知人のところにいるのは、9歳のヨークシャー・テリア。
家を訪ねるといつも元気に迎えてくれます。
飼い主さんにヨークシャー・テリアの魅力を尋ねると、「毛が艶々してきれいなところ」と回答。
確かに、初めてその子を見たとき、何とも言えない美しい毛色と輝きに見惚れたことを思い出します。
しかしながら飼い主さんの話では、最近トリミングに行くと決まって「毛が絡まって毛玉ができています」と、トリマーさんに注意を受けるとか。
「どうすれば毛の美しさを保つことができるのかしら?」と、困り顔。
そう!
ヨークシャー・テリアの被毛は世界一の美しさと表現されることもありますが、それを維持していくにはどうしたらいいのでしょうか。
さて今回は、ヨークシャー・テリアの魅惑的な被毛の美しさも踏まえて、詳しく見ていくことにしましょう。
目次
ヨークシャー・テリアってどんな犬?
※FCI:国際畜犬連盟は1911年、ドイツ、オーストリア、ベルギー、フランス、オランダの5か国で設立された畜犬団体(ケネルクラブを含む)の国際的な統括団体
ヨークシャー・テリア誕生ストーリー
ヨークシャー・テリアの名前の由来にもなったイギリスのヨーク地方は、産業革命による工業化の発展とともに、「ヨークシャー炭田」としても19世紀中ごろには大変栄えていました。
労働者にとっての楽しみのひとつが賭け事。
当時は1頭のテリア犬がドブネズミ50匹を何分で殺せるのかという「ドブネズミ50匹 早殺し競争」と、ちょっと物騒なネーミングのゲームが流行り楽しんでいたようです。
その競争犬となっていたのが足の速いマンチェスター・テリアという犬種。
この賭け事は人気となりテリア種は評判となります。
その当時、テリア種といえばネズミなどの害獣駆除犬として倉庫や家庭において活躍していましたから、そのようなゲームにテリア犬がひと役かっていたのは納得できますね。
しかし、動物愛護精神の声が多くなるとゲームは禁止になり、テリア犬たちは本来の駆除の仕事に励みます。
狭い倉庫の隙間に入り込むために小型化が進められ、マンチェスター・テリアをはじめクライズデール・テリア、マルチーズ、スカイ・テリア(絶滅種)などと交配が進められていきました。
その際、偶然にも美しい被毛をもったテリアが誕生したのです。
それが、「ブロークン・ヘアード・スコッチ・オア・ヨークシャー・テリア」ですが、名前が長すぎたのでその後、「ヨークシャー・テリア」と呼ばれるようになりました。
美しいヨークシャー・テリアのことは、徐々に英国上流階級の婦人たちの耳にも入り流行の兆しを見せます。
おしゃれな婦人たちに抱かれたヨークシャー・テリアの輝く被毛が、彼女たちの胸元を飾ったことから「動く宝石」と呼ばれるようになったのです。
人気に拍車がかかりヨーロッパからアメリカへ渡りました。
その後、さらに小型化の改良が行われるようになったものの、稀に大きなヨークシャー・テリアが生まれたのは、たくさんの犬種との交配の影響を受けているからだという説があります。
日本では高度経済成長期に入り生活様式に変化がみられるようになると、番犬として外飼いしていた飼い方もペットとして室内で飼育するようになっていきました。
その当時、マルチーズ、ヨークシャー・テリア、ポメラニアンは、寒さに弱い小型犬として室内で飼育する代表格の犬種でした。
現在、国際家畜犬連盟(FCI)では344種類の犬種が正式登録されています。
JKC(ジャパン・ケネル・クラブ)の登録頭数の順位を見ると、2000年は6位、2005年は4位、2010年は5位、2015年は6位、そして2018年には7位というふうに、ヨークシャー・テリアは常に10位以内をキープしている人気犬種です。
今や、ヨークシャー・テリアはネズミを追う犬種ではなく、世界中の人々から愛されるトイ(愛玩)的存在となりました。
外見上の特徴
体格
世界一小さいチワワに次ぐ犬種ともいわれていて華奢な体つきの個体が多いですが、中には骨太でガッチリした個体もいます。
その理由としては、ヨークシャー・テリアは作出されるまでにさまざまな犬種と交配して改良したためで、その遺伝的因子が強く出ると7㎏ほどに成長する個体もいます。
ふつう3か月には700gほどの体重は、6か月ぐらい経つと2,3倍に増え、10か月の頃には成長がそろそろ止まり、体重は2、3㎏程度になります。
