獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「チーズと骨のケア」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
チーズといいますとピザやお酒のおつまみとして馴染みが深い食品です。近頃は外国からの輸入チーズも増えて消費量は延びています。今回はチーズの栄養成分とそのはたらきがテーマです。

チーズの種類

チーズの包装を見ると「ナチュラルチーズ」とか「プロセスチーズ」と書いてあります。この2つは具体的に何が違うのでしょう。

チーズの作り方

家庭でチーズを作ることはまずありませんが、原料が牛乳であることはみなさんよくご存じです。まずは乳業メーカーや牧場でのチーズの製造方法を軽く見てみましょう。おおよそ次のような工程で作られています。

①原料乳 …原料は搾りたてのミルク(牛乳ほか)です
②殺 菌 …原料乳を加熱殺菌します
③凝 固 …凝固酵素を加えて、ミルクの固形成分を固めます
④圧 縮 …豆腐状に固まったものを型に入れて圧縮し水分を除きます
⑤熟 成 …乳酸菌やカビの作用により風味・旨味を引き出します
 

ナチュラルチーズ

上記のような工程で作られたものがナチュラルチーズです。具体的には硬いパルメザンチーズ、青かびが特徴であるブルーチーズ、軟らかいカマンベールチーズなどがあります。これらすべてのナチュラルチーズに共通しているのは、最終工程で加熱殺菌していないという点です。

(上記②の原料乳ではなく)チーズとして出来上がったものは、加熱殺菌処理を受けていません。したがって中の含まれる酵素や菌・カビは生きたままの状態です。時間がたてばたつほど熟成がどんどん進むのがナチュラルチーズです。

プロセスチーズ

スーパーのチーズコーナーにはお馴染みのスライスチーズやさけるチーズ、キャンディタイプのおやつチーズなどが並んでいます。これらはいくつかの種類のナチュラルチーズを原料として加熱溶解し、そこに味付けなどを行い成型したものです。こうして作られたものがプロセスチーズです。

プロセスチーズには加熱殺菌工程があるため、酵素や菌のはたらきはストップしており熟成は進みません。その代わり保存性は良好で、また味や風味もいろいろと工夫ができるため食べやすいという特性があります。みなさんはどちらのタイプのチーズがお好みでしょうか?

チーズの栄養価

チーズというとタンパク質とカルシウム(Ca)が豊富な食材というイメージがあります。ここではチーズの栄養価を見てみましょう。

牛乳との比較

チーズは牛乳を凝固酵素によってギュッと固めたものであるため、栄養価としても牛乳が何倍かに濃縮されていることになります。ナチュラルチーズ(ゴーダチーズ)とプロセスチーズの栄養成分を牛乳と比較するとおよそ次のようになっています(日本食品標準成分表 2015年版七訂)。

○カロリー …5.0~5.7倍
○タンパク質 …6.9~7.8倍
○脂質 …6.8~7.6倍

チーズを100g作るのには、およそ1Lの牛乳が必要です。チーズはボリュームでは10倍濃縮ということになりますが、主要栄養価としては牛乳の約6~7倍といったところになります。なお、水分は約50%、炭水化物は約30%です。

加えて、チーズにはナチュラルとプロセスの2タイプがありますが、この2つの間には栄養価に大きな差はないことも確認できました。

カルシウム量

100gあたりのカルシウム(Ca)量を比べてみましょう(日本食品標準成分表 2015年版七訂)。牛乳のCa含有量は110㎎ですが(他に150~160㎎という報告もありますがご了承下さい)、これに対してチーズの値は次のような大変大きな値になっています。

○ナチュラルチーズ
  …パルメザン(1,300㎎)、ゴーダ(680㎎)、カマンベール(460㎎)
○プロセスチーズ
  …630㎎

ざっくり計算するとナチュラルタイプで平均8倍、プロセスタイプで約6倍とったところです。ナチュラルタイプにおいてバラツキが見られるは硬度(=水分量)との関係と思われます。パルメザンチーズのように硬質チーズと呼ばれるものは水分量が少なく、その分乾燥濃縮されているため、計算上数値が高いのでしょう。

