犬種

パグのこと、もっと知りたい! ― 人気の犬種シリーズ ―

JKC(ジャパン・ケネル・クラブ)(※1)では、犬種別登録数が毎年発表されています。
登録頭数が多いということは飼育頭数に比例して人気の犬種だといえるのですが、2018年の統計を見ると1位はここ10年来トップを走り続けている「プードル」。
さらに、2位から20位までを見るとプードル同様、やはり小型犬がその座のほとんどを占めています。

その中にジワジワと順位を上げている犬種がいます。
2000年17位、2005年15位、2010年14位、2017年13位、そして、2018年には11位。
トップ10入りはもう目前でしょうか。

さて、その犬種はというと……「パグ」です。
「パグ」?

ブルドッグに似たあの犬
くしゃくしゃのあの愛嬌のある顔をしたあの犬
見ているだけで癒されるあの犬

そう!
パグです。

今回は、パグの持つその魅力にたっぷり迫ってみることにしましょう!

※1)JKC:一般社団法人ジャパン・ケネル・クラブは、血統書を発行や、各種協議会、展覧会の開催災害救助犬、育成事業等、飼育奨励などの活動をしている団体

パグってどんな犬?

※FCI:国際畜犬連盟は1911年、ドイツ、オーストリア、ベルギー、フランス、オランダの5か国で設立された畜犬団体(ケネルクラブを含む)の国際的な統括団体

你(ニー)好(ハオ)!パグ誕生ストーリー

犬の祖先はオオカミですが、それが進化を遂げていく道すがらで、さまざまな犬へと改良されてきました。
オオカミから突然パグにはなりませんが、パグに近い祖先を探っていくと4000年前の大型犬「マスティフ」と言われています。
この犬はイギリスで番犬として飼育されていて害獣から農場を守っていた時代があったり、また、牛と闘わせる闘技犬として用いられたりしていたのですが、温和で穏やかな性格をしていますし、飼い主さんにとても従順です。
また、外見上の特徴を見ると、額のシワ、目と目の間が離れ気味、頭が大きいという特徴が目立ち、被毛の色はというと、アプリコット、フォーンなど。
これらの性格や外見上の特徴を列挙してみるとパグとの共通項をいくつか見つけることができ、祖先の要素をたくさん持ち合わせているように感じますね。

そんなマスティフの要素が色濃く残っていたパグは、当初はまだ今よりもずっと体格が大きかったのです。
チベットの僧院で飼育され、チベタン・スパニエルやペキニーズなどと交配して小型犬へと改良されました。
仏教を通じて中国へ渡り、魔除けになるとして中国の王室で珍重され大切に育てられたのです。
紀元前600年頃から中国の美術品や文献にも登場していますので、パグの歴史の長さがわかりますね。

中国での飼育が長かったパグですが、その後、ヨーロッパとアジアを結ぶ東インド会社(インダス川より東の地域を指す)が設立され、イギリスやオランダなどと貿易権を持つようになるとパグもオランダへと渡りました。
ここでも、王室で大変可愛がられパグを伴う王の肖像も彫られていたのだそうです。
このようなこともあって、パグは王室や上流階級の人々が好む犬としてその人気を博しました。

17世紀になるとオランダのスペイン侵攻に伴い、パグの存在はヨーロッパに広く伝えられるようになりました。
かのフランス皇帝ナポレオンの妻、ジョセフィーヌもパグを寵愛していたのだそうです。
こうして、パグはオランダからイギリスへ渡り、ヨーロッパ各国の富裕層が好む犬として一躍人気の犬種となったのです。

その後、ヨーロッパでは小型犬や愛好家たちの要望する犬種が増えたこともあって、パグの人気は陰りを見せた時期もありましたが、ヨーロッパからアメリカへ渡ったのち、再び人気の犬として愛犬家を増やしています。
日本でパグの名が知れ渡ったのは、1900年代といわれています。

ちなみに、1850年代ドイツの有名な高級陶器会社マイセンでは、パグをモデルにした置物が製作されています。
マイセンの動物シリーズにも登場するくらいパグの人気はヨーロッパではとても高かったということですね。

