なぜ愛犬・愛猫には歯周病が多いのか?
以前のコラムで歯石、歯周病について書いたところ、みなさんの関心がとても高かったようです。今回のテーマは「なぜ愛犬や愛猫には歯周病が多いのか?」です。
歯周病
歯周病予備軍
歯周病とは歯の周囲を侵してしまう病変の総称のことです。多くの場合、歯垢の付着や歯石の形成、歯ぐきの腫れとして確認されます。
イヌやネコでは、ヒトのような齲歯(うし)はあまり見られません。齲歯とはいわゆる「虫歯」のことです。これはヒトの歯と異なり臼歯が尖っているためですが、もっと大切な理由を最後にお話しします。
統計的にはイヌの歯周病の発症率は、加齢に伴い3歳ぐらいからぐんぐん上昇し、10歳ではおよそ3.2%になります。なんだか今回のテーマにするほどのパーセントではないような気がしますが問題は歯周病予備軍です。
歯垢や歯石を確認したイヌ、すなわち歯周病予備軍は調査頭数780頭のうちのおよそ76%と大変高い結果でした(アニコム損保 2010年)。
歯周病の成り立ち
歯周病の成り立ちをおさらいしましょう。下の図を見て頂くと判るように歯周病は口の中でおこる連鎖反応といえます。フードを食べても食べなくても、歯の表面にはぬめりであるペリクルができます。あとは流れ作業のように進んでゆき歯石の形成や歯肉炎(=歯ぐきの炎症)を引き起こします。
この一連のどこかに流れをストップさせるところはないのでしょうか?そこは「歯垢の付着」です。フードの選定や歯磨きなどにより歯垢の付着を抑えれば、歯石や歯肉炎までの流れは止まります。やはり毎日の歯磨きは大切です。
イヌ・ネコの唾液
今まで歯周病や口臭対策においてフードとの関係について述べてきました。今回は趣向を変えて唾液についていくつかお知らせしましょう。
唾液のはたらき
動物の唾液の主なはたらきには次の5つがあります。
①浄化作用 …食べかすを洗い流します
②殺菌作用 …リゾチームなどの殺菌物質を含みます
③消化作用 …アミラーゼによりデンプンを消化分解します
④緩衝作用 …唾液のpH変化を調整します
⑤再石灰化作用 …中性~アルカリ性下で歯のCa沈着を応援します
今回のテーマで大切なものは③消化作用 ④緩衝作用 ⑤再石灰化作用の3つです。
唾液のpH
みなさんは唾液が酸性なのかアルカリ性なのかと考えたことはありますか?日常生活においてあまり気にする方はおられないと思いますが、実は歯周病を考える上では大切なことです。
ヒトとイヌ、ネコの唾液のpHを比べてみましょう。pHは7が中性でこれより低いと酸性、高いとアルカリ性です。
私たちヒトの唾液のpHはおよそ6.8で弱酸性です(ただし年齢や健康状態などによりばらつきはあります)。これに対してイヌやネコはアルカリ性の唾液をもっています。イヌではpH9くらいまでありますので結構なアルカリ性といえます(開業獣医師 藤田桂一 氏 2005年、帝京科学大 渡辺隆之 氏ら 2012年)。
ではなぜイヌ、ネコの唾液はアルカリ性なのでしょうか?
唾液の消化作用
「ドライフードという食事」のコラムで唾液アミラーゼということばが出てきました。みなさん覚えていますか?
