獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「フード材料の鉄分」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
貧血ということばがありますが、これは病名ではなく「症状」や「病態」を指す名前です。今回は、貧血と大変関係が深い栄養成分である鉄をテーマに取り上げようと思います。

体内の鉄

ミネラルの1つである鉄ですが、からだの中では血液、肝臓、脾臓、骨(骨髄)、さらには筋肉中に存在しています。鉄のしごとは主に次の3つになります。

①酸素の運搬

鉄の一番のしごとは赤血球中のヘモグロビンの構成成分となって、酸素を運搬することです。体内の鉄のおよそ65%を占めているヘモグロビンですが、次のような構成をしています。

ヘモグロビン=ヘム鉄(鉄+ポルフィリン)+グロビン(タンパク質)

ヘモグロビンは血液の赤色のもとになっているもので、血色素とも呼ばれます。また「ヘム鉄」とはあまり聞き慣れないことばですが、この説明はのちほど詳しく行うことにしましょう。

②鉄の貯蔵

貧血対策にはレバーを食べましょう、とよくいわれます。これは肝臓(レバー)には、鉄がフェリチンというタンパク質と結合して貯蔵されているためです。これを貯蔵鉄といいます。

フェリチンは肝臓の他に脾臓や腎臓にも存在していて、体内で鉄が不足した場合の供給源になっています。

③酸素の貯蔵

赤身の肉として馬肉、赤身の魚としてマグロやカツオがあります。これら動物の共通点は運動量がとても多いということです。筋肉は運動をするために多くのエネルギーを必要としますが、そのためには多くの酸素が必要になります。

運動中もしもの酸欠に備えて、筋肉はミオグロビンという酸素を貯蔵している赤い色素を含んでいます。ミオグロビンは、運動中に血液からの酸素供給が不足した場合の酸素ボンベのようなものです。

体内リサイクル

体内の鉄の半分以上を占める赤血球には核(DNA)がありません。従って、他の細胞のように自分で増殖することはできず、赤血球はおよそ120日で寿命が尽きてしまいます。

古くなった赤血球は脾臓で破壊・処理されます。この後、中の鉄は取り出されて骨に運ばれます。骨の中心部分である骨髄において、今度は新しい赤血球のヘモグロビン成分として再利用されます。

体内の鉄は不足した時は肝臓などにある貯蔵鉄が活用され、逆に不要になった場合は糞便中に排泄されます。しかし、基本的には鉄は体内をグルグルとリサイクルされるミネラルといえます。

フード材料中の鉄

フード材料のメインはタンパク源としての肉類です。では、鉄分を多く含んでいる肉としては何があるでしょうか?

肉の鉄含有量

日本食品標準成分表(2015年七訂)によりますと、各種肉100g中に含まれる鉄の量は次のようになっています。

●鉄分が多いもの
牛肉(2.7㎎)、馬肉(4.3㎎)、鹿肉(3.1㎎)
●鉄分が少ないもの
豚肉(0.9㎎)、鶏肉(0.6㎎)

肉の他に鉄分が多いものとしてレバーがあります。各動物のレバー100gあたりの鉄含有量は、牛レバー(4.0㎎)、豚レバー(13.0㎎)、鶏レバー(9.0㎎)です。レバーの中でも豚レバーの鉄量は飛び抜けて多いことに驚きです。

先ほども述べましたが、赤身が強い馬肉や鹿肉、肝臓(レバー)では鉄の含有量が多いことが判ります。鉄は体内に存在している場合、すなわち鉄イオンとしての状態では赤色をしているということです。(金属としての鉄は赤色ではありませんのでご注意)

鉄の吸収率

貧血対策として肉や肝臓(レバー)が有効であることはよく知られています。しかし、大切な点は食材自体の「鉄含有量」と、からだへの「吸収率」です。いくら鉄分を豊富に含んでいる食材でも、腸管から吸収されにくい場合は効果が薄くなってしまいます。

香川県赤十字血液センターの内田立身は、各種食材の鉄吸収率を次のように報告しています(「鉄材の適正使用による貧血治療指針 改訂第2版」より)。

●吸収率が高いもの
牛・豚レバー(13%)、肉類(23%)、魚(8%)
●吸収率が低いもの
野菜類(1~4%)、ほうれん草(1%)

肝臓(レバー)は鉄の含有量がとても多い食材ですが、吸収率としては肉の方が高いことが判ります。また、肉類に比べて野菜類の鉄吸収率は、とても低いようです。

野菜の中でも鉄分が多いといわれているのがほうれん草です。ほうれん草は100gあたり2.0㎎と多くの鉄を含んでいますが、その吸収率は1%しかありません。同じ鉄分なのに何か違いがあるのでしょうか?