外見上の特徴

体格

・がっちりとした筋肉質
・四角い体
・大きな頭

・左右に離れ気味の大きい目
・シワの多いしわくちゃの顔
・前に垂れたボタン耳、短く巻いているロース耳
・上アゴよりも下アゴが長いアンダーショット(別名:受け口)
・くるりと丸まった尻尾
・ペチャンコの鼻

被毛 ― 色

・シルバー:グレーや黒のように見える色
・フォーン:全身が薄茶色のような褐色のような色
・ブラック:全身が艶やかな黒(この色は比較的新しい色であり交配でも色味を出すのが難しい)
・アプリコット:黄みがかったベージュのような色

被毛 ― 長さ

・ダブルコート(上毛と下毛の二層)
・短毛
・上毛は滑らかな毛質

シワ効果で愛嬌たっぷりの表情

このパグという犬種名の由来は数々あるようです。
原産国である中国語の「覇歌(パー・クー)」からという説があります。
これは、「いびきをかいて眠る王様」という意味です。
「パグ誕生ストーリー」の項でも紹介しましたが、パグは中国の王室で飼われていたことに由来して「王様」という意味が使われていることや、短頭種の特徴である「いびきをかく犬」としてその名がつけられたのでしょう。

他にも、ラテン語で「パグナス」という語があり、これは「握りこぶし」という意味です。
そういえば、パグの頭の形は握りこぶしに似ていますね。
その握りこぶしのような顔にはシワがいっぱいで、つぶれたような鼻にクリクリした大きな瞳……バランスがとれているのかいないのかわからないような顔のパーツたちなのに、顔一面から滲み出てくる表情が可愛くて、パグの虜になる飼い主さんが多いのでしょう。

私たち人が顔にシワを作るときというのは、考え事をして「眉間にシワを寄せる」ときや、「えぇ~、そんなぁ~」とばかりに、驚いたりへこんだりしたとき、また、「本当?」とばかりに相手の様子を伺ったりするときなど、案外顔にシワを作っていることが多いものです。
私たちが顔にシワを作っても別段「カワイイ」とはいえませんが、パグのシワは特別なのかもしれません。
パグの表情を豊かにしているもの、それは「シワ」効果でしょうか。
確かにネット上の画像を食い入るように見ていると、表情の七変化とでもいいましょうか、ひょうきんでとても愛嬌のある顔ばかりで、それを引き立てているのがこの「シワ」のようにも思います。

さらに、2018年には「8月9日」を「パグの日」と日本記念協会に正式登録されたことで、いっそうパグへの愛が広がりを見せていて、表情のユニークさが話題になっています。
その記念日にはパグの正装と言われている「日本手ぬぐい」などでほっかむりをした画像をSNSに投稿することがパグ愛好家の中で流行っているのだそうです。
その記念日のコンセプトが「世界中のパグの健康と平和を願う」。
パグが元気に安心して暮らせるよう、世界に平和がもたらされることを願っている心の広い飼い主さんが多くいることも、パグ人気を支える大きな要因なのかもしれませんね。

飼い主さんが世界でいちばんと思っている性格

表情の豊かさかもさることながら、やはりパグの性格も人気に拍車をかけています。
とても穏やかな性格を持ち、飼い主さんに対してとても愛情深く忠誠心があります。
とにかく、飼い主さんが大好きです。
飼い主さんの傍に居られる幸せを誰よりもかみしめているのが、パグなのかもしれません。

ただし、明るく人懐こいので比較的飼育しやすいといわれていますが、幼犬期に甘やかすとわがままで頑固な面が出てしまうことも覚えておきましょう。
しっかりしつけてパグの良さをいっそう引き出してあげたいですね。

・愉快で活発
・穏やか
・遊びが大好き
・飼い主さんの喜ぶ顔を見るのが好き
・独立心旺盛で負けず嫌い
・無駄吠えが少ない

かかりやすい病気と対策

短頭種の犬は気管虚脱、鼻腔狭窄、軟口蓋過長など呼吸器系の病気を起こしやすいです。
息苦しそうにしてハァハァとパンティングしていないか注意してあげましょう。
また、若い年齢に多く発症する「パグ脳炎」と言われるものもありますが、これは原因不明の病気です。
現在では完治できる治療法は見つかっておらず、進行すると大変危険な病気です。
ふだんと違う様子を見せたら、すぐに病院で診てもらいましょう。