唾液アミラーゼ
アミラーゼとはデンプン(炭水化物)をブドウ糖に分解する消化酵素です。子供のころ「ごはんは甘くなるまでよく噛みなさい」とよく言われました。これはごはんのデンプンが口の中にあるアミラーゼと反応してブドウ糖に変化するためです。これが唾液の③消化作用にあたります。
ヒトの場合
ブドウ糖自体は酸性でもアルカリ性でもなく中性です。しかし口内にいる無数の細菌がこのブドウ糖をエサとして分解して酸(乳酸など)をつくります。この結果、ヒトの唾液は弱酸性を示します。
デンプン→ブドウ糖→(口内細菌)→酸の産生 …唾液は弱酸性
イヌ・ネコの場合
これに対してイヌやネコ(肉食獣)の唾液の中にはこのアミラーゼがありません。フード中のデンプンはそのまま胃へ送り込まれます。よってイヌやネコの口の中では細菌が分解するブドウ糖ができないため唾液は酸性になりにくい、というわけです。
唾液のアルカリ化
イヌやネコの唾液が酸性になりにくい理由は判りましたが、pH8~9ほどまで高い値を示すには他の原因があると考えられます。
空気との接触
今から45年ほど前に報告されたヒトの唾液のpHの変化についての試験結果があります(三浦敏行 氏 日本歯科大学 1972年)。
●試験対象は3~47歳の男女19名
●採取した唾液をビンに入れて、手動で激しく十数回振とうを行う
●唾液pHの平均値は振とう前 7.3→振とう後 8.0に上昇
この pHの上昇結果について三浦 氏は、唾液が空気に触れることにより溶けていたCO2(二酸化炭素)が発散したためと述べています。
実際には私たちヒトは口を開けて舌を出して呼吸することは無いため、唾液がアルカリ性になることはありません。(試験内容としては大変おもしろいです。)
開口呼吸と毛づくろい
ではイヌやネコではどうでしょう。イヌでは舌を出しての開口呼吸、ネコは自分の体をなめて毛づくろい(グルーミング)をよくしています。
ともに舌を出して行うため唾液は空気と触れていることになります。この日常的な行為がイヌやネコの唾液をアルカリ性にしているのではないかと考えられます。(これは私の個人的な考えであり、残念ですが試験報告はありません。)
口腔内pHと歯石
冒頭でイヌやネコは虫歯が少ないと述べましたが、歯石の付着はよく認められます。この違いは何でしょうか?
ステファン曲線
唾液のはたらきの中に④緩衝作用というものがあります。これはpHに変動があった場合、元のレベルに戻す作用のことです。
私たちがチョコレートやお菓子を食べると糖分が分解されて口の中はぐーっと酸性になります。その後、時間の経過に伴い元のpH7付近まで回復します。これが唾液の緩衝作用です。
1日の中で食事をすると口の中は酸性→中性→酸性→中性を繰り返すことになります。このように食後の口腔内(実際は歯垢ですが)のpHの変化をグラフにしたものをステファン曲線といいます。
脱灰と再石灰化
ステファン曲線の図を見てみましょう。pHが下がる(=酸性)とカルシウムCaが歯から溶け出します。これを「脱灰(だっかい)」といいます。この状態が続くと歯の腐食が進み虫歯になります。
次に緩衝作用によってpHが上がる(=中性~アルカリ性)と今度はCaが歯に沈着します。これを「再石灰化」といいます。これが唾液の⑤再石化作用です。
ちなみに、この脱灰と再石灰化の境界ラインであるpH5.5前後を臨界pHといいます。私たちヒトの口の中は食事のたびに臨界pHを境として、脱灰と再石灰化を繰り返していることになります。
イヌ・ネコの歯石形成
ではイヌやネコがフードを食べた後、口腔内pHの変動はどうなっているのでしょうか?デンプンを消化できないため、食後はヒトのステファン曲線の様な変動は認められません。アルカリ性が維持されて臨界pHを下回ることもほとんどありません。
ということで、イヌやネコでは歯の脱灰が起きにくく虫歯が少ないということになります。めでたしめだたし、と終わりたいところですが最後にここが問題になります。
口腔内がアルカリ性であるため脱灰は起こりませんが、逆に歯の再石灰化が進みます。これは同時に歯垢にもCaが沈着することを意味します。すなわちイヌやネコでは常に歯垢の歯石化が進行しているというわけです。
今回は唾液を通して私たちの愛犬や愛猫に歯周病が多い理由について考えてみました。アルカリ性の唾液をもっていることにより、歯石が形成されやすいということが背景にありました。しかし一番の理由は歯磨きの頻度が低いことです。
毎日歯磨きを行う愛犬オーナーの割合は2.6%という報告があります(アニコム損保 2010年)。歯周病予防のポイントは歯垢の付着防止です。歯磨きを習慣化して愛犬、愛猫の歯周病予防にはげんでください。
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。