カルシウム吸収率

以前のコラム「身近な食材:ミルク」でもお知らせしましたが、Caの吸収率は食材によって異なります。小魚のそれが25~30%であるのに対して、牛乳は40~55%です。そしてチーズのCa吸収率も同じく40~55%という高い値です(日本乳業協会 2019年)。

この理由は、牛乳に含まれているCa吸収を応援するCPP(カゼインホスホペプチド)という成分がチーズにも残っているためです。

以上のようにチーズは高タンパク質、高カルシウム、加えて高Ca吸収率をもつ優れた食材といえます。

チーズのはたらき

イヌへのチーズ給与に関する試験報告はないため、ヒトでの研究データを確認しましょう。ここでチーズの意外なはたらきが発見できます。

チーズの骨ケア作用

チーズに豊富に含まれるカルシウムは骨、特に高齢者の骨ケアに有用と考えられます。武庫川女子大学の為房恭子らは、次のような80歳以上の高齢者を対象にした試験を実施しました(2003年)。

●試験対象者 
  …老人施設入居者23名(女性:平均年齢83.8歳)
  …試験期間4週間
●食事別グループ
  :Ca剤群 …食事+Ca剤(Ca量200㎎/日)
  :チーズ群 …食事+チーズ(Ca量200㎎/日)
●測定項目
  …骨密度、破骨指標(血清NTⅹ)

試験開始時と4週間後の骨密度の変化率は、Ca剤群(-3.4%)、チーズ群(-1.4%)という結果であり、両グループ共に骨密度は低下していました。私たちには「カルシウムの摂取=骨の強化」というイメージがあります。間違いではありませんが、骨密度が改善するには4週間という期間は短かったようです。

もう一つの測定結果である破骨指標(血清NTⅹ)の変化率では、Ca剤群(25.1%)、チーズ群(3.1%)という成績でした。この血清NTⅹというのは骨が壊れてゆくにつれて上昇する数値のことで、骨粗しょう症の目安になるものです。チーズ群の方が、破骨=骨の劣化が軽度であったことが判ります。

骨の代謝とは古い骨を壊し(破骨)、そして新しく作る(骨新生)というセットの活動です。しかし、破骨の方だけどんどん進んでいくと骨粗しょう症や骨折を引き起こします。チーズにはこのうちの破骨を抑制するはたらきがあるということです。

チーズがもつプラスα

先ほどの試験では、両方のグループにおいて同じ量のカルシウム(200㎎/日)を摂取していました。それにもかかわらず、Ca剤に比べてチーズを食べていた高齢者の方が骨の劣化が軽度という結果でした。カルシウムは骨を作る材料ですが、骨の劣化を抑える作用はないということになります。

どうやらチーズには破骨を抑える何かプラスαの成分が含まれているようです。このプラスαの正体として考えられているのがペプチドというものです。ペプチドとはタンパク質が分解され、アミノ酸がいくつかつながった状態のものをいいます。

チーズがもっている骨の劣化抑制作用は、乳酸菌やカビなどの微生物が乳タンパク質を分解してできた様々な機能をもつペプチドのはたらきであったというわけです。これが骨ケアにおけるCa剤との違いでした。

愛犬へのチーズ給与

今回はヒトの試験データを中心に紹介しましたが、愛犬へのチーズ給与において期待される点をまとめましょう。

まずチーズは牛乳の6~7倍もの高タンパク質食材です。前回紹介したアミノ酸ロイシンを豊富に含んでいるため、筋肉づくりにはとても有用です。育ち盛りの子犬や食欲が落ちてきた老犬へのフードのトッピングにおすすめです。

もう1つは今回紹介した骨ケアです。高カルシウムであるため長期間にわたって給与することにより、骨の材料として骨新生に役立ちます。そしてチーズ特有の機能性ペプチドが骨の劣化を抑えてくれます。ちょうど老犬の生活サポートを応援してくれるでしょう。

以上のように、チーズは育ち盛りの幼犬や老犬といった筋肉や骨の成長・維持のステージに有用な食材であるといえます。しかしチーズのはたらきはこれらだけではありません。近年は内臓脂肪の減少作用や認知症予防につながる試験データが報告されています。次回はチーズの更なる健康機能について紹介します。
 
(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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