ペットの栄養編: テーマ「酵素」
「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
近頃はヒト用のサプリメントとしていろいろな酵素商品が販売されています。今回は酵素を紹介します。
目次
酵素の特性
酵素とは体の中のいろいろな反応を応援するタンパク質です。私たち動物の体内には2,000~3,000種類もあるといわれています。
スペシャリスト
なぜこのように何千種類もの酵素が体の中にあるのでしょうか?それは1つの酵素は1つの仕事しかしないためです。たとえばタンパク質を分解する酵素はデンプンを消化しない(消化できない)といった具合です。
このため体の中では反応の数だけ酵素が必要ということになり、何千もの種類の酵素があるというわけです。酵素は超スペシャリストです。
熱に弱い
酵素の正体はタンパク質です。一般的にタンパク質は70℃くらいで変性します。私たちの体温は36~37℃くらいですから、体内で熱によって酵素が変性することはありません。
酵素は動物だけでなく植物や果物にも含まれています。このような食物中の酵素を「食物内在酵素」といいますが、パパイヤに含まれるタンパク質分解酵素パパインがその代表でしょう。
食物内在酵素の場合、これを加熱調理すると酵素は変性・失活してしまいます。野菜や果物はジュースなど生のままで摂取した方が酵素としての働きは保持されることになります。
このような酵素ですが仕事(=体の中の反応)によって大きく「消化酵素」と「代謝酵素」の2つに分けることができます。
消化酵素
消化酵素は摂取した栄養素を分解する反応に関与するもので、私たちがイメージする酵素そのものです。フードにはいろいろな栄養素が含まれていますが、その基本はデンプン(炭水化物)、タンパク質、脂肪の3大栄養素です。
デンプン分解酵素
フード中にはデンプンとしてトウモロコシや小麦などが含まれています。特にドライフードではつなぎとして40%ほど配合されています。デンプンを分解する消化酵素としてアミラーゼがあります。
以前のコラム「ドライフードという食事」でも述べたとおり、イヌやネコは唾液中にこのアミラーゼをもっていません。デンプンは腸において膵アミラーゼの働きではじめてブドウ糖に消化され利用されます。
タンパク質分解酵素
標準的な成犬用フードにはタンパク質は20~25%以上含まれています。このタンパク質を分解してアミノ酸に変えるのがプロテアーゼです。
タンパク質分解酵素は果物にも存在しています。先ほどのパパイヤ、キウイ、パイナップルなどの内在酵素がそれです。
脂肪分解酵素
脂肪を消化する酵素がリパーゼです。脂肪はこのリパーゼによってグリセリンと脂肪酸に分解されます。
代謝酵素
代謝酵素といってもあまりピンときません。身近なところでいいますと、注射薬や飲み薬は体の中に入ったあと少しずつ分解されてゆきます。この分解に関係しているのが代謝酵素(=この場合は薬物代謝酵素)です。
肝臓の仕事:代謝
肝臓は体の化学工場と呼ばれています。たくさんの仕事を行いますがその1つに「解毒・代謝」があります。
毎日毎日、体の中にはいろいろな化学物質が入ってきます。体に良い物(=くすり)、悪い物(=毒物)に関係なく、肝臓はこれらさまざまな化学物質を代謝酵素を使って無毒な形に分解して、最後には尿と一緒に排泄させます。
一回飲んだら一生効く薬というものが無いのは、この代謝酵素の働きによるものです。
くすりの誤飲
ドラッグストアで買ってきたかぜ薬の説明書を読みますと、「毎食後、3日間服用して下さい」などと書いてあります。かぜ薬の成分が発熱や頭痛を和らげてくれた後、すみやかに分解排泄されてゆきます。
しかし、すべての動物が同じように代謝酵素をもっているわけではありません。ネコの場合では、アセトアミノフェンという化学物質を分解・無毒化する代謝酵素(=グルクロン酸転移酵素)の働きがとても弱いのです。
