獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「野菜とペットの健康」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回は、手作りフードのレシピの中には、栄養成分が不足しているものが少なくないという話をしました。今回は使用食材の1つである野菜を取り上げようと思います。

手作りフードの食材

維持期のイヌ用手作りフードレシピ208例(オーナー実践レシピ63例、書籍紹介レシピ145例)を対象にした使用食材報告がありますので紹介します(清水いと世ら 京都大学 2017年)。

6つの基礎食材

厚生労働省では食品・食材を6つに分類して、バランスのとれた栄養を摂取するための「6つの基礎食品」という考え方を提唱しています。まずは、この6つのグループを軽く確認しておきましょう。

○第1類(良質なタンパク質源)
  …魚、肉、卵、大豆
○第2類(カルシウムの供給源)
  …牛乳、乳製品、骨ごと食べられる魚
○第3類(カロテンの供給源)
  …緑黄色野菜
○第4類(ビタミンCの供給源)
  …淡色野菜、果物
○第5類(糖質性エネルギー源)
  …米、パン、めん、いも
○第6類(脂肪性エネルギー源)
  …大豆油、マーガリン、バター

フード食材の分類

清水が調査した手作りフードレシピ208例において、各グループで採用されている食材トップ3(全レシピあたりの採用率%)を見てみると次のような結果になっています。

●第1類 
…鶏肉(41%)、大豆製品(25%)、豚肉(21%)
●第2類 
…海藻類(27%)、乳製品(13%)、小魚類(12%)
●第3類 
…ニンジン(41%)、ブロッコリー(19%)、カボチャ(17%)
●第4類 
…キャベツ(29%)、大根(16%)、まいたけ/白菜(10%)
●第5類
…精白米(42%)、サツマイモ(11%)、ジャガイモ(10%)
●第6類
…オリーブオイル(26%)、ごま油(20%)、亜麻仁油(14%)

タンパク源としては鶏肉、炭水化物ではごはん(精白米)の採用率が高い様です。また今回のテーマである野菜類では、ニンジンやブロッコリーといった緑黄色野菜を使ったレシピが多いです。これには「健康に良い」とか「見た目の鮮やかさ」の意味が大きいと思われます。

フードの野菜類

野菜類は水分量が80~90%と高く、ビタミンA(カロテン)やビタミンC、食物繊維を豊富に含む食材です。ここではフードによく使われる野菜類について見てみましょう。

緑黄色野菜

緑黄色野菜とは、単に色が鮮やかな野菜という意味ではありません。原則として「100gあたりカロテンを600μg以上含む野菜」と定義されています。

カロテンとは、動物の体内でビタミンA(レチノール)に変わるプロビタミンAという物質の1つです。カロテンには3種類(α、β、γ)ありますが、中でもβカロテンはビタミンAへの変換率が最も高いといわれています。

このように、第3類食材はビタミンA供給源ともいえます。100gあたりのβカロテン含有量が多い野菜としては、モロヘイヤ(約10,000μg)、ニンジン(約8,500μg)、ほうれん草(約5,000μg)が代表です。
 
ビタミンAは、視力や皮膚/粘膜のはたらきを応援してくれる脂溶性のビタミンです。野菜以外にも鶏卵やレバー(肝臓)にも多く含まれています。

淡色野菜

緑黄色野菜と比べるとカロテンの含有量は少ないものの、ビタミンCやカリウムに富んでいるものを淡色野菜と呼んでいます。大根、キャベツ、レタス、もやしの他に、キュウリやネギ、グリーンピースも淡色野菜です。

ビタミンCは、キャベツ100g中に41mg、大根では12mg含まれる水溶性のビタミンです。

なお、私たちヒトと異なりイヌはビタミンCを体内で合成できるため、第3類食材(淡色野菜、果物)を積極的に摂取する必要はないとされています。

注意したい野菜

このように手作りフードレシピには、けっこう野菜が使われています。この中でペットの健康にとって注意しておきたい食材があります。

シュウ酸

シュウ酸はいわゆる「あく」の成分で、野菜のエグ味の原因物質です。食材に由来するシュウ酸は最終的に尿中に排泄されます。尿において、シュウ酸とカルシウム(Ca)が結合して結晶になったものがシュウ酸Ca結石です。

