みなさんは愛犬や愛猫の歯磨きは毎日行っていますか?今回は、ペットの歯周病治療の現状と問題点を確認します。
目次
治療の現状
ヒトにおいて歯周病は生活習慣病の1つと言われるようになりましたが、ペットでも同様です。
歯周病対策の基本はやはり予防です。しかし、定期的な検診や口臭・歯肉の腫れ・出血などを確認した場合は動物病院での治療も大切です。
アニコム家庭どうぶつ白書(2019年度)をもとに、動物病院での診療データを見てみましょう。
診療回数と治療費
ペットの歯周病治療では、平均して1年間で何回くらい病院を訪れているのでしょうか?
どうぶつ白書によると年間の治療回数はだいたい2~3回(イヌ2.2回、ネコ2.6回)といったところです。
年間の治療費は結構高い金額になっています。ここでは平均値ではなく、ちょうど真ん中の値である「中央値」で確認しましょう。
イヌの治療費では33,264円、ネコでは20,196円とのことです。イヌの方が治療処置はやや重度になっているようです。
年齢と罹患率
ヒトもペットも年齢が進むにつれて、歯周病の罹患率は上昇します。これは想像どおりですが、統計によると0歳のイヌでも歯周病に罹っています。
その割合は0.5%、すなわち200頭に1頭の割合です。
「ペットのオーラルケアの最初の山は5歳」とよく言われます。これはオーナーが口臭や歯石の付着に気付き始めるのが5歳あたりということです。
イヌの場合、5歳時の罹患率はおよそ10%、その後10歳(18.3%)、11歳(17.3%)、12歳(19.0%)とどんどん上昇して、13歳以降は4頭に1頭以上の割合(26.4%)にもなっています(2016年度報告)。
ペットの歯周病認識度
テレビCMで毎日、歯周病歯周病と耳にしていますので「歯周病って何?」という人はいないでしょう。
しかし、イヌにも歯周病があるかどうかとなると少し怪しくなってきます。
あるアンケート調査では愛犬オーナー494人の内、「イヌにも歯周病があることを知っている」と答えた人の割合は63.2%でした。
逆に7.7%のオーナーは「知らなかった」と回答しています(ライオン商事㈱ ㈱オールアバウト 2014年)。
昔に比べると、イヌやネコの歯周病に関する認識度は上がってきていることは確かです。
しかし、私たち獣医師は正しい情報を日々みなさんに提供してゆく必要があると考えます。
治療の効果
年齢を経るにつれて罹患率も上昇する歯周病ですが、動物病院でしっかりと治療を受けると高齢犬でも健康状態は改善します。埼玉県の開業獣医師 湯本哲夫らが報告している歯周病の治療効果を紹介します(2004年)。
●供試動物 …歯周病を罹っている高齢犬
●グループ
:対照群(平均年齢13.4歳 合計19頭)
…抗生剤投与のみ×3週間
:治療群(平均年齢13.2歳 合計10頭)
…歯周病の手術:歯垢歯石除去、抜歯、歯周ポケットの修復
…抗生剤投与×2週間
●効果の確認 …食欲および体重のモニター
食欲の回復
報告者の湯本は高齢犬の食欲を次の4つのスコアに分けて評価しました。
・スコア0: 通常量を食べる
・スコア1: 選ばずに通常の半量を食べる
・スコア2: 選んで少量食べる
・スコア3: 食べない
最も食欲評価の高いスコア0の割合を見てみましょう。対照群では処置前(0%)→処置後(26.3%)でしたが、歯周病治療群では処置前(10.0%)→処置後(80.0%)と顕著な食欲回復効果が確認されました。
当然のことですが、治療により歯肉や歯周ポケットの処置が行われると、フードを食べる時の痛みが軽減され食欲は回復増進します。
体重の増加
食欲が回復すると体重の増加が期待されます。両グループの処置前後の平均体重の変化は、対照群が処置前(8.09㎏)→処置後(7.98㎏)、治療群では処置前(7.92㎏)→処置後(8.22㎏)でした。