アセトアミノフェンとはヒト用のかぜ薬や頭痛薬に入っている解熱鎮痛成分です。オーナーのみなさんは、大切なネコがこれらのくすりを誤飲して、中毒を起こさないように自宅常備薬の保管にご注意下さい。
活性酸素分解酵】
「老化の原因の1つは活性酸素です!」などとテレビCMでよく耳にします。
動物にとって酸素は不可欠なものですが、この活性酸素は体の中の細胞を傷つける厄介者です。
しかし、活性酸素は私たちが呼吸をするかぎり必ず発生します。
パンティング
あとひと月くらいで梅雨に入ります。それまでの間、公園やドッグランなどで愛犬と思いっきり遊びたいと考えている方も多いと思います。
イヌは運動のあと浅く速い呼吸を行います。パンティングです。
パンティングは酸素の補給活動であり、もう1つは上昇した体温を下げる働きでもあります。
これから夏場に入ると、イヌはパンティングを行う機会が増えてきます。
活性酸素
このようにパンティングを行うと体内に酸素がたくさん取り込まれます。
これは細胞にとって大切なことですが、同時に厄介者である活性酸素もより多く発生することになります。
このままでは体の細胞はどんどん傷付けられてしまいますので、対応策としてビタミンCなどの抗酸化物質が活性酸素を中和します。
もう1つ根本的に活性酸素自体を分解してしまうという作戦があります。これが活性酸素分解酵素です。
この分解酵素としてグルタチオンペルオキシターゼというものがあります。これもまた代謝酵素の1つです。
パンティングによって発生する活性酸素をどんどん分解してくれる大変な優れものです。
抗酸化ミネラル:セレン(Se)
みなさんはセレンというミネラルを聞いたことはありますか?カルシムやマグネシウムと比べるとマイナーな存在ですが、実はとても重要なミネラルです。
先ほど紹介した活性酸素を分解してくれる酵素(グルタチオンペルオキシターゼ)には、成分としてセレンが必要です。
体内にセレンが不足していると、作られる分解酵素も不足することになります。
このセレンですが自然界では広く土の中に存在しています。したがってペットでは、牧草や穀物を食べている動物の肉を通してセレンを補給することになります。
また海藻を経由して魚からも摂取することができます。
最後にいろいろな生肉に含まれるセレンの量を見てみましょう。含有量としては豚肉に多いのですが、愛犬のフードにはあまり活用されません。
次に多いのが牛肉(15~20μg)、馬肉(17μg)、鶏肉(20μg前後)といったところです(日本食品標準成分 2015年版)。
このようにマイナーなミネラルであるセレンですが、活性酸素を直接分解する代謝酵素の成分であることから「抗酸化ミネラル」と呼ばれています。
運動好きな愛犬に限らず、これからの夏場において、良質なタンパク質とセレンの補給源としての生肉はとても良い食材です。
酵素にまつわる商品
酵素パワー元気
愛犬が苦手とする野菜の消化。
そのまま野菜を食べてもビタミンやミネラルなどの野菜の栄養素をうまく摂取できない問題を解決!
酵素の力で発酵・分解しているので、肉食の愛犬も野菜の栄養素をお手軽に摂取!
新鮮生馬肉
生肉には食物酵素が豊富!
食いつきも抜群で愛犬の毎日のご飯のトッピングや、手作り食に!
パパイヤ粉末
フルーツとしてよく知られているパパイヤですが、
熟す前の青いパパイヤは【消化酵素の王様】と 言われています。
「パパイン」と呼ばれる強いタンパク質分解酵素は、タンパク質以外に脂肪や糖質をも
分解する働きがあります。
愛犬の毎日のご飯にもタンパク質や脂質などがたっぷりだから
スムーズな消化をお手伝い
酵素は体の中のさまざまなところで働いています。ペット達の健康管理の1つとして、これら酵素を意識した生活を送ってみてはいかがでしょうか。
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。