獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「ハウスダストと床そうじ」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回は花粉症には季節性があり、春はスギなどの樹木花粉、秋にはブタクサなどの雑草花粉があることをお伝えしました。今回は通年性アレルギーであるハウスダストを取り上げます。

ハウスダスト

ハウスダストとは室内を舞う塵(チリ)や埃(ホコリ)のことで、アレルギーを引き起こすいろいろなアレルゲンが混じっています。

身の周りのアレルゲン

しばしばハウスダストが問題になるのは、ヒトや動物のアレルギーの原因となる物質=アレルゲンを含んでいるためです。まず、私たちの身の周りにあるアレルゲンをまとめてみましょう。

〇室内アレルゲン
  …ハウスダスト、こっそり生えているカビ、そしてペットの毛などがあります

〇室外アレルゲン
  …春秋に飛んでくる花粉やPM2.5など大気中の浮遊物質がこれにあたります

〇その他のアレルゲン
  …小麦粉や卵などの食物アレルギー、時計やネックレスの金属アレルギーなどさまざまなものがあります

今回のテーマであるハウスダスト(室内塵)にはいろいろなものが含まれていますが、その中で最も気を付けたいのがダニです。ダニの糞や死骸が咳、くしゃみ、目の充血などのアレルギーを引き起こします。

気になる部屋は?

「床のホコリやハウスダストが気になる部屋は?」と聞かれた時、みなさんはどこを思い浮かべるでしょうか。首都圏在住の主婦175人を対象にしたアンケート結果があります(小笠原章 花王㈱ 2004年)。

〇家族にアレルギー患者がいる家庭(105人)
  …第1位:リビング(50%)、第2位:寝室(36%)

〇家族にアレルギー患者がいない家庭(70人)
  …第1位:リビング(45%)、第2位:寝室(19%)

複数回答の場合でも、85%の主婦がリビングが一番気になると回答しています。リビングはカーペットやソファーがあり、家族みんなが集まる場所です。ペットを含めて常に誰かがいるということが背景にあるようです。

また、第2位の寝室はベッドやふとん/枕にダニが棲みついているという点が主婦のみなさんの悩みと思われます。

衛生的なフローリング

近頃は戸建て、マンション共にリビングの床はほとんどフローリングです。住宅床材の内フローリングが占める割合は、築年数15~19年の住宅では40%程度ですが、1年未満のものでは約75%とのことです(2003年 首都圏の住宅調査)。

フローリングの長所はそうじがしやすく衛生的な点です。クリーナーがかけやすく、何か液体をこぼしてもサッと拭けるため、ペットを飼われている家庭にはとても適しています。

実際にどれくらい衛生的なのか、いろいろな床面でのダニの糞量を比べてみましょう。広さ1平方メートルあたりのそうじ前のダニ糞量は畳、カーペット、ソファーでは1,500~2,500ナノグラム(ng)ですが、フローリングは250ナノグラムとおよそ1/5~1/10程度です。

畳やカーペットと異なり、フローリングは表面がツルツルで平坦なため、ダニが潜んだり糞がたまったりすることが少ないためと考えられます(2000年 首都圏6世帯)。

リビングのそうじ

家庭のそうじ道具にはクリーナーやモップ、手軽なところでは粘着シート(いわゆるコロコロ)などがあります。みなさんはリビングのそうじにどのようなものを使われているのでしょうか。

そうじ道具と順番

リビングのフローリング床のそうじでは、およそ30%の家庭がクリーナーのみ、残り60%ではクリーナーとワイパー/シートなどを併用しているという調査報告があります(2003年 首都圏175世帯)。

おそうじシートにはドライタイプとウエットタイプがありますが、これらを使って拭きそうじを行う理由には、「さっぱり感」や「目に見えない細かいホコリの拭き取り」などがあげられています。

また、両方使用している家庭において、その順番は「クリーナー→床拭き」が大部分で91%、「床拭き→クリーナー」は9%という結果でした。私たちにはフローリングの拭きそうじ=仕上げというイメージがあるようです。

そうじの2時間後

ハウスダストの主体はダニの糞やその死骸です。フローリング床のそうじのポイントは、いかにこれらアレルゲンを除去するかということになります。先ほどのアンケート結果のように、クリーナーとワイパーを併用するなどいろいろと工夫されています。

