獣医師が解説

【獣医師が解説】愛犬がごはんを食べなくて悩んでいる方へ

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ペットオーナーのみなさんは、愛犬が元気に食事をしているのを見るととても安心しますが、時にしてまったく食べなくなる場面もあります。今回は愛犬の食欲について考えてみます。

ペットの食性

まず話を進める前にペットの食性の違いを押さえておきましょう。食性とは食べ物についての習性のことをいいます。

イヌの食性

イヌの先祖であるオオカミは仲間と狩りを行って大型の動物を捕食します。このため1回に食べる量は多いのですが、次はいつ食べることができるかは判りません。

イヌはこの習性を引き継いでいて「間欠採食動物」といわれます。本来、イヌは1日に2食もしくは1食でも問題はないという食性をもっています。

ネコの食性

ネコは仲間と行動せず単独で小さなネズミなどを捕食します。1回に捕まえることができる匹数は少ないため、1日に何回も食事をする必要があります。

イヌに対してネコは少ない量をちょこちょこ食べる「少量頻回採食動物」ということになります。

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食事をしてくれない背景

イヌは元々、1日にそう何回も食事をする動物ではないことがわかりました。しかしまったく食べないわけではありません。愛犬がいつものように食事をしてくれない背景をフード、ペット自身、生活環境の3つに分けて整理してみましょう。

フード

・フードの味、におい、食感などが愛犬の好みに合っていますか?
・お気に入りの食器でないと食べないという事例もあります

ペット

・健康状態が理由の場合、食欲が急になくなることがあります
→ただし下痢とか何かしらいつもと違う様子が観察されるはずです
・老化が進むと食べる量は徐々に減少します

生活環境

・飼育環境についても一度確認してみましょう
→知らない訪問客がたくさん来た、など
・ひょっとして愛犬に何かストレスはかかっていませんか?

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食欲のしくみ

私たちヒトは少ししか食べていないのにお腹がいっぱいに感じたり、たくさん食べてお腹が苦しいのにまだ食べたいと思ったりします。この食欲のしくみはどのようになっているのでしょうか?

お腹がすいた…

スポーツや散歩など体をよく動かすとお腹がすきます。これは体をつくっている細胞がエネルギーを消費するためです。このエネルギーの正体は「糖(=ブドウ糖)」です。

血液中のブドウ糖の量が血糖値です。体の細胞がこの糖をたくさん消費して血糖値が下がったことを脳が判断すると、摂食中枢という神経系が働き「お腹がすいた、何か食べたい」と感じます。

お腹がいっぱい…

では逆に食事を摂るとどうなるでしょう?炭水化物が分解されてブドウ糖がどんどん供給されると血糖値が上がってきます。これを脳が察知すると、今度は満腹中枢という神経系を働かせて「もうお腹がいっぱい、食べたくない」と感じさせるわけです。

このように私たち動物の食欲は、自分の意志とは関係なく脳と血糖値によって調整されています。

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血糖値を調節するホルモン

血糖値はホルモンの作用により下がったり上がったりしています。

血糖値を下げるホルモン

動物が食事を摂ると血糖値が上がります。このままでは糖尿病になってしまうので、血液中のブドウ糖を細胞の中へどんどん送り出す必要があります。

この仕事をしているのがあのインスリンです。糖尿病の患者さんがインスリン注射をするのはこのためです。

血糖値を上げるホルモン

山で遭難して何も食べる物が無い場合、血糖値は下がったままになります。このままでは脳をはじめとして体の大切な臓器はエネルギー切れで動かなくなり、やがて死んでしまいます。

このような非常事態では、備蓄していておいたブドウ糖を取り出して血流に乗せて体中に供給することができます。この備蓄用の糖をグリコーゲンといい、日頃は肝臓に貯蔵されています。

この血糖値を上げるホルモンはいくつもあります。代表として成長ホルモンやコルチゾール、グルカゴンといったものです。(インスリンと比べるとあまり馴染みがありません…)

