キャットフードはもちろんとして、近頃はドッグフードにも原料として魚が用いられています。今回はフード原料として魚を使用するメリットについて考えます。
目次
原料としての魚
フードの原材料欄の小さな文字をよく読むと「フィッシュミール」とか「フィッシュエキス」などの記載があります。まずはここから始めましょう。フード原料としての魚は大きくわけて次の2種類からなっています。
フィッシュミール
フィッシュミールとは「魚粉」のことです。輸入品ではスケトウダラ(ロシア産)やカタクチイワシ(南米のペルーやチリ産)などから作られています。国産品としてはイワシやサバが主な原料になっています。
フィッシュエキス
フィッシュエキスとは「煮汁」のことです。魚の煮汁をさらに煮詰めて濃縮したものをフィッシュエキスとかフィッシュソリュブルと呼んでいます。液体ですのでもっぱら嗜好性をあげる目的として添加されます。
魚を原料とする利点
魚は肉と同じくペットの良好なタンパク源である大切な動物性原料です。
魚の利点
フード原料として魚を活用する利点は何でしょうか?それは植物性原料(タンパク質)と比べて次の3つの長所があるためです。
(1)高い消化率
(2)良質なタンパク質
(3)良好な嗜好性
高い消化率
イヌ、ネコにおけるタンパク質の消化吸収率は動物性が約90%、植物性は約75%といわれています。植物性タンパク質の消化率が低いのは食物繊維を含むためです。魚は肉と同様に高い消化率を示します。
なお、フードの栄養設計を行う場合、タンパク質の消化率は動物性と植物性の両方をまとめておよそ80%として計算されています。
良質なタンパク質
よく「良質なタンパク質」ということばを聞きますが、この「良質」とは何を指していると思いますか?良質とは消化率とかカロリーのことではなく、タンパク質を構成している「アミノ酸のバランス」をいいます。
タンパク質は20種類のアミノ酸からできています。この中でどうしても食物から摂取しなければならないものを必須アミノ酸と呼んでいます。必須アミノ酸はイヌで10種類、ネコでは(タウリンを加えて)11種類あります。
アミノ酸スコア
食物中のタンパク質を構成している必須アミノ酸の含有バランスを評価する指標として「アミノ酸スコア」というものがあります。このスコアは含有量が最も少ない必須アミノ酸によって制限されて、それぞれの食物において数値は異なります。
アミノ酸スコアは100に近いほどムダ無く有効に利用されるタンパク質であることを意味しています。(今回はスコアの計算式は省略します)
下のアミノ酸スコアのグラフを見てみましょう。トウモロコシや小麦といった植物性タンパク質が低い値であるのに対し、肉類や魚のスコアは100を示しています。すなわち魚はアミノ酸バランスが良い「良質なタンパク質」であるといえます。(日本食品分析センター 2005年他より作成)
高い嗜好性
ネコはイヌに比べてフードに対する好みがきびしく、また飽きやすい動物です。キャットフードのメーカーは商品開発に大変な苦労をされています。
ネコは肉よりも魚が好きというイメージがありますが、欧米ではキャットフードの主体は肉類です。どうやらその国々の食環境と関係が深いだけのようです。
日本では缶詰やパウチのウエットタイプのフードにはカツオ、マグロがよく使われています。これらは嗜好性が高く、原料の入手が安定しているためです。
ドッグフード原料の魚
ドッグフードにおいて魚を使用しているものとして、食物アレルギー対策フードがあります。
アレルギー対策フード
近頃はヒトと同じくペットでも食物アレルギーに大きな関心が向けられています。このジャンルのフードにおいて最近よく用いられている原料には次のものがあります。
○肉類の代替原料
…カツオ、マグロ、サーモン(鮭)、ターキー(七面鳥)
○穀類の代替原料
…米
新奇性の原料
食物アレルギー対策の1つとして「新奇原料への置き換え」があります。新奇原料とは今までに食べていない目新しい原料という意味です。
牛肉や鶏肉の代替タンパク源としての魚や七面鳥、トウモロコシや小麦の代替穀類としての米ということです。
新奇性の寿命
では、新しい原料からなるフードに切り替えれば食物アレルギーの心配はなくなるのでしょうか?