2種類の鉄

肉や魚、野菜類などフード材料中に含まれている鉄ですが、その形によって2種類に分けられます。これをヘム鉄と非ヘム鉄といいます。

ヘム鉄と非ヘム鉄

ヘム鉄とは、鉄イオンがポルフィリンという有機化合物に包まれた形をしたものをいいます。これに対して、鉄イオンが裸の状態のものを非ヘム鉄と区別しています。

フード材料でいいますと、肉や魚など動物性の食材にはヘム鉄が、野菜・穀類など植物性の食材には非ヘム鉄が含まれています。

大切なのは次の点です。からだへの吸収率はヘム鉄の方が高く(10~30%)、非ヘム鉄は低い(1~8%)という違いがあります。これは非ヘム鉄の場合、摂取後に腸管内で裸の鉄イオンが、タンニンや食物繊維などによって吸収阻害を受けてしまうためです。

前出の鉄吸収率のところで、肉・レバー・魚に比べて野菜・ほうれん草の値が低かったのは、このヘム鉄と非ヘム鉄の関係によるものでした。しかし、非ヘム鉄でもビタミンCを一緒に摂ることにより、その吸収率は大幅にアップするといわれます。

ここまで比較するとヘム鉄の方が断然勝っている感がありますが、1つ弱点があります。それは、ヘム鉄は加熱により非ヘム鉄に変性してしまうことです。しかし、動物性食材に豊富に含まれるヘム鉄が、体内への鉄補給という目的に適していることは確かです。

ヘム鉄の存在割合

先ほど動物性食材では主としてヘム鉄が含まれていると述べましたが、すべての鉄がヘム鉄という形で存在しているわけではありません。食材中の全部の鉄におけるヘム鉄の割合についての報告があります(小島一良ら 農林水産省東京農林水産消費技術センター 1993年)。
 
これによりますと、牛肉(約73%)、豚肉(約67%)、鶏肉(約46%)、マグロ(約66%)となっています。ちょっと意外なのは豚レバーで、ヘム鉄の占める割合は約17%です。

肝臓(レバー)は確かにトータルの鉄含有量は多いのですが、その割合としては非ヘム鉄の方が高くなっています。これは、肝臓が裸の鉄イオンを貯蔵鉄としてキープしている臓器であるためと考えられています。

加熱の影響

鉄はミネラルですのでビタミンと違って熱によって壊れるという心配はありません。しかし、吸収率の良いヘム鉄は熱の影響を受ける場合があります。大阪市立大学の山本由喜子らは、肉を加熱した場合のヘム鉄の減少率について調査をしました(1993年)。

各種肉を170℃で30分間加熱した場合、加熱前と比較してヘム鉄の割合は、牛肉は約25%減少、鶏肉では約20%減少したということです。(なお、豚肉は計算上4%増加となっていますが、実質は増減なしということでしょう)

この場合、ヘム鉄の減少は「総鉄分の喪失」という意味ではありません。加熱によって鉄イオンを包んでいるポルフィリンが変性して、裸の鉄イオンすなわち非ヘム鉄になったということです。

加熱の条件(温度と時間)にもよりますが、動物性食材の場合、生肉はヘム鉄がキープされるため、鉄分の吸収が良好であると考えられます。

ペットの貧血は各種疾病の一症状だけでなく、高齢化による造血能力の低下に伴っても認められます。オーナーのみなさんは、愛犬・愛猫の貧血対策としてフード材料の鉄含有量、からだへの吸収率、加熱など調理方法による影響についてもチェックして下さい。

次回は高齢ペットの貧血対策について紹介しようと思います。

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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