「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
毎日の歯みがきは歯周病予防の基本です。
しかし、ペットの歯みがきとなると、その実施率は30~40%程度です。
そこで今回は、もう一つのオーラルケア方法であるデンタルガムの効果を探ります。
目次
苦手なオーラルケア
大切な事とは判っていても、なかなか毎日行えないのがペットの歯みがきです。
実際のところ、愛犬のオーラルケアの頻度はどれくらいなのでしょうか?
歯みがき頻度
東京とその周辺、1都3県の愛犬オーナーを対象にしたペットのオーラルケアに関するアンケート結果があります(ライオン商事㈱、㈱オールアバウト2014年)。
問:愛犬のオーラルケアの実施頻度は?(回答390人)
回答の第1位は「毎日行う(23.9%)」でした。
そして「2~3日に1回」、「週に1回」、「月に1~2回」、「口臭や歯石が気になった時」と続きます。
頻度はともかく、全体のおよそ8割のオーナーは愛犬のオーラルケアを行っておられるようです。
歯みがきが苦手な理由
ここで少し気になるのは「自宅ではしない・できない(21.0%)」という回答です。
このケアができない理由には何があるのでしょうか?
次の質問でその答えが判ります。
問:愛犬にオーラルケアをしない理由は?(回答82人)
最も多かった回答は「手が付けられないほど歯みがきを嫌がる(41.8%)」でした。
私は仕事でペットのオーラルケア相談を受けていますが、嫌がって歯みがきをさせてくれないという話をしばしば聞きます。
オーナーの方々からの聞き取りを元にペットが歯磨きを嫌がる背景をまとめると次のようになります。
・顔や口周りを触らせてくれない
・以前歯みがきをしたら出血して、それ以後嫌がる
・歯ブラシを噛んでしまう
ペットにしてみれば、いきなり口の中に歯ブラシを入れられるのは怖いことでしょう。
また、以前歯みがきをした時に痛い経験をすれば嫌がるのももっともなことです。
ペットの歯磨きは幼い時からステップアップさせて覚えさせる必要があります。
食事と歯の汚れ
イヌは上下合わせて42本、ネコでは30本の歯をもっています(ちなみにヒトでは32本です)。
ペットがフードを食べれば必ず歯は汚れます。
では、食事によって汚れやすい歯はどこでしょうか?
歯垢・歯石が付きやすい歯
イヌもネコも肉食獣ですので、肉を引き裂いたり骨をかみ砕くのに適した歯をもっています。
ペットの歯は次の3種類あり、それぞれ役割があります。
○切歯 …(いわゆる前歯)肉を噛み切る
○犬歯 …肉を固定したり引き裂く
○臼歯 …(いわゆる奥歯)前臼歯と後臼歯があり肉・骨をすりつぶす
開業獣医師である藤田桂一らは、食事後のイヌの歯の汚れ具合について調査をしています(フジタ動物病院 2008年)。
●供試動物 ミニチュアダックス(1~5歳、12頭)
●フード ドライフード×28日間給与
●評価項目 歯垢スコア、歯石スコア
歯垢の付着具合の結果を見てみましょう。
歯垢スコアとは数値が大きいほど歯垢が付いているということを表します。
上あご下あご共に、犬歯よりも臼歯の方が汚れているという結果でした。
また、歯石の付き具合も歯垢と同じ結果でした。
歯石は歯垢を元に形成されますので納得といえば納得ですが、この結果は歯周ポケットの形成や歯周病の発症につながります。
ペットのオーラルケアとして重点的に対処すべき部位は、上下共に臼歯(=奥歯)ということになります。
歯が汚れにくいフード
このようにフードを食べた愛犬は、臼歯に歯垢が付きやすいわけですが、同じドライフードでも歯が汚れやすいものと汚れにくいものがあるのをご存知でしょうか。
ビーグル10頭に通常の大きさ(直径1㎝)のドライフード、別の10頭にはやや大きめ(直径1.5㎝)のドライフードを4週間与え、歯石スコアを比較した研究報告があります(海外 2007年)。
結果としては、やや大きめのフードを与えられたグループの方が歯石の付着が約42%軽かったとのことです。
フードの内容成分は同じものであり、サイズが少し大きいだけなのにこの違いの理由は何でしょうか?
