「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回はコラーゲンとゼラチンが親子の関係であることを紹介しました。今回は、ゼラチンから作られるコラーゲンペプチドを取り上げます。
目次
コラーゲンペプチド
コラーゲンは骨や皮をつくっているタンパク質です。ペプチドとはタンパク質が少し分解された状態のものをいいます。私たちは、医薬品やサプリメントとして加工されたコラーゲンペプチドを利用しています。
コラーゲンの孫
牛の骨や豚の皮などを原料として加熱するとゼラチンができます。このゼラチンを消化酵素である程度分解(低分子化)したものがコラーゲンペプチドです。
1つ1つのアミノ酸が80個以上つながっている状態がタンパク質です。コラーゲンペプチドは、それよりも少ない個数でアミノ酸が手をつないだ状態といったイメージです。
これよりコラーゲンの「子」がゼラチン、コラーゲンペプチドはコラーゲンの「孫」にあたるといえます。
人気上昇中
近頃、コラーゲンペプチドはテレビCMや雑誌で「料理や飲み物にもサラサラーっと溶けます」などとよく目にするようになりました。サプリメントにおいて「コラーゲン」と表示されているものは、正確にはコラーゲンペプチドのことです。
現在、美容と健康面で注目を集めているコラーゲンペプチドですが、この十数年の市場規模はぐんぐん伸びています。日本ゼラチン・コラーゲン工業組合の発表によりますと、2017年現在の国内販売量はおよそ5,800トンです。そして、その使用割合の90~95%が食品用です。
コラーゲンペプチドの特徴
コラーゲンペプチドの特徴を考える場合、ゼラチンを比べると判りやすいでしょう。以下、簡単に見てみましょう。
①吸収されやすい
②水に溶けやすい
③冷やしても固まらない
④保湿性がある
コラーゲンペプチドはゼラチンを材料として消化酵素で分解したものです。ペプチドのレベルまで低分子化されているため、高い吸収率をもっていることが一番の特徴です。また、工場で生産されているため、高純度のものが商品化されていることも魅力の1つになります。
皮膚と骨の再生応援
私たちがコラーゲンペプチドに期待する点は、丈夫な皮膚や強い骨をつくるサポート役ではないでしょうか。ここでは、コラーゲンペプチドの健康機能を紹介します。
傷の修復
ニュートリー株式会社の中尾光治らは実験動物のラットを用いて、コラーゲンペプチドによる傷の修復効果について報告しています(2013年)。概要は次のとおりです。
○使用動物
・皮膚損傷ラットに低タンパク質のエサを給与
○グループ
・対照群(10匹) …上記のエサのみ給与
・給与群(10匹) …コラーゲンペプチドを体重1㎏あたり0.2g給与
○観察項目
・傷面積の割合(%)
・治癒するまでの日数
傷面積(%)の合計が小さいという事は、傷口の面積が小さくなっていくことを意味しています。給与群のラットは対照群に比べて傷面積(%)は減少し、治癒日数も短縮していました。この試験結果から、コラーゲンペプチドを摂取することにより皮膚の傷が早く修復されることが判りました。
骨の強化
骨を強くするには?と聞かれると、一番にカルシウム(Ca)の補給が頭に浮かびます。正解ですがこの質問の解答として、もう一つコラーゲンを忘れてはいけません。
「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン 2011年版」によりますと、骨の重量のおよそ20%はコラーゲンとのことです。骨を建物にたとえると、カルシムは(Ca)はコンクリート、コラーゲンは鉄筋の役目をしていることになります。
宮城学院女子大学の鎌田由香らは、コラーゲンペプチドと骨密度の関係について、次のような研究報告をしています(2017年)。
○試験対象 女子大学生(平均年齢20.6歳)
○グループ
・プロテイン摂取群(11人) …1日5g×3か月間
・コラーゲンペプチド摂取群(10人) …1日5g×3か月間
試験結果によりますと、プロテインに比べてコラーゲンペプチドの方が摂取後早い時期(1~2か月後)に骨密度アップの作用が現れることが判ります。また、摂取を中止すると1か月間はその効果が維持されますが、3か月後にはストンと落ちてしまいます。
コラーゲンペプチドもプロテインと共にタンパク質です。この差はいったいどこから来ているのでしょうか?
