「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
ペットが元気で長生きをするのはオーナー共通の願いです。
この何年かでペットの寿命は延びていますが、「年をとれば足腰の衰えはしかたないこと…」と諦めてはいませんか?
今回は近年研究が進んでいるアミノ酸:ロイシンによる筋肉づくりがテーマです。
目次
筋肉づくり
前回、前々回では、長生きペットや100歳高齢者はミルクや肉をよく食べているというデータを紹介しました。
これら動物性タンパク質の摂取が長寿と関係があるのは、からだの筋肉をつくる素であるためです。
骨格筋の減少
加齢に伴いからだを動かす最小エネルギー(基礎代謝量)は減少してゆきます。
これは運動に使う筋肉自体がだんだんと減っていくためです。
ペットが散歩をしたりドッグランで走ったりする時は、骨格筋という運動担当の筋肉を使っています。
体重に占める骨格筋の割合を「骨格筋率」といいます。
ヒトの場合、標準的な骨格筋率はおよそ30%です。
これは体重60㎏のヒトの骨格筋量はおよそ18㎏という意味です。(ちなみに骨は体重のおよそ20%の重さです)
動物のデータが見当たらなかったので、ヒトの年代別の骨格筋率を見てみると次のようになります。
10代をピークにして(男性35.1%、女性28.9%)じわりしわりと低下し、70代では男性27.5%、女性22.1%にまで減少します(久野譜也 筑波大学 2012年)。
サルコペニア
久野の調査では、70代のお年寄りの筋肉量は20代の時のおよそ80%に減少します。
他にも成人の骨格筋量は50歳までに約5~10%、80歳では30~40%も減少するという海外の報告があります(1988年)。
このような加齢による骨格筋量の減少・筋力の低下を『サルコペニア』、日本語では『加齢性筋肉減弱症』といいます。
そして、サルコペニア対策として提唱されているのがアミノ酸の摂取と適度な運動です。
ロイシンというアミノ酸
筋肉はタンパク質からできています。
そしてタンパク質はアミノ酸がいくつかつながったものです。
これより、サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)対策にはタンパク質を摂ることが大切ですが、もう一歩進んでアミノ酸その中でも必須アミノ酸を摂取しようという考え方があります。
必須アミノ酸のはたらき
みなさんもご存じのようにタンパク質の材料であるアミノ酸の中には、体内合成ができない(=食べ物として摂らなければならない)必須アミノ酸というものがあります。
ヒトの必須アミノ酸は9種類、イヌは10種類、ネコでは11種類です。
高齢者がアミノ酸を摂取する前後において、タンパク質が体内合成される速さを比較した次のような実験があります(海外 2003年)。
●被験者 平均年齢69歳の高齢者 合計14人
●グループ
:総合アミノ酸(非必須アミノ酸22g+必須アミノ酸18g) 8人
:必須アミノ酸(18g) 6人
結果としては両方のグループにおいて、アミノ酸の摂取後にタンパク質を合成するスピードが上昇しました。
このことから体中でタンパク質=筋肉をつくるのは主に必須アミノ酸のはたらきであることが確認されました。
ロイシンのはたらき
必須アミノ酸は10種類くらいあります。
近年、この中で筋肉の維持という点において重要視されているアミノ酸にロイシンがあります。
このロイシンと高齢者の筋肉量の増強との関係を確認した実験がありますので見てみましょう(2011年)。
●被験者 75歳以上のサルコペニアの女性患者 合計155人
●試験期間 3か月間
●グループ
:対照
:アミノ酸摂取 …ロイシンを含む必須アミノ酸
:運動実施 …中強度の運動を週2回
:アミノ酸摂取+運動実施
3か月間の長期試験の結果、最も脚の筋肉量が増加したのは、ロイシンを含む必須アミノ酸を摂取して中強度の運動を毎日行ったグループでした。
