腎臓

【獣医師が解説】腎臓をいたわる食事とは

【獣医師が解説】腎臓をいたわる食事とは

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
引き続き腎臓疾患について考えます。
前回の話の最後に腎臓疾患の対策として①毎日の観察②定期健診③フードの3つをあげました。今回のテーマは「腎臓をいたわる食事」です。

腎臓疾患の対策

3つの対策

まず腎臓疾患を大きく2つに分けましょう。急性腎臓病と慢性腎臓病です。これら2つのタイプの腎臓病と3つの対策の有効性についてまとめると次のようになります。

腎臓病の3つの対策は毎日の観察と定期健診、食事の対策になります。

3つの対策の中でも③フードは急性腎臓病における尿石の発生や再発防止の点から有効です。慢性腎臓病ではいわゆる「食事療法」にあたります。この場合根本治療は期待できませんので、あくまでも病状の進行を遅らせてQOL(生活の質)の維持を目指すことになります。

食事療法の基本方針

急性腎臓病では尿石形成との関係が深いため別の機会にお話しします。ここでは慢性腎臓病における食事療法の基本方針を見てみましょう。

いろいろな本や雑誌を読んだり、腎臓ケアフードの説明書きを見てみると共通して次の3つが書いてあります。

(1)タンパク質の摂取を制限しましょう
(2)リンの摂取を制限しましょう
(3)ナトリウムの摂取を制限しましょう

これら3つは愛犬・愛猫にとって大切な栄養素のはずですが、なぜ慢性腎臓病では悪者になってしまうのでしょうか?

タンパク質の制限

愛犬の腎臓病の時のたんぱく質はできるだけ制限するのではなく良質のたんぱく質を必要最低限摂るのが大事です。

栄養素の最後

私たちヒトの食物やペットフードにおいて最も基本になる栄養素は炭水化物、脂質、タンパク質の3つです。これら3大栄養素は消化されて栄養素として吸収された後、最後はどうなるのでしょうか?

炭水化物と脂質は大切なエネルギー源です。イヌやネコにおいては消化率の関係から代謝エネルギー(ME)はそれぞれ3.5、8.5kcal/gです。

この2つはC(炭素)、H(水素)、O(酸素)からできているため、最終的にはCO2(二酸化炭素)やH2O(水)となって体から出て行くことになります。

炭水化物と資質は最後は水と二酸化炭素に、たんぱく質は窒素となり尿へ排出されます。

タンパク質の過剰摂取

タンパク質もエネルギー源でありMEは3.5kca/gで炭水化物と同じです。加えてタンパク質には筋肉など身体を構成する役目もあります。

タンパク質の特徴はC、H、Oの他にN(窒素)を含んでいる点です。このNは最後にはどうなるのでしょうか?答えは「尿素」というものになり腎臓で血液中からろ過されて尿に排出されます。

タンパク質は3大栄養素の1つですから必ず摂取しなければなりません。しかし過剰に摂取すると腎臓は尿素(N:窒素代謝物)のろ過作業に追われることになります。そこで少しでも腎臓の仕事を軽くするためにタンパク質の制限が必要になるわけです。

インドキシル硫酸

腎単位(ネフロン)において尿素は血圧の力によって毛細血管の膜でろ過されます。従ってこの毛細血管にはしなやかさが求められます。

しかしタンパク質を消化分解するとインドキシル硫酸という物質ができます。この代謝産物にはネフロンの毛細血管を硬くする作用があります。しなやかさを失った毛細血管の膜部分には高い圧がかかってしまいます(=高血圧)。

結果としてタンパク質の過剰摂取は尿素の増産とろ過装置である毛細血管にダメージを与え、腎臓全体の負荷を増大させることになります。

たんぱく質を制限する理由はタンパク質を消化分解するとインドキシル硫酸という物質ができます。この代謝産物にはネフロンの毛細血管を硬くする作用があります。

リンの制限

P(リン)はどこにある?

Pといってもあまりピンときませんが、けっこう体の中のいろいろな部位に存在しています。

大切な部位
○歯や骨…体内にあるPの約80%は歯や骨に存在します
○核酸…DNAやRNAの成分です
○その他…エネルギーの貯蔵物質(ATP)や細胞膜など
困った部位
○尿石…Pはあのストルバイトの成分です

P(リン)の体内調整

上皮小体(または副甲状腺)という器官から分泌されるホルモンにパラソルモンというものがあります。このパラソルモンはCa(カルシウム)とPをセットで体内調整しています。

パラソルモンの作用

●血中Ca濃度を上げる
…骨を溶かしてCaを放出させる
…腎単位(ネフロン)においてCaの再吸収を促進する
●血中P濃度を下げる
…ネフロンにおいてPの再吸収を抑制する(=Pの排出を促進)