ここで、みなさんの気持ちがへこんでしまうような試験データを紹介しましょう。そうじ後のリビングの床には、いったいどれくらいのダニの糞が残っているか(=ダニ糞の残留率)というものです。

16戸の住宅を2つのグループに分けて、そうじ前とそうじ2時間後のダニ糞の残留量(床1平方メートルあたり)を比較した結果があります(2003年)。

●クリーナーのみ(6戸)
  :そうじ前(236ng)、そうじ後(56ng) …残留率24%

●クリーナーの後に床拭き(10戸)
  :そうじ前(221ng)、そうじ後(48ng) …残留率22%

フローリング床のそうじでは、およそ60%の家庭でクリーナーと床拭きがセットで行われていました。しかし拭きそうじをする/しないの間には大きな差は無く、2時間後では両グループともにそうじ前のおよそ20%のダニ糞が残っていたということです。

この理由はホコリの舞い上がりです。クリーナーをかけることにより、微細なハウスダストやダニの糞は部屋の中を漂い、およそ2時間をかけて再び床の上に落ちていたのでした。従って、正しくは「両グループともおよそ20%のダニ糞が戻っていた」ということになります。

クリーナーと拭きそうじ

ハウスダストの舞い上がりはクリーナーからの排気だけではなさそうです。

ダストの舞い上がり

子どもが座っているときの顔の高さはおよそ50㎝です。リビングの床上50㎝の空気中を浮遊しているハウスダスト量を測定したデータがあります(2003年)。時間の経過とダストの個数の変化を見てみると次のようになります。

〇そうじ開始
  …クリーナーのスイッチが入り、人が動くことにより部屋のダストは一気に舞い上がります

〇布団の上げ下げ
  …そうじを終えると少しダストは落ち着きますが、隣の部屋で布団をたたんだり上げ下げすると、今度はリビングにダストが流れ込みます

〇そうじ終了2時間後
  …部屋の空気中を漂うダスト数は徐々に減少し、そうじを開始する前とほぼ同じ量に戻ります

このように朝のそうじタイムは人が動き、クリーナーから排気が出て、布団やクッション・衣服などのかたづけにより部屋の空気はかき回されます。そうじ終了2時間後には舞い上がったダスト数は減りますが、これはすなわち2時間かけてゆっくりと床に落ちてくる(=床に戻る)ということです。

クリーナーがけの後にワイパー・シートで拭き取りそうじをしてもしなくても、2時間後にはそうじ前の20%のダニ糞が残っていたのにはこのような理由がありました。

効果的な拭きそうじ

クリーナーの排気が問題ならば、思い切ってフローリング床のそうじは、拭き取りだけにしてみたらという考えが浮かびます。次の3パターンにおけるそうじ2時間後のダニ糞残留率を測定比較した結果があります。

フローリング床のダニ糞残留率
●クリーナーのみ …20.6%
●シート拭きのみ(ドライシート) …10.3%
●シート拭きのみ(ウエットシート) …5.1%

シートを利用した拭き取りそうじでは、部屋の空気を大きくかき回すことはありません。このためハウスダストの舞い上がりは無く、時間差で落下してくるダニ糞量も少ないことが判ります。

さらにフローリング床の場合、おそうじシートはウエットタイプの方がダストの除去効果が高いことも確認できました(小笠原章 花王㈱ 2004年)。

床そうじのポイント

最後にハウスダストに重点を置いたリビングのそうじポイントをまとめましょう。

〇クリーナー
 ・クリーナーは床そうじに欠かせない道具です
 ・作動中は排気が微細なハウスダストを舞い上げてしまいます
 ・そうじ中~終了後しばらくは窓を開けて部屋の換気を行いましょう

〇拭きそうじ
 ・床拭きはクリーナーをかける前に行いましょう
 ・おそうじシートではウエットタイプのものがより効果的です
 ・粘着シート(いわゆるコロコロ)も有効です

ハウスダストによるアレルギーは季節に関係なく起こる通年性アレルギーであり、主としてその原因物質はダニの糞や死骸です。家の中でハウスダストが最も気になる部屋は、私たちヒトやペットの生活の場であるリビングです。

近年、リビングの床材はフローリングが主流となっています。フローリングはそうじがしやすく衛生的な床材ですが、そうじ道具やそうじの順番など少しの工夫によって、今まで以上にハウスダストを取り除くことができます。次回はリビングに暮らすペットの安全性についてお話をします。

(以上)

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