しかし、大きく成長するヨークシャー・テリアの場合は、6か月頃の成長期にすでに兆しが見えるようです。
顔
・頭部は比較的小さい
・両眼の間にはくぼみがはっきりしている
・マズルはさほど長くはないが鼻筋はまっすぐ
・小さな顔にまん丸でクリクリした目と鼻の位置のバランスがよい
・頭の両サイドにピンッと立ち上がった三角耳
被毛 ― 色
ヨークシャー・テリアを語るとき、そのキラキラと光り輝くような被毛の美しさは、言うまでもありません。
絹糸状の柔らかな被毛は今も昔も「動く宝石」と例えられるのは、成犬になるまでに被毛の色が「7回変化する」言われ、全身をまとうその美しさに魅了されるためでしょう。
子犬の頃は黒色を基調としたブラック&タンが多いのですが、成長とともに頭部を中心にタンの色が増え、黒色はシルバーがかった色、赤みのある毛色はゴールドがかった色へと根元から変化します。
タンは黄褐色の色を指し、顔から胸にかけてゴールデン&タン、背中からはブルーがかった光沢のあるスチールブルーの直毛が表れる個体もいます。
成犬になる頃にはダーク・スチール・ブルーの色に定着していきますが、個体によっては被毛の色の濃淡や色の現れ方に違いがあります。
ところでここ最近、日本のシニア世代の間では「グレイヘアー」が話題を集めているようです。
年齢とともに黒髪から白髪へと移行していく状態を「グレイ」と表現しているのですが、中には白髪というよりもなんとも美しい「シルバーグレイ」の輝きを放つ髪の持ち主がいます。
柔らかい絹のような色合いは、どこかヨークシャー・テリアのあの輝きと似ています。
自然に変化する毛の色は、それぞれがもつメラニン色素の組み合わせや被毛の量によって違いが出ます。
人も犬も一生をとおして自然に変化していく毛色は、実に魅力的といえますね。
被毛 ― 長さ
・シングルコートで抜け毛が少ない
・長毛種なのでカットをしないと地面に着くほどに伸びる
長毛を活かして飾りゴムやクリップ留をアクセントすると可愛らしさがいっそう引き立ちます。
目の周りの毛が眼球を傷つける場合がありますから、部分的にカットしましょう。
また、口まわりや肛門まわりは汚れがつきやすいので、汚れたらすぐに拭き取りましょう。
ヨーキーの性格
ヨークシャー・テリアは省略して「ヨーキー」と呼ばれています。
ダジャレの好きな人は、ヨーキーの性格は「陽気!」などと言って周りを笑わせたりしているようですが、はたして本当に陽気なのでしょうか。
・好奇心や冒険心に富む
・恐いもの知らず
・エネルギッシュでパワフル
・頑固、マイペース
・人懐っこく甘えた
・寂しがり屋
・陽気で明るい など
ヨーキーはやはり、陽気な性格のようですね。
しかし、個体によってどの性格が強く出るのかは環境と育て方しだいです。
愛情たっぷりのしつけをして、個々のすばらしさを伸ばしてあげましょう。
かかりやすい病気と対策
先天性門脈体静脈短絡(先天性門脈シャント)
門脈は消化管から吸収した毒素(アンモニアなど)を肝臓で解毒した場合は全身に回る心配はないのですが、
別にできた異常な血管(シャント)によって肝臓を経由することなく毒素が全身に流入されてしまい、肝性脳症や膀胱結石など、さまざまな病気を引き起こします。
先天性もので1~2歳くらいで発症します。
●症状
・食べむらがあり痩せてくる
・嘔吐や下痢
・ふらついて歩く
・ぐったりする
・多飲多尿になる
・旋回運動(くるくる回る)
・痙攣
・よだれ
●予防・対処方法
先天的なために現時点では予防法はありません。
対処方法としては、食事療法 / 内科・外科療法
腸リンパ管拡張症
腸のリンパ液の流れに障害が起きてリンパ管が拡張または破綻し腸の中にタンパク質やリンパ液が漏れ出してしまう病気。
原因のひとつに先天的な要因が挙げられています。
●症状
・慢性的な嘔吐や下痢
・食欲不振
・体重の減少
・腹水が溜まる
●予防・対処方法
現時点での予防法はありません。
発症が見られたら、食事療法としては低脂肪で良質なタンパク質の食事と中鎖脂肪酸を与え腸のリンパ管の負担軽減をはかります。
症状が見られたら早期に受診をすることをお勧めします。
膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)
後ろ足の膝関節にある膝蓋骨(膝のお皿)が通常の位置からずれてしまうことですが、骨が脱臼すると靭帯の機能にも支障をきたし、足を地面に着くことができなくなります。
小型犬に多い遺伝性のものや、また、生活環境などによる外傷などが原因といわれています。
●症状
・スキップするように歩く
・足を浮かせるように歩く
・足を引きずったり、かばうように歩いたりする
・重症化するとうずくまった姿勢で歩く
●予防・対処方法
フローリングなどの滑る素材の床材は足腰に負担をかけてしまうため、骨を変形させないよう滑り止めの床ワックス使用やジョイント式のタイルカーペットを敷くなど生活環境の見直しが必要です。
また、勢いをつけソファに上り下りをすると足に負担をかけるので補助できる踏み台などを設置。
足の筋肉がつくような運動や食事を心がけ、体重増で足に負担がかからないように体重管理が必要。
対処方法は、鎮痛剤の使用や外科手術などです。
美しい被毛を保つための飼育ポイント
被毛の手入れ
【ブラッシング】
ヨークシャー・テリアは長毛種ですから、放置しておくとどんどん伸びます。
被毛の手入れを怠ると、絡まりやすく汚れが皮膚や毛の間に溜まりやすいです。
一度絡まってしまうと毛玉になったり、蒸れ易くなったりして皮膚トラブルにもなります。
ブラッシングは皮膚に適度な刺激を与え血行を良くしますから、美しい被毛を維持するためにも1にも2にもブラッシングは必要です。
散歩から帰ったらホコリなどを払う意味でも、軽くブラッシングをすることや、シャンプーの前には必ずブラッシングをしておくと絡んだ毛が取り除かれて汚れ落ちが楽です。
【シャンプー】
月に1,2度くらいが目安ですが、体臭を感じたらシャンプーをしてさっぱりしてあげましょう。
ただし、頻繁にシャンプーをすると皮脂を取り除きすぎてしまいますから、洗いすぎには注意。
シャンプー剤は肌にやさしい低刺激のものや天然成分のものを選びましょう。
また、シャンプーするほどでもないけれど少しの汚れが気になるときは、水入らずのウェットティッシュ型シャンプータオルなどの利用も便利です。
シャンプー後は濡れた毛をそのままにせず、ドライヤーで素早く乾かしブラッシングで整えましょう。
【乾燥・保湿・毛のほつれ予防】
ブラッシングをするときにローションを付けるとくし通りもよくなりますし、静電気の防止にもなります。
アロマエッセンスのローションは、フケや体臭予防にも役立ち、香りがリラックス効果を高めてくれます。
また、被毛の乾燥が気になるときは、乾燥用のスプレーやクリームなどを利用して光沢のある美しい毛を維持しましょう。
被毛の美しさを保つ食事
ヨークシャー・テリアの被毛の美しさを保つためにブラッシングやシャンプー以外に、もうひとつ大事なのは、「食事」です。
ここでは、毛の成長や健康的な被毛を維持するための栄養成分と食材を紹介することにしましょう。
◎毛の主成分は「ケラチン」というタンパク質から作られる
□肉類・魚類・乳製品・大豆製品・卵など
◎頭皮乾燥を防ぐビタミンA
□レバー・チーズ・ニンジン・カボチャなど
◎毛の艶を保ち抜け毛を防ぐビタミンB群
□レバー・納豆・カツオ・マグロ・バナナ・豆類・菜の花など
◎皮膚の保湿を保つバリア機能の働きをするオメガ3脂肪酸
□サンマ・サバ・アジ・亜麻仁オイル・オリーブオイルなど
他にも抗酸化作用のあるビタミンE、ケラチンの生成を促す亜鉛、毛質を強くするコラーゲンの生成にはビタミンCなどが良いとされています。
多くの飼い主さんが、市販されている総合栄養食品のドッグフードを愛犬に与えていることでしょう。
成分表を見るとたくさんの食材が使用されていますから、それと新鮮な水さえあれば安心と思いがちです。
ところが、ドライフードは高温で熱処理されているため、食材の栄養がすべて活かされているとは限りません。
例えば、タンパク質に含まれる酵素は消化吸収を助ける働きがあるのですが、高温熱処理されるとその働きが損なわれてしまうのです。
そこで、タンパク質をたっぷり含む生肉(鹿肉・馬肉・鶏肉・シシ肉・ラム肉・合鴨肉・ダチョウ肉・カンガルー肉など)をドライフードにトッピングするだけで酵素を摂取することができるというわけです。