食べなくても血糖値が上がる時

「今日はお昼ごはんを食べる時間がないほど忙しかった!」といった場合があります。しかし、忙しかったその時は空腹を感じていなかったと思います。これは気が張っている時はアドレナリンというホルモンが分泌されて、一時的に血糖値が上がっていたためです。

このようにホルモンの作用によって、何も食べなくてもお腹がすいたことを感じない場合があるということが判ります。

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ストレスと血糖値

ストレスとは毎日の生活における苦痛とかプレッシャーのことです。簡単にいうと「生活上の嫌なこと、気になること」です。

ストレスホルモン

近頃はうつ病予防や職場の過労死対策として、ストレスを軽減する試みが盛んです。この場合、ストレスの度合いやその増減を何とか数値で表現する必要があります。

ストレスの評価法として、体内の「コルチゾール」というホルモンの量を計る方法があります。現在では唾液を材料にして測定されています。

このコルチゾールはストレスを感じた時に副腎という臓器から分泌されます。簡単にいうと「コルチゾールの値が高い=ストレスを感じている」ということになります。

意外なストレス

日常生活において、私たちの愛犬は何かにストレスを感じているのでしょうか?少々ショッキングな研究報告を紹介しましょう(明治大学川口晃太郎 氏ら2008年)。

●供試犬…ビーグル1頭、シェットランドシープドッグ1頭

●3パターンの状況前後の唾液コルチゾールを測定した
(1)炎天下での散歩(気温30℃で15分間)
(2)大型犬との対面(ゴールデンレトリバー♂と15分間対面)
(3)掃除機の騒音(同じ部屋で15分間作動)

●3パターンすべてにおいて15~30分後にコルチゾール値が上昇した

この他にも3年以上の経験を持つトリマーさんと比べて、3年未満のトリマーさんにトリミングをしてもらったイヌでは唾液コルチゾール値は大きく上昇していたという調査結果がありました(東京農業大学田所理紗 氏 2015年)。

もちろんストレスの感じ方には犬種差や個体差があります。しかし、生活のいろいろな場面において「実をいうとコレ嫌だな」と感じているイヌは少なくないのかもしれません。

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ストレスと食欲

さて、いよいよ本題です。ストレスホルモンであるコルチゾールには血糖値を上げる働きがあることを先程述べました。

ということは、ストレス→コルチゾール→血糖値上昇→満腹中枢→お腹がいっぱい、とつながってしまうということになります。すなわち、ストレスを感じている間は食欲がわかないということです。

これは動物が本来もっている習性の一つで、敵に襲われて必死に逃げている時(=ストレス)に空腹を感じている場合ではないためです。その代り、逃げ切って落ち着いた後(=ストレスが無くなった時)は急にお腹がすくはずです。

愛犬に食欲がない時は、ストレスを取り除いてあげるのも一つのアイデアです。では、それにはどのような方法があるのでしょうか?

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リラックスと食欲

当院では今回のような問合せを受けた時には、次の2つをおすすめしています。

フードのにおい

よく紹介されている方法にウエットフードを利用する、ドライフードをふやかして温めてみるというのがあります。

好きなにおいがしてくるのは、愛犬の気持ちを落ち着かせる効果があります。フードをすぐに与えずに、前もって15分間ほどにおいだけ嗅がせてあげましょう。

食事前のふれあい

以前、幸せホルモン「オキシトシン」を紹介しました。このオキシトシンにはストレスを抑える作用もあります。そこで愛犬の食事時間の15~30分ほど前に一緒に遊んでみてはどうでしょう?

掃除機をかけた後でも、15分間くらい名前を呼んでふれあって、見つめ合うとお互いにオキシトシンが分泌されます。

他に愛犬が何かの理由でストレスを感じていたとしても、この間にオキシトシンがコルチゾールの分泌を抑えて徐々にリラックスさせてくれます。

フードのにおいや食事前のふれあいによって、愛犬の脳は空腹モードに切り替わるでしょう。食事をしてくれなくて悩んでいるオーナーのみなさんは一度お試し下さい。

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食欲がない愛犬にお勧めアイテム

生肉の新鮮な脂肪分の香りは愛犬の食欲をそそります

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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