壊死性髄膜脳炎(えしせいずいまくのうえん)

別名「パグ脳炎」ともいわれるくらいパグがかかりやすい病気

●症状
・けいれん
・ふらつき(まっすぐに歩けない)
・旋回
・斜頸
・重症化すると意識障害や昏睡状態に陥る

●予防・対処方法
発症から数日から数週間で死に至るケースもある
ステロイドや抗けいれん薬などの投与
なんらかの症状がみられる場合は受診

軟口蓋過長(なんこうがいかちょう)

口の奥にある軟口蓋が伸びると、いびきをかきやすく重症化すると呼吸不全を招く

●症状
・パグなどの鼻の短い犬種に多く、口の中の上あごの肉が垂れてくる
  
●予防・対処方法
・体重の増加を防ぐ
・高温多湿を避ける(とくに暑さには注意!)
・手術:鼻腔を広げたり伸びた軟口蓋を切除したりする

   

鼻腔狭窄(びくうきょうさく)

鼻の穴が狭いため鼻呼吸が難しく、口を開けたまま呼吸する回数が多くなる

●症状
・鼻の穴が狭くなる
・フガフガと音を立て呼吸をする
・いびきがひどい
 
●対処
・回数が多い場合や苦しそうにしている場合は受診

その他のかかりやすい病気

●熱中症
短頭種の犬は、過度な運動や暑い日の散歩や外出は控えたほうが無難です。
また、怪我や病気・出産などで麻酔をしようするような場合は、麻酔から覚めた後に呼吸が十分に行えず、   
命を落とす例もあります。
また、短頭種の犬に関しては飛行機の搭乗を断わる航空会社もあります(ANA・JALなど)

●目の病気
・遺伝によるリスクとしてパグは涙が少ない犬種のため、ドライアイ状態で目の中が傷ついたり結膜炎になったりしやすいです。
・鼻が低い分、散歩などの際には障害物が目に当たる危険度が高く傷つきやすいので注意しましょう。
  
  

飼育のワンポイント

飼い主さんの愛情は何にもまして大切ですが、運動・食事・環境は愛犬の健康を考える上では大切な要素です。
飼育する上でのちょっとしたコツを知れば、飼い主さんも愛犬もストレスの少ない生活を送ることができるでしょう。
 

散歩

散歩は1日2回20分~30分程度が必要です。
特に暑さに弱い犬種ですから、夏場の散歩は朝晩の気温の低い時間帯、冬場はお日様の照っている日中の暖かい時間帯を選びましょう。
お散歩用のウェアも夏バテ防止のものや、防寒対策用のウェアなどもありますので、季節に合ったものを着用してお散歩の時間を楽しむといいですね。
  
また、散歩ができない日などは家遊びで十分満足しますので、ボールなどを使ったり引き運動をしたりして適度な運動を習慣づけましょう。
パグは飼い主さんと遊ぶのが大好きな犬種です。

食事

パグは太りやすい体質です。
食欲旺盛な犬種ですから、与えれば与えた分だけ食べてしまいます。
肥満になると糖尿病、関節、免疫力の低下などを招き健康を害するリスクが高まります。
良質のタンパク質を摂ることで、筋肉質な体格を維持しましょう。
食べものに含まれるタンパク質や脂肪、ビタミン、ミネラルの栄養分をスムーズに消化吸収できることが、免疫力の高い体作りに役立ちます。
良質なタンパク質を摂取し、乳酸菌や酵素を取り入れた食事で肥満対策に取り組んでみましょう。
ドライフード中心の食生活から消化吸収の良い生肉や野菜、果物を含む食事に変えていくことで、肥満の予防へ大きく前進!