細胞集合シグナル
大阪夕陽丘学園短期大学の重村泰毅らは、コラーゲンペプチドには傷の修復を担当する細胞を呼び寄せるはたらきがあると述べています(2009年)。コラーゲンペプチドには「傷を治す細胞は集まれ!」とか「骨を強くする細胞たちは集合せよ!」というシグナルを発信する能力があります。
重村はこの細胞集合シグナルによって、皮膚の傷口を治す担当細胞が48~72時間(=2、3日)という早い時間で集合するという試験データを報告しています。
コラーゲンペプチドは摂取後、自らがコラーゲンになるのではなく、集合シグナルを発信することによって、組織に存在する担当細胞を呼び寄せるというしごとを行います。この結果、皮膚の傷治療日数は短くなり、早期に骨密度がアップしていたわけでした。
幼犬・老犬の生活サポート
高齢期に入った愛犬にとっての大きな問題は、関節の痛みや寝たきりになった場合の褥瘡(床ずれ)です。このような状態において、何とか愛犬のQOL(生活の質)を維持するのに良いものは無いでしょうか?
歩様の改善
歩行異常のある高齢犬に対するコラーゲンペプチドの改善作用についての研究報告があります(阿部仁美ら 帝京科学大学 2018年)。阿部らは歩行異常のある高齢犬13頭(9~13歳)を用いて以下のようにコラーゲンペプチドの給与効果を比較しました。
〇グループ
・対照群(4頭)
・給与群(9頭)…体重1㎏あたり0.25g×3か月間給与
〇歩様改善率
・対象群(2頭/4頭:50%)
・給与群(5頭/9頭:56%)
コラーゲンペプチド給与群において、改善がみられなかった4頭の内3頭は重度の神経症状を示していました。これらを除くと給与群の改善率は約83%(5頭/6頭)となりました。
報告者の阿部らは、コラーゲンペプチドを継続的に摂取することは、高齢犬の歩様改善やQOL(生活の質)の向上につながる可能性があると述べています。
床ずれの改善
寝たきりの高齢者にとって大きな課題が褥瘡(床ずれ)の予防です。自宅で介護を受けている高齢者の内、5.72%のお年寄りに床ずれが発生しているとのことです(阿曽洋子ら 武庫川女子大学 2007年)。
床ずれ防止には定期的な体位の変換が必要ですが、ケアを行う家族にはこれが一番の負担になっています。このような床ずれの問題は、老犬においても同じことが言えるでしょう。
そこで近年は、栄養補給の観点から褥瘡の予防や治癒促進を目指す研究が進んでいます。社会医療法人若弘会の山中英治は、医療施設22か所におけるコラーゲンペプチド飲料の床ずれ改善効果を報告しています(2016年)。
重度の褥瘡患者を対象にして、コラーゲンペプチド飲料摂取群(18人)には1日1本×4週間摂取してもらい、対照群(16人)は無摂取としました。4週後には対照群(改善指数:1.7)に比べて、摂取群の褥瘡改善度(改善指数:5.2)は大きく向上していました。
コラーゲンペプチドは、骨や皮膚の成長・修復を手伝ってくれます。これはちょうど、毎日からだができてくる幼犬では骨の成長促進、寝たきりの老犬では傷の修復や床ずれケアの応援にあたります。
日本褥瘡学会の『褥瘡予防・管理ガイドライン第4版』では、創傷治癒に有効な栄養素として亜鉛(Zn)、ビタミンAおよびC、アルギニン、ω3系脂肪酸とともに、コラーゲンペプチドを推奨しています。
近頃は、コラーゲンペプチドはサプリメントとして手軽に手に入るようになりました。オーナーのみなさんは、幼犬・老犬オーナーの生活サポートとしてコラーゲンペプチドを活用してみるのはいかがでしょうか。次回は、コラーゲンたっぷり食材についてお話します。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。