このように、必須アミノ酸の中でもロイシンには筋肉を合成するはたらきがあり、これに適度な運動をプラスするとより効果的であることが判ります。
筋肉の分解抑制
ヒトと同じように、ペットが骨折するとしばらくの間はギブスで固定します。
骨がくっ付いてギブスを外すとその部位の筋肉が細くなっています。
これを「廃用性萎縮」といいます。
筋肉は常に動かしていないとジワジワと細くなってしまいます。
岩手大学の長澤孝志は、実験動物のラットを用いてロイシンと筋肉分解の関係を確認しています(平成20年)。
実験動物のラットには少し可哀そうですが次のような試験内容です。
●供試動物 ラット
…脚が曲がらないようにギブス固定 6日間
●グループ
:対照群
:試験群(1%ロイシン配合のエサを給与)
結果としてロイシンを摂取していたラットは、ギブス固定された脚の筋肉(足底筋、ふくらはぎの筋肉)の減少率が軽度でした。
このギブスで固定するという設定は骨折だけでなく、寝たきり状態の実験モデルとしてよく活用されます。
以上よりアミノ酸ロイシンは筋タンパク質の分解を抑えることにより、骨格筋の廃用性萎縮を防止する作用があるといえます。
BCAAとロイシン
バリン、ロイシン、イソロイシンと聞いて何か思い出すことはないでしょうか?
これら3つのアミノ酸はまとめて「BCAA(分岐鎖アミノ酸)」と呼ばれています。
必須アミノ酸のなかでもBCAAは運動時のエネルギー源になるということで人気が高いようです。
今まで栄養面からの筋肉づくりといえば、肉・魚といった食材や必須アミノの摂取が推奨されてきました。
これは筋肉すなわちタンパク質の材料を補給しようという考えによるものです。
そして近年はターゲットがどんどん絞られてゆき、必須アミノ酸の中でもBCAA、さらに現在ではロイシンが研究者の注目を集めています。
高齢者のサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)対策や入院後の筋力回復目的としてロイシンの補給がすすめられているのには理由があります。
ロイシンは単なる栄養素という存在だけでなく、細胞の遺伝子に働きかけてタンパク質の合成促進や分解抑制という指令を出させる作用をもつ特別なアミノ酸であるということが判ってきました。
ロイシンが豊富な食材
最後にロイシンが豊富に含まれている食材を確認しておきましょう。
ロイシンはアミノ酸ですので、基本的には動物性タンパク質に多く含まれていると考えて良いでしょう(日本食品標準成分表 2015年版 七訂)。
赤身肉
赤身の肉100gあたりのロイシン含有量は1,800㎎前後であり、肉の種類にあまり大差はありません。
この中でやや多く含んでいるものとして、鶏むね肉(1,900㎎)と鹿肉(1,900㎎)があります。
卵・魚
肉と並んで良質なタンパク源としては卵や魚もあります。
ペットフードによく使用される魚にはサケ、カツオ、マグロがありますが、これらのロイシン含有量も赤身肉と同等で1,800㎎程度です。
また、卵は少し低くて1,000㎎となっています。
乳製品
乳製品としては少し注目したい食材があります。
牛乳、ヤギミルク、ヨーグルトのロイシン量は肉や魚と比べて低い値で、100g中300㎎前後しかありません。
これに比べてチーズは2,300㎎、また脱脂粉乳は3,300㎎ものロイシンを含んでいます。
チーズや脱脂粉乳はミルクを凝固・乾燥させたものですので、その分タンパク質やアミノ酸がギュッと詰まっています。
おやつとして与えたり、またフードへのトッピングや食材として使うと良いでしょう。
よく「老化は足腰から」といいますが、ペットの場合では前肢・後肢の筋肉の衰えということになります。
将来ペットが寝たきりにならないように10歳くらいからの老化対策だけでなく、動物病院からの退院後の早期の体力回復策としてアミノ酸ロイシンを意識した動物性タンパク質の給与をおすすめします。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。