ポイントは噛む回数
フードサイズが大きいとイヌはそのままでは飲み込みにくいため、噛む回数が増えます。
噛む回数が増えると唾液の分泌量が増えます。
唾液にはいくつかの作用がありますが、その1つとして口の中の洗浄があります。
これが唾液の「リンス効果」です。
噛む回数が多くなる食品とは、硬い・大きい・量が多い、そして乾燥したものです(伊藤加代子 新潟大学医歯学総合病院 2010年)。
今回の試験で用いられた直径1.5㎝のドライフードはイヌにとって大きく乾燥した食べ物でした。
これにより唾液の分泌量が増加し、そのリンス効果によって歯石の付着が軽減されたと考えられます。
デンタルガムの有効性
最初に紹介したアンケート結果では、歯みがき・歯ブラシを嫌がる愛犬は少なくないようです。
しかし口臭や歯周病のことを考えると、オーラルケアを諦めるわけにもいきません。
このような場合に役に立つのがデンタルガムです。
唾液の分泌促進
歯周病予防策としてのデンタルガムのはたらきは次の2つです。
❶歯とガムの擦過による掃除
…歯とガムが擦れ合うことによって歯垢・歯石が取り除かれる
❷噛むことによる唾液の分泌促進
…噛む回数が多いほど唾液が分泌されリンス効果が期待される
ここで、ガムを噛むとどれくらい多くの唾液が出るのかというヒトのデータで確認してみましょう。
口腔内が健康な成人14人を対象に測定したところ、1分間あたりの唾液分泌量は通常時で0.43ml、ガムを噛んでいる時は1.14mlとのことです(中川貴美子ら 明海大学 2005年)。
ヒトの場合、ガムを噛むと唾液は2倍以上出るようです。
ガムの唾液分泌促進作用には1つ条件があります。
それは「噛み応え」です。
クラシエフーズ㈱の松井利博らは、成人16人(平均年齢34.1歳、男性11人、女性5人)を対象にしたガムの硬さと唾液量との関係を調査しました(2018年)。
これによるとガムを10分間噛んだ時の唾液量は、軟らかいガムでは17.17g、噛み応えのあるガムでは18.67gでした。
軟らかいものであっても噛むことにより唾液は分泌されますが、適度な硬さ(=噛み応え)があるものの方がより効果的ということです。
口腔内細菌の減少
松井はもう1つ大変興味深い試験データを示しています。
それは唾液が口腔内の細菌数を減少させるというものです。
成人10人(平均年齢35.7歳、男性5人、女性5人)を対象にガムを噛む前と5分間噛んだ後の唾液中細菌数を比較しました。
この結果、細菌数の減少率は軟らかいガムでは5%であったのに対して、噛み応えのあるガムでは40%もの値を示しました。
デンタルガムは、歯垢・歯石を除去し、そしてリンス効果により歯周病菌を含めた口腔内の細菌数も減少させてくれます。
ペットにおいての効果
ペット用デンタルガムのオーラルケア効果について確認しておきましょう。
前出の藤田桂一獣医師による研究報告です(2008年)。
●供試動物 ミニチュアダックス12頭(1~5歳)
●グループ
:対照群 ドライフード×28日間給与
:試験群 ドライフード+ガム×28日間給与
…市販のデンタルガム 1日1本給与
●評価項目 臼歯の歯垢、歯石、歯肉炎スコア
結果では、デンタルガムを噛むことによる各スコアの減少率は、歯石スコア(56.6%)、歯石スコア(66.0%)、歯肉炎スコア(53.8%)でした。
ペットにおいてデンタルガムは、歯周病対策を50~60%程度応援してくれるケアグッズであるといえます。
最後に、ペットにデンタルガムを与える時のポイントを3点まとめておきます。
❶手で持って与える
ガムをポイっと与えるとすぐに食べてしまいあまり噛みません。
デンタルガムは手で持ちながら与えると噛み続けてくれます。
❷ターゲットは奥歯
歯の中で汚れやすいのは臼歯です。
加えてデンタルガムは歯の表面と擦れ合うことによって汚れを除くため、奥歯(臼歯)で噛ませましょう。
❸ガムと歯みがきの併用
デンタルケアではガムと歯みがきのセットが理想です。
どうしても歯みがきが苦手という方が無理をせず、専門のサロンや動物病院にお願いするのが良いでしょう。
ヒトもペットも「噛む」ということは口内衛生だけでなく、脳の刺激による老化対策にもなります。
デンタルガムは手軽で有効な口腔ケアツールですのでみなさんもぜひ利用して下さい。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。