「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回と前々回では牛乳の困りごとについてお知らせしました。ヒトやペットにとって、牛乳は大変魅力ある食材です。近年、牛乳と同等の栄養内容をもち、アレルギーのリスクが低いものとして、注目されているのがヤギミルクです。
目次
ウシとヤギ
私たちがウシやヤギを見る機会があるとしたら、動物園かファミリー牧場になるでしょうか。ここでは、いろいろな点でウシとヤギを比べてみましょう。
1日あたりの泌乳量
まずはみなさんに問題です。ウシは1日に何リットルくらいの牛乳を出しているでしょう?答えはおよそ30リットル(≒30㎏)です。スーパーで見る牛乳パックは1リットル入りですから、毎日毎日30パック分の牛乳が搾られています。
これに対してヤギの場合、1日あたりの泌乳量は2~3リットル(≒2~3㎏)しかありません。また、平均的な体重はウシが600㎏、ヤギでは60㎏ですので、ヤギは体重も乳量もウシのおよそ1/10ということになります。
ミルクの成分
次は乳成分についてです。牛乳とヤギミルクの主要な栄養成分(タンパク質、脂肪、炭水化物)を調べてみると、ヤギミルクの方が若干低いものの、大きな違いは見られません。
また、100gあたりのカルシウム(Ca)含有量では、牛乳(110㎎)に対してヤギミルク(120㎎)の方がやや多いようです(日本食品標準成分表 2015年七訂)。
このように、ヤギミルクは牛乳とほぼ同等の栄養内容をもつ食材であることが判ります。次にヤギミルクに含まれる気になる成分をチェックしてみましょう。
ヤギミルクの必須アミノ酸
牛乳とヤギミルクのタンパク質の量は全体のおよそ3%であり、大きな差はありません。ではタンパク質を構成するアミノ酸、特に体の中では作れない必須アミノ酸はどうでしょうか。
少ないアミノ酸
必須アミノ酸10種類について、牛乳とヤギミルクを比較した海外の報告があります(Posariら1976年)。ヤギミルクの方が少ないアミノ酸は以下のとおりです。ただし、少ないと言っても3%前後のわずかな割合です。
・トリプトファン(-4.3%)
・ロイシン(-2.5%)
・メチオニン(-3.6%)
・フェニルアラニン(-2.5%)
多いアミノ酸
次に、ヤギミルクの方に多く含まれているアミノ酸を見てみましょう。
・セレオニン(+9.4%)
・イソロイシン(+4.0%)
・リジン(+11.1%)
・シスチン(+53.3%)
・チロシン(+12.6%)
・バリン(+9.1%)
この中でも特に目を引くのがシスチンという必須アミノ酸です。ヤギミルクでは、牛乳の約150%ものシスチンを含んでいます。
シスチンとタウリン
ネコにとって体内で作ることができない必須アミノ酸としてタウリンがあります(厳密にはアミノ酸ではありません)。ネコオーナーのみなさんはご存じですね。
このタウリンは、幼い動物の脳の発達に関係する大切な栄養成分です。また不足するとネコでは拡張型心筋症、イヌでは僧帽弁閉鎖不全のリスクが高まります。ともに心臓疾患の予防に関係が深い成分です。
イヌの場合、タウリンはアミノ酸であるシスチンを元にして肝臓で合成することができます。しかし、このタウリン合成能力は幼犬では未熟であり、高齢犬では低下しています。
従って、イヌにおいてタウリンの前駆物質であるシスチンは、積極的に摂取したいアミノ酸ということになります。高齢ペットの心臓ケアとして、ヤギミルクの応援が期待できそうです。
ヤギミルクのアレルゲン
世界的にヤギミルクに注目が集まるようになったのは、牛乳のようなアレルギーが発生しにくいという研究報告によるものでした(1964年)。
αs1カゼインの量
牛乳中のアレルゲンとして、2つのタンパク質が考えられています。αs1カゼインとβラクトグロブリンです。それぞれ牛乳に含まれる乳タンパク質に占める割合はおよそ30%と10%です。
海外の報告では、ヤギミルクに含まれるαs1カゼインの量は大変少なく、乳タンパク質の約3%しかないとのことです(Martin 1993年)。
βラクトグロブリンの量
同じくアレルゲン候補の1つとされるβラクトグロブリンの割合は、ヤギミルクでは牛乳よりもわずかに高くおよそ12%です。
ヒトの牛乳アレルギーにおいては、αs1カゼインの方がアレルギー活性が高いといわれています。ヤギミルクではアレルギーの発生率が低いとされるのは、カゼインの構成が牛乳と大きく異なることが背景にあります。
ヤギミルクのダイエット効果
「牛乳を飲むと太る」という話を聞いたことはありませんか?その根拠を調べてみると「牛乳は脂肪が多いから」とあります。しかし、大切なことは単なるイメージではなく「対照としっかり比較する」ということです。
牛乳と体脂肪率
女子栄養大学の上西一弘らは、牛乳と体脂肪率との関係について、次のようなものすごい比較調査を行っています(2002年)。
〇調査対象 中学生・高校生の男女6,000人
〇調査期間 4年間
〇グループ 1日あたりの平均牛乳摂取量により5つにグループ分け
結果として、男子に関しては牛乳摂取量と体脂肪率に相関関係はありませんでした(=痩せても太ってもいない、ということです)。これに対して女子では、毎日の牛乳を飲む量が多いほど体脂肪率は低下していました。
牛乳は飲むと太るどころか、逆に体脂肪を低減させる作用があると考えられます。その理由は、牛乳には脂肪を燃焼する成分である中鎖脂肪酸が含まれているためです。
中鎖脂肪酸の作用
少しおさらいです。脂肪は脂肪酸とグリセリンからできています。従って、脂肪酸は脂肪(あぶら)ではありません。
この脂肪酸はいくつかの炭素(C)がつながった形をしています。このCの数によって短鎖脂肪酸(4個以下)、中鎖脂肪酸(6~12個)、長鎖脂肪酸(14個以上)と分類されます。
日清オイリオグループ㈱の辻 宏明らは、20~58歳の健康な男女に長鎖脂肪酸(30人)と中鎖脂肪酸(26人)を12週間給与して、そのダイエット効果を調査しました(2001年)。
結果として体重、ウエスト周り、体脂肪ともに中鎖脂肪酸給与群の方が高い減少効果が認められました。中鎖脂肪酸には脂肪を効率よく燃焼させる体脂肪蓄積抑制作用があるということです。
ヤギミルクの中鎖脂肪酸
ここで100gあたりに含まれる牛乳とヤギミルクの脂肪酸量を確認しておきましょう(Posariら 1976年)。
●短鎖脂肪酸
…牛乳(0.11mg)、ヤギミルク(0.13㎎)
●中鎖脂肪酸の総量
…牛乳(0.27mg)、ヤギミルク(0.57㎎)
このようにヤギミルクには、牛乳のおよそ2倍の中鎖脂肪酸が含まれていることが判ります。このことから、ヤギミルクは牛乳以上の体脂肪や内臓脂肪を低減させる効果が秘められていると考えられます。
欧米に比べて日本におけるヤギミルクの認知度は、まだまだ低いのが現状です。しかし、アミノ酸組成や中鎖脂肪酸量などいくつもの魅力をもった食材です。
まだ幼い愛犬や高齢犬には心臓ケアとして、また肥満気味なペットにはダイエットのサポートなど、単に牛乳アレルギーの代替品としてではなく、独自の健康機能に対してこれからヤギミルクに注目が集まるでしょう。
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。