高Pフードの摂取

Pを多く含むフードを摂取し続けるとどうなるでしょうか?高い血中P濃度を下げるためにパラソルモンが出動します。パラソルモンは腎臓でのPの排出量を増やしてと正常値へ戻そうと働きます。

しかしパラソルモンはPとCaをセットで調整するためCa濃度も上げてしまいます。すなわち骨を溶かしたり腎臓での再吸収を促進することになります。
(骨の破壊によりPも放出されるためネフロンでのろ過作業がまた増えます。)

結果的に高Pフードの摂取は腎臓の負荷増大だけでなく、骨の弱化や尿石(ストルバイト)の形成を招くことになります。

リンを制限しないと結果的に高Pフードの摂取は腎臓の負荷増大だけでなく、骨の弱化や尿石(ストルバイト)の形成を招くことになります。

ナトリウムの制限

高Na血症

フードにおいてNaは主に食塩(NaCl)の形で摂取されます。食塩の要求量は乾物フード%としてイヌでおよそ1%、ネコでは0.5%といわれています。通常Naを過剰に摂取しても尿中へ排出されますが、腎臓が弱っていてネフロンのろ過機能が低下している状態では血中Na濃度は高い値のまま(高Na血症)になります。

高血圧

血中のNa濃度が高いということはNaにより血液が濃くなっているということです。すると「血液を薄めなくては!」と血管のまわりの水分がどんどん中に浸入してきます。

血液中の水分量が増える→心臓の拍出量が増える→血圧が上がる(高血圧)という流れにより今回もまたネフロンへの負荷が増大してしまいます。

ナトリウムを制限しないと血中の水分量増加が高血圧を招きネフロンの負担となります。

腎疾患においてタンパク質、リン、ナトリウムの3つの栄養成分を制限することは、腎単位(ネフロン)を少しでも楽にしてあげるということでした。

その他注目の対応策

オメガ3脂肪酸

これらの他にも腎疾患の対応策として有用性が報告されているものがあります。

オメガ3脂肪酸

カリフォルニア大学のSheri Ross博士はオメガ3脂肪酸を給与されたイヌは腎病変や蛋白尿の発生が低減され、死亡率も低下したと報告しています(2011年)。

慢性腎臓病においてネフロンの毛細血管は高血圧などにより炎症を起こしています。オメガ3脂肪酸の抗酸化作用や抗炎症作用がこのダメージを軽減し、血液のろ過を維持応援した結果と考えられます。

リン吸着材

血液中のP濃度が高い状態(高P血症)はネフロンの負荷や骨の弱化を招きます。フード中のPを腸で吸収される前に吸着して、糞と一緒に排出させるサプリメントがリン吸着材です。(医薬品ではありませんので「剤」ではなく「材」と記載しておきます。)

内容は炭酸カルシウムや炭酸ナトリウムです。これらが腸管内でリンと結合してリン酸カルシウムやリン酸ナトリウムになり体外へ排出されます。

腎臓病治療薬

本年2017年に「ラプロス」というネコの腎臓病治療薬が国からの承認を受けました。経口投与薬で慢性腎臓病の進行を遅らせる効果があるというものです。興味のある方は動物病院で問合せをしてみましょう。

腎臓へのいたわり

腎臓は毎日毎日、ろ過と再吸収を繰り返して血液から尿を作っています。この尿生成のユニットが腎単位(ネフロン)です。みなさんは腎臓に何個ぐらいのネフロンがあると思いますか?

腎臓は左右1対ありますがヒトのネフロンの数は左右で200万、イヌは80万です。前回ネコは高機能の腎臓をもっている動物であることを説明しました。さぞかしネコにはたくさんのネフロンが備わっていると思われますが実はその逆です。ネコはもっと少なく40万といわれています。

ネコは少ない数のネフロンで日々一生懸命に濃縮された尿を作っているということです。ネコの腎臓には過大な負荷がかかっており、10歳以上のシニアでの腎臓病罹患率は30~40%という報告もあります。

愛犬・愛猫は自分で腎臓ケアができません。私たちペットオーナーが毎日健康状態を観察し、定期的に健診を受けさせて早期発見に努めましょう。そして発症/再発の予防や病状の進行を遅らせる食事を与えてペットたちがQOL(生活の質)を維持できるようサポートしてあげて下さい。

腎臓をいたわるのにお勧めアイテム紹介

腎臓を考慮して作られた手作り食は食いつきが良いです。

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腎臓に優しい低リン7食Aセット
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腎臓を考慮して作られた療法食

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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