増減率では対照群(0.76%減)、歯周病治療群(4.63%増)と大きな差が確認されています。以上より、歯周病治療においては投薬だけでなく、歯垢や歯石の除去はもちろん、歯周ポケットのそうじなどの手術の実施が体調改善・健康回復に必要であることが判ります。
スケーリング
仕事でペットの健康相談を受けていますと、オーラルケアの1つである動物病院でのスケーリング(歯垢・歯石の除去)についての心配事をお聞きします。具体的には手術時の全身麻酔のリスクです。
歯周病治療のながれ
スケーリングはペットの一生において、おおよそ1回受けるかどうかといった手術です。動物病院ではどのような処置が行われるのか簡単に確認しましょう。ヒトと違ってペットの歯周病治療における1番のポイントは、全身麻酔をかけて実施するということです。
①処置前の検査
…健康状態の問診やレントゲン撮影、麻酔前の血液検査などです
②全身麻酔
…歯周病の処置は気管チューブを挿入して麻酔下で行われます
③スケーリング
・スケーリング:歯の表面の歯垢や歯石を取り除きます
・キュレッタージ:歯周ポケットが炎症を起こしている場合は、この歯
肉部位を除去します
・ポリッシング:歯垢が付着しにくいように歯の表面を磨きます
・フッ素コーティング:歯の強度を維持させます
④覚醒
…処置終了後、麻酔から目覚めて異常がなければ帰宅できます
このように歯周病の治療は、他の手術と比べてさほど難しいものではありません。
気になる全身麻酔
さて、ここで問題になるのが全身麻酔です。先ほどのペットの健康相談において「10歳を過ぎているので麻酔をかけてのスケーリングを迷っている…。」といった話をよく聞きます。この麻酔の事故リスクですが、統計的にはいったいどれくらいなのでしょうか?
実は麻酔のリスクは「年齢」というよりも「健康状態」と関係があります。米国麻酔科学会というところがヒトの手術患者の全身状態を次の6つにクラス分けしています。まずはここから押えておきましょう。
・クラス1: 手術以外は健康な患者
・ 〃 2: 軽度の全身疾患がある患者
・ 〃 3: 重度の全身疾患がある患者
・ 〃 4: 生命の危機がある重度の全身疾患がある患者
・ 〃 5: 手術をしなければ生存不可能な瀕死の患者
・ 〃 6: 脳死状態の患者
これらヒトの健康状態をペットに当てはめて、麻酔による死亡リスクを調査した海外の研究論文があります。鳥取大学の村端悠介はこれをもとに、イヌおよびネコの麻酔関連の死亡率を次のように報告しています(2015年)。
○イヌ
・健康状態(クラス1、2) …0.05%
・全身疾患がある場合(クラス3~5) …1.33%
○ネコ
・健康状態(クラス1、2) …0.11%
・全身疾患がある場合(クラス3~5) …1.40%
このようにペットが健康体である時と比べて、心臓病、糖尿病、腎臓不全といった全身疾患がある場合、麻酔に関連する死亡リスクはグッと高くなります。総合的にみた死亡率はイヌで0.17%、ネコでは0.24%であり、おおよそ500頭に1頭の割合といったイメージになります。
ただし、年齢が進むにつれてこのような全身疾患の罹患率も上昇します。高齢ペットの手術には麻酔による死亡リスクが伴うことは確かといえます。スケーリングを受けるなら10歳までというのが1つの安心ラインでしょう。
ペットの歯周病は口臭の発生や食欲の減退などにより、オーナーのみなさんでも確認できます。早期発見・早期治療によりQOL(生活の質)の維持向上が確保されます。これに加え、いかに歯周病にならないようにするかという予防=オーラルケアも大切です。次回はペットの歯みがき効果についてお知らせしましょう。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。