シュウ酸を多く含む野菜の過剰摂取や継続摂取は、尿路結石を引き起こす原因になります。このため尿中のシュウ酸は、尿路結石症のリスクファクターといわれています。

シュウ酸を含む野菜

シュウ酸を含む野菜としては、次のようなものがあります(尿結石症診療ガイドライン 2013年版)。

○とても多いもの
…ほうれん草(100gあたり800㎎)
○ある程度含んでいるもの
…ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、レタス(300㎎)
…サツマイモ(250㎎)
○少ないもの
…大根、小松菜(50㎎)

ほうれん草は緑黄色野菜としてβカロテンが多く、またシュウ酸含有量も高い野菜ということになります。フード食材として使用する場合は、注意と工夫が必要です。

なお、ほうれん草に比べてブロッコリーやサツマイモに含まれる程度のシュウ酸量では、あまり心配することは無いと思われます。

煮込み野菜が安心

私たちの食事において、野菜は生よりも茹でた方がボリュームは減りたくさん食べることができます。また食物繊維を多く摂取するという点でも、茹で野菜が適しています。

野菜に含まれるシュウ酸も茹でることにより、その量を軽減させることができます。ほうれん草のシュウ酸量は、茹で時間が長いほど減少率は大きくなり、1分間で20%、5分間でおよそ50%まで減少すると報告されています(寺沢なお子 金沢大学 2009年)。

イヌ用の手作りフードレシピでは、キャベツ、ブロッコリー、サツマイモを使用するものが多かったようです。尿石症が気になる愛犬の場合は、野菜の下茹でが効果的ということになります。

また、野菜はスープ煮やポトフのように煮込むことにより、柔らかく味も良くなります。加えてシュウ酸のリスクも軽減されるため、煮込み野菜はお薦めの調理方法といえます。

野菜と尿石症

野菜に含まれる「あく」=シュウ酸は尿石症の原因物資です。最後に近年の尿石症事情をお知らせします。

尿石症の代表

尿石症の代表としては、イヌではストラバイト結石症(リン酸アンモニウムMg)、ネコではシュウ酸Ca結石症が多いといわれています。これは、ストラバイト結石はアルカリ性尿、シュウ酸Ca結石は酸性尿で形成されやすいためです。

ちなみに、通常の尿pHはイヌが7.4で中性~ややアルカリ性、ネコは6.9でやや酸性~中性です。それぞれの尿石症と相関性があるように思えます。

近年の尿石症

海外の研究者がイヌとネコの尿石症の発生割合を報告しています。ネコでは1980年代、ストラバイト結石症が90%以上あり、シュウ酸Ca結石症はわずか3%程度でした。それが2000年代にはほぼ同じ割合になっています。

この発生割合の推移はイヌでも同様です。20年ほど前から、イヌネコともにシュウ酸Ca結石症が占める割合が増えてきており、ストラバイト結石症とほぼ同じくらい発生しています。

国内においても、イヌの尿石症に関して詳細な調査があります(上田綾子 ロイヤルカナンジャポン 2014年)。上田は2008年~2011年の期間中の発症例2,000例について次のような結果を報告しています。

○尿石症の内訳 
…ストラバイト結石症(44.7%。)、シュウ酸Ca結石症(43.7%)
○雌雄割合 
…オス(82.7%)、メス(17.3%)
○好発犬種
…ミニチュア・シュナウザー、シー・ズー、ヨークシャー・テリア

このように現在では、国内外においてペットの尿石症ではストラバイト結石症とシュウ酸Ca結石症は、ほぼ同等の割合で発生していることが判ります。

この理由については解明されていませんが、少なくともリスクファクターであるシュウ酸は食材を由来とすることは確かです。尿石症予防という点では、フード食材を通して結石が形成されにくい生活環境をつくることがポイントです。

今回は手作りフードに使用されている野菜の特性について考えてみました。ペットにとって野菜は決して不要な食材ではありませんが、含まれている栄養成分や調理方法などの健康への影響についても情報を収集することはとても大切です。

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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