獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「朝フードの炭水化物」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回は昼と夜では食後の体の反応に違いがあるという話をしました。今回は愛犬の朝フードの成分の1つである炭水化物について解説をします。

食事と運動

みなさんは愛犬に1日の内、何時ごろに運動をさせていますか?午前中でしょうか、それとも午後でしょうか。

運動のタイミング

成犬の場合、食事の回数は1日2回が一般的です。時間は朝なら8:00くらい、夕方は5:00~6:00頃かと思われます。ネコと違ってイヌは、間欠採食タイプの動物ですのでいわゆる「ため食い」ができます。

さて、ここで注意が必要なのは運動のタイミングです。仕事の都合により、出勤前や帰宅後に一緒に散歩をされているオーナーも多いと思います。

散歩は別として、ペット雑誌には食後の激しい運動は胃捻転のリスクがあるため控えましょうとよく書いています。これはとても大切なことですが、ここでは食後の血糖値と運動の関係について見てみることにします。

食事直後の運動

日本獣医生命科学大学の生野佐織らは研究論文の中で「食後に猟を行った猟犬が意識障害を起こした」という事例を紹介しています(2016年)。

この場合の意識障害は胃捻転ではなく「低血糖」によるものです。一般的に、食後は血糖値が上がるはずですが、どうして逆の低血糖になったのでしょうか。生野らの報告概要は次のとおりです。

●供試犬 健康な犬4頭(ビーグル♂ 1~5歳)
●3パターンの食事と運動を実施
  A)ブドウ糖給与のみ
  B)ブドウ糖給与30分後に30分間の運動 
  C)絶食して30分間の運動

●血糖値の動き
  A)糖分給与30分後にピークを示し、その後ゆっくりと下降
  B)同様にピークを示し、運動開始10分後に急降下
  C)絶食のため血糖値の動きは見られない

血糖値の急降下

ヒトも動物も食事をすると血糖値が上がります。これは食べ物の中の炭水化物が消化されてブドウ糖になり、血中濃度が高くなるためです。このブドウ糖は体内の細胞や臓器の大切なエネルギー源です。

食後に血糖値が上昇すると血中のブドウ糖は体内、特にエネルギーを必要とする臓器へ供給されます。この代表が筋肉や脳であり、結果的に血糖値は緩やかに低下してゆきます。

ここで問題なのは運動のタイミングです。食事直後に体を動かすと、筋肉と脳との間でブドウ糖の奪い合いが起こります。激しい運動を行う場合、ブドウ糖は優先的に筋肉へ供給されます。

奪い合いに負けた脳はブドウ糖不足に陥ります。あまりにもエネルギー不足が続くと脳の機能が低下し、意識障害や失神を起こしてしまいます。(散歩程度の軽い運動では心配はありません。)

このように、食後すぐ全力で走るような激しい運動を行うと、血中のブドウ糖は一気に消費され、血糖値が急降下するというわけです。

フードの炭水化物源

血糖、すなわち血中ブドウ糖の材料はフード中の炭水化物です。ここではフード成分の炭水化物源と食後の体の反応について考えてみます。

血糖の合計量

日本獣医生命科学大学の秋山蘭らは、異なる炭水化物源フードと食後の血液検査成績について報告しています(2015年)。

炭水化物源としてごく一般的な米、トウモロコシ、小麦の3種類から成る市販フードを朝8:00に健康なイヌ(ビーグル5頭、6~9歳)に給与しました。

結果、各フード給与後12時間の血糖合計量は、およそ1,250mg/dlで大きな差はありませんでした。3種類のフードとも同じ程度に消化され、同等量のブドウ糖が産生されたということです。

インスリンの分泌合計量

各フード給与後12時間のインスリン分泌合計量は、米ではやや少ない感がありますが、3種類とも10ng/dl前後で差は認められませんでした。

炭水化物の消化により上昇した血糖値は、インスリンのはたらきによって今度は低下してゆきます(=正常値にもどる)。

米、トウモロコシ、小麦を成分とするフードでは、どれもほぼ同量のインスリンが分泌され、同じ様に体内の細胞にエネルギー源であるブドウ糖を供給します。

消化吸収スピード

ここまで3種類の炭水化物源の間には、特に差は確認されませんでした。しかし、注目するのはインスリンが分泌される時間帯です。

1時間あたりのインスリンの分泌量を見てみると、米は食後4時間を境としてストンと下がっています。トウモロコシや小麦と比較して、米は食後早期にインスリンがまとまって分泌されるのです。

朝フードを食べた後の4時間とは、ほぼ午前中いっぱいということです。すなわち、米は消化吸収スピードが速く、ほぼ午前中に消化が一段落する炭水化物源であることが判ります。

朝フードの炭水化物

以上の試験成績をふまえて、朝フードの炭水化物と食後の運動の注意点を考えてみましょう。

食後2時間の休憩

朝フードを食べた後4時間くらいは、その炭水化物源が何であっても生理的にインスリンが大量に分泌されます。これは消化の開始により上昇した血糖値を元に戻すためです。

胃の中に入った食べ物は胃液と混ざり合い消化が始まります。胃は活発に活動していますので、この間はできるだけ安静にすべきです。少なくとも食後2時間くらいは愛犬をゆっくりと休ませてあげましょう。

午前中の運動

先ほどの試験データから、米を炭水化物源とするフードは消化吸収スピードが速く、午前中に血糖値を下げるインスリンがまとまって分泌されることが判りました。

また食後4時間はトウモロコシ、小麦においてもインスリンの分泌は盛んです。米に限らず、午前中は血糖値の急降下リスクが高い時間帯であるといえます。

以上より、散歩程度の軽い運動なら支障はありませんが、午前中の激しい運動はできるだけ控えるべきです。

ドッグランは午後に

米は午前中に消化が一段落し、トウモロコシや小麦はほぼ半日をかけて消化が進む炭水化物源です。食後のインスリン分泌と運動のタイミングが合ってしまうと血糖値の急降下が起きるリスクがあります。

このことから、ドッグランのような激しい運動を行う場合は、午前中は避けて午後に予定しましょう。そして、その日の朝ごはんには、米を炭水化物源としたフードが適していると考えられます。

愛犬に与えるフードは市販のものや、手作りフードなど様々です。また、オーナーのみなさんの仕事や家事などの生活スタイルとも関係が深いものです。その日その日の愛犬の活動予定を考慮して、朝フードの内容を考えるのもオーナーの愛情の1つです。

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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