被毛に良いとされるタンパク質をより良い状態で摂取できる利点は大きいですね。
そして、さらに必要な栄養素をバランスよく含んだ食材「生食・ローフード」というものがあります。
〇生肉を中心に生贓物、生骨、発酵野菜や果物を原材料とした栄養バランスの整った総合栄養食
〇熱加工されていない生の食材を用いているため栄養が損なわれない
という大きな特徴をもっています。
発酵野菜や果物が含まれていることやカルシウムをたっぷり摂取できる点からも、ヨークシャー・テリアの被毛の美しさを維持するのに相応しい食べものといえるでしょう。
暑さ寒さの注意点
シングルコートのヨークシャー・テリアは抜け毛が少なくて楽だという反面、特に寒さに弱いことを知っておきましょう。
体温調節するアンダーコートが無い分、気温には敏感です。
夏場は厳しい暑さを乗り切る短めにサマーカットでさっぱり涼しくしたり、クーラーなどを上手く利用したりして暑さ対策をしましょう。
お留守番をさせるときは、クーラーを切らずに一定の室温を保ってあげて、寒くなり過ぎないように注意してください。
そして、最も気を付けたいのが寒さ対策です。
ハーネスで保温したりベッドには毛布を敷いたりして暖かくする工夫をしましょう。
ただし、あまり神経質になりすぎて犬用の湯たんぽにヒーター、エアコンと室温を高くし過ぎると脱水状態を起こす恐れがあります。
こたつの中に入れて暖めることもやめましょう。
あくまでも愛犬の様子を見ながら適切な器具や道具で温度調節を行うことが大切です。
ヨークシャー・テリアをとおして考える
ヨークシャー・テリアの平均寿命は14年から16年ほどです。
一般的には大型犬よりも小型犬の方が長生きをする傾向にありますが、ここ最近、小型犬をさらにしのぐ小さいサイズが世の中に出回っています。
「超極小」「極小」「ティーカップ・サイズ」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
ネット販売のサイトの中には、それを専門に販売している業者がいます。
「衝撃の超極小サイズ!」の文言と「成約済み」の文字。
犬種では、トイプードル、ロングコートチワワ、ポメラニアン、パピヨン、そしてヨークシャー・テリアの名前が連なります。
生後50日ほどで300gにも満たない子犬。
ティーカップにすっぽり入ってしまうくらいの小さな体。
では、その極小サイズの個体たちの寿命は長いのかと言えば、答えはNO!です。
小さすぎるということは
・骨格の発育不全
・骨折が多い
・食事の摂取量が少ないため成長速度が遅い
・体力的に弱い
・虚弱体質
・伝染性疾患のリスクが高い
・頭部骨格の発育不全による泉門開存症や脳障害の発症
というリスクを背負う可能性が高いのです。
今回、ヨークシャー・テリアのことを調べていると、被毛の美しさはもちろんのこと、そのサイズの小ささもこの犬種の人気を支えていることがよくわかります。
より小さいものを作り出すブリーダーや売り手、そして、買い手がいること。
小さい犬種を作出するために、ただただ「小さい」ことだけを追求して交配させている背景があるのです。
小さいということは、上記にもあるように健康面でのリスクが高いです。
弱い因子を持って生まれてくる確率が高いといってもいいでしょう。
犬はぬいぐるみのおもちゃではありません。
尊い命をもって生まれて、そして生きているのです。
「小さければいい」という条件のみで飼う前に、もう一度、小さな個体たちが持つ大きなリスクも理解しましょう。
小さくても大きくても、それぞれが持つ命がより長く健康的に過ごせることを願ってやみません。
帝塚山ハウンドカムのネットショップ
愛犬に生肉を与え続けて10年の川瀬隆庸が監修
代表取締役 川瀬 隆庸
- 社団法人 日本獣医学会 正会員 会員No.2010172
- 財団法人 日本動物愛護協会 賛助会員(正会員)No.1011393
- ヒルズ小動物臨床栄養学セミナー修了
- 小動物栄養管理士認定
- D.I.N.G.Oプロスタッフ認定
- 杏林予防医学研究所毛髪分析と有害ミネラル講座修了
- 正食協会マクロビオティックセミナー全過程修了
愛犬の健康トラブル・ドッグフード・サプリメントなどアドバイスをいたします。