食化は下顎骨(=下あごの骨)の廃用性萎縮を促進すると述べています(1995年)。
老犬、シニア犬がフードを噛むことは低下した咀しゃくおよび嚥下機能の回復のためとリハビリと考えましょう。
 

唾液の分泌促進

フードを噛むと唾液が分泌されます。しかし軟らかい介護食では噛む回数が少なく唾液の量は減ってしまいます。
唾液には口内のクリーニング作用もあるため少しでも「噛み応え」のある介護食を選びましょう。

発熱の促進

九州大学の岡 暁子 氏らが実験動物のラットを用いた大変興味深い試験報告をしています(2003年)。
通常の硬さのエサを食べたラットは軟らかいエサを食べたラットと比較して体温がおよそ0.2℃上昇するというものです。

食物を噛むという動作には生体のエネルギー代謝機能を活性化し、食後の熱産生を促進する働きがあります。

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ストレスの軽減

 実験動物のラットに棒を噛ませるとストレスホルモンの分泌が減少したという海外の研究報告があります(2000年)。
動物において何かを噛むという行為にはストレス発散の作用があります。

【7~8歳からの介護対策】

 老犬においてADLが低下し、咀しゃくや嚥下が徐々にできなくなることは避けられません。
しかし高齢期に入りたての7~8歳頃から正しい知識を持ち準備を開始することによって介護の程度が軽く済んだり、または必要がなくなる可能性もあります。

愛犬が要介護状態になる前から十分に噛み応えのあるフードを与える、食後には歯磨きや歯磨きシートの利用などにより口腔ケアを実施する、などは身近な介護対策の1つです。

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【今回のポイント】
●フードを噛むことができなくなった老犬には介護食は有用なものです
●介護食を与える場合は誤嚥性肺炎に注意しましょう
●誤嚥性肺炎の対策として咀しゃくリハビリと口腔ケアがあります
●7~8歳頃から身近な介護対策を始めましょう

(以上)

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