シワの手入れ

シワの多い犬種ですから、シワとシワの間にフケや脂肪などの老廃物が溜まりやすいです。
シワの手入れを怠ると皮膚から臭いが発生しやすくなりますし、手入れがしっかりできていないと臭いに加えて皮膚炎や感染症を起こしたりすることにもなりかねません。
しわを伸ばして中の皮脂やほこりや抜け毛などを取り除き、濡れたガーゼ、タオル、ウェットティッシュ等でやさしく拭き取りましょう。
ゴシゴシこすると皮膚を傷つけてしまいますから要注意!
刺激性の少ない除菌消臭効果のあるスプレーグッズなどを利用して常に清潔に気持ちよくしてあげるのもいいですね。
特に、食後の口まわりの汚れはマメに拭き取ってあげましょう。

住まいの環境

短頭種の犬種は、夏の暑さや冬の寒さがたいへん苦手です。
夏の暑さには、クーラーの使用やクールマットなどを使って体の熱を下げてあげるよう心がけましょう。
冬の寒さには、ペット専用の暖房用のマットなどもあり、快適な温度で体をやさしく暖めてくれます。
また、一年をとおして家の外でも内でも日の当たり方は違います。
夏場は直射日光の当たらない場所、冬場は逆に日の当たる暖かい場所へ移動させて気温調節をしてあげましょう。

  

パグをとおして考える

パグについて調べていくと、パグは愛情を与えるというよりも、愛情をいっぱい受けたい派の犬のように感じました。
ベターッと飼い主さんの傍に居たい気持ちが他の犬よりも強いのかもしれませんね。
その性格はどこから?
やはり王室で大事に育てられていたという遺伝子がそうさせるのでしょうか?
ともかく、飼い主さんが大好き! 好き! という素振りをめいっぱい見せてくれるのが、パグです。
よく、パグを人間の子どものように例える飼い主さんがいます。
確かに、子どもが親に甘えて寄ってきてまとわりつくという感じなのかもしれませんね。
「構ってほしいよぉ~」という自己表現ができる犬種というのは、素直なのですね。
その素直さを認め受け入れてあげることこそ、このパグという犬種と上手く付き合っていけるコツかもしれません。

ある程度のしつけや習慣で回避できることがある反面、どうしても避けることができないのがパグなどの鼻の短い犬種などが抱える「短頭閉塞性気道症候群」です。
安定した人気のあるパグやブルドッグなどの鼻をより短いものにしようと、異種交配をしている業者がいるのです。
鼻を短くするということは、鼻の骨が短いということです。
このことにより、鼻の内部を覆っている内壁が短くなった鼻の中に残ってしまうために鼻を塞いで息がしにくくなってしまうのです。
そうなると、呼吸することが難しくなるというリスクが高まり、最悪の場合は死に至ります。

「ペチャンコの鼻イコールかわいい」と思われがちです。
「うちのパグは、豚みたいに鳴くのよ」
「うちの子は、寝ているときにイビキをかくの」
「鼻の低さが魅力よねえ」

これは決してパグへの褒めことばではなくて、そのかわいらしさの裏側で健康上の問題を抱えた犬が作り出されて誕生しているということです。
もし、パグがしんどそうに呼吸をしている場面に遭遇したら、それは、この犬種たちが持つ最大のリスクなのだということを、どうか心に留めておいてください。

犬の祖先のオオカミからパグに至るまでの長い歴史に、どれほど人間の手が加わり改良がなされてきたかを知れば知るほど、今、目の前にいる愛犬の健やかな成長を願わずにはいられませんね。

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愛犬に生肉を与え続けて10年の川瀬隆庸が監修

株式会社帝塚山ハウンドカム
代表取締役 川瀬 隆庸

  • 社団法人 日本獣医学会 正会員 会員No.2010172
  • 財団法人 日本動物愛護協会 賛助会員(正会員)No.1011393
  • ヒルズ小動物臨床栄養学セミナー修了
  • 小動物栄養管理士認定
  • D.I.N.G.Oプロスタッフ認定
  • 杏林予防医学研究所毛髪分析と有害ミネラル講座修了
  • 正食協会マクロビオティックセミナー全過程修了

愛犬の健康トラブル・ドッグフード・サプリメントなどアドバイスをいたします。

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