開業獣医師である山口潤 氏らは皮膚炎を示すイヌ12頭(平均年齢5歳)の血液検査を行い、フードに含まれるアレルギー源に対する抗体調査を実施しました(2014年)。
この場合の抗体とはアレルギー反応に関連するIgE抗体というものです。この抗体量が多いほどその食物に対するアレルギー発症のリスクが高いということになります。
結果を見てみますと代替原料である米の数値が意外と高く(117.2)、トウモロコシ(132.7)に近いことが判ります。これは米を原料とした食物アレルギー対策フードが普及したことにより新奇性が無くなってきたことを意味しています。
この報告で注目すべき点はサーモンの数値が39.9μg/mLと低いことです。サーモンは現時点においてまだ新奇性が高く、アレルギー発症のリスクが低い原料といえます。
サーモンの魅力
サーモン(鮭)は私たちヒトの食卓において馴染み深い魚の1つです。このサーモンをフード原料として使用する場合の魅力について見てみましょう。
サーモンの種類
国内で流通している鮭のおよそ半分は海外から輸入された養殖サーモンです(東京税関2013年)。フード原料としてはコストや入手単位量から考えて輸入サーモンが使用されていると思われます。
日本で流通している輸入サーモンでは、大西洋サケ(アトランティックサーモン:ノルウェー産)とギンザケ(チリ産)の2種類が代表です。
フード原料としての魅力
いくつかある魚の種類の中で、ペットフードにサーモンがよく用いられる理由には次の5つがあります。
①消化吸収率が良好
②アレルギーになりにくい
…新奇性のタンパク源
③ビタミンが豊富
…B12(赤血球の生成)、D(Caの吸収)、E(抗酸化作用)
④オメガ3脂肪酸(EPA、DHA)が豊富
⑤アスタキサンチンを含有
豊富なEPA、DHA
いまやメジャーな存在となったオメガ3脂肪酸ですが、代表がEPAとDHAです。幅広い作用が報告されており、最も関心が高いのが高齢対策(認知機能の維持)です。広く高齢犬用フードにはオメガ3脂肪酸が配合されています。
オメガ3脂肪を多く含む食物というと青魚が頭に浮かびます(テレビCMの影響でしょう)。代表的な青魚であるイワシと比較してその含有量はどれくらいでしょうか。ちなみにイワシでは可食部100gあたりEPAが780mg、DHAは870mgです。
大西洋サケ、ギンザケともにEPA含有量はイワシとほぼ同等量です。またDHAについてはイワシよりも多量に含んでいます(日本食品標準成分表 2015年版)。サーモンはオメガ3脂肪酸の重要な供給源ということです。
アスタキサンチン
サーモンの身は独特の紅色をしています。この色の成分がアスタキサンチンです。元々アスタキサンチンはある種の植物性ブランクトン(=藻)が作り出す色素であり、食物連鎖によって取込まれてサーモンの身を紅色に染めているわけです。(実はサーモンは白身魚です)
可食部100gあたり大西洋サケは0.5mg、ギンザケでは1.4mgのアスタキサンチンを含んでいるとのことです(マルハニチロのHPより)。
このアスタキサンチンも今やすっかり有名になりましたが、その1番の働きは強力な抗酸化作用です。ビタミンC、E、コエンザイムQ10をはるかにしのぐ抗酸化力をもっているため、ヒトの健康サプリメントや化粧品に使用されています。
近年はペットにおいても肥満対策や皮膚アレルギーの対応として与える事例が増えてきています。最後に(サーモンそのものではありませんが)イヌへのアスタキアンチンの給与効果を紹介しましょう(開業獣医師村井妙 氏ら第55回日本伝統獣医学会2015年)。
●糖尿病のイヌにアスタキサンチンを1日2mg給与
●血液中のNEFA(遊離脂肪酸)値を測定
●給与後の値は標準値まで低下したが、給与を中止すると再び上昇した
ここで測定しているNEFA(遊離脂肪酸)というものは、脂肪の分解産物で最終的にはブドウ糖になり血糖値を上げます。アスタキサンチンは糖尿病において脂肪代謝を改善して血糖値を抑える作用があるという報告でした。
お勧めアイテム紹介
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今回は魚を原料とするペットフードのメリットについてお話をしました。中でもサーモンは栄養内容はもちろんのこと、注目の機能性成分を多く含んでいることが判りました。
店頭ではいろいろな種類のフードが販売されています。レジに行く前に「どんな魚が使われているのかな?」と原材料欄をぜひ読んでみて下さい。
「本町獣医科サポート」
獣医師 北島 崇
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。