「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
一般的にすい臓ケアのフードでは低脂肪に設計されます。
脂肪分は大切なエネルギー源であり、またフードの嗜好性にも大きく関わっています。
あまり低脂肪にこだわると、ペットの体力維持や食欲にマイナスの影響が出てしまわないかと心配になります。
何か新しいすい臓ケアフードのアイデアはないものでしょうか?
酵素リパーゼ
炭水化物、タンパク質、脂質はフードの3大栄養素です。
フード中の各種食材は胃や腸で消化分解された後に吸収されます。
この消化の主役をつとめるのが消化酵素です。
消化酵素
酵素というものは融通が利かないスペシャリストですので、作用する対象が決まっています。
アミラーゼという消化酵素はごはんやパンの炭水化物をブドウ糖に分解します。
プロテアーゼは肉や魚のタンパク質をアミノ酸に分解する酵素です。
そして、脂質の消化を担当するのが酵素リパーゼです。
リパーゼはすい臓で作られて十二指腸に分泌されます。
フード中の脂質は十二指腸において脂肪酸とグリセリンに分解され、以降の小腸で吸収されます。
脂質消化のしくみ
ここで、すい炎との関係が深い脂質の消化のしくみを少し詳しく見てみましょう。
ペットが食べたフードは口→食道→胃→十二指腸と移動します。
十二指腸にフードが入って来るとこれが刺激となり、すい臓からトリプシン(タンパク質分解酵素の1つ)やリパーゼ(脂質分解酵素)が分泌され消化が始まります。
消化対象である脂質は水と馴染まないため、分泌されたリパーゼはそのままでは均一に混じりません。
このため事前に脂質を乳化させる必要があります。(界面活性作用により水と油が混ざり合い白く濁った状態になることを乳化といいます)
この乳化を担当するのが胆汁(たんじゅう)です。
フード中の脂質は十二指腸まで移動してくると、まず胆のうから分泌された胆汁によって乳化され、次にリパーゼが消化分解するというしくみになっています。
リパーゼブロック食材
今まではすい臓ケアフードというと低タンパク質・低脂肪、特に脂質含有量を抑えることに着目されてきました。
これは少しでもすい臓の活動を軽減し、必要以上の消化酵素を分泌させないようにするためです。
この点から現行のすい臓ケアフードでは、タンパク質含有量15~20%以下、脂質含有量10~15%以下というのが1つの目安になっています(共にイヌの場合)。
すなわち、フードの栄養素であるタンパク質や脂質の全体量を減らそうというものです。
しかし、この2つの栄養素はからだをつくる素であり、大切なエネルギー源でもあります。
これら全体量を低く抑えると、ペットのからだに何か支障が起きないかと心配されるオーナーもおられるでしょう。
そこで脂質に関しては過度な減量は控えて、その分「脂質の消化を抑える」という考え方が提唱されています。
十二指腸において脂質の消化を担当している胆汁(=乳化役)や酵素リパーゼ(=消化役)の働きをブロックする食材(リパーゼブロッカー)をフードに活用しようというアイデアです。
リパーゼブロッカー:フスマ
フスマとは小麦の外側の皮のことで、以前紹介した玄米のもみ殻にあたる部分です。
フスマは一般に家畜のエサに使用されていますが、現在では私たちも食物繊維たっぷり食品であるシリアルのブラン(bran)として食べています。
食物繊維源:フスマ
食物繊維源として知られているフスマはフィチン酸という物質を含んでいます。
このフィチン酸はリン(P)を主成分とする物質でカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)などのミネラルと結合してその吸収を妨げてしまいます。
日本製粉㈱の水野隆志らは、フスマをクエン酸で処理しこのフィチン酸を取り除いたフスマの有用性を報告しています(1996年)。
まずフスマに含まれる食物繊維の含有割合を調べたところ次のような値を示していました。(セルロースとは食物繊維そのもののことです。)
《食物繊維の含有率》
・セルロース …100%
・処理(-)フスマ …45%
・処理(+)フスマ …65%
胆汁酸との結合性
十二指腸においてフード中の脂質をまず乳化するのが胆汁の役目でした。
胆汁の主成分である胆汁酸と各種食物繊維が結合する割合を測定した結果は次のとおりでした。
《胆汁酸との結合率》
・セルロース …0%
・処理(-)フスマ …28.6%
・処理(+)フスマ …39.6%
食物繊維そのものであるセルロースには胆汁酸と結合する力はありませんが、フスマには胆汁が脂質を乳化するはたらきを30~40%程度阻害する作用があることが判ります。
リパーゼとの結合性
次は脂質を消化する酵素リパーゼとの結合割合です。
単なる食物繊維セルロースや無処理フスマと比べてフィチン酸を取り除く処理をしたフスマはおよそ40%もの結合力をもっていました。
《リパーゼとの結合率》
・セルロース …12.3%
・処理(-)フスマ …12.8%
・処理(+)フスマ …40.1%
このように野菜などに含まれる食物繊維セルロースと比較すると、小麦フスマ、特にフィチン酸を取り除いたフスマには胆汁酸および酵素リパーゼと結合する能力があります。
小麦フスマはフード中の脂質の消化を抑える食材の1つであることが判りました。
リパーゼブロッカー:海苔
手作りフードで手軽に活用できるミネラル源として海藻類があります。
また海藻は食物繊維を豊富に含む食材でもあります。
食物繊維源:海苔・海藻
海苔・海藻と手作りフードによく使われている野菜との食物繊維含有量を比べてみましょう。
日本食品標準成分表によると次のような値になっています(2015年版七訂)。
《乾物100gあたりの食物繊維量》
・ノリ(31.2g)
・アオサ(29.1g)
・コンブ(27.1g)
・ワカメ(32.7g)
使用頻度が高いニンジン(2.8g)や食物繊維が多いといわれているサツマイモ(2.2g)、ゴボウ(5.7g)などに比べると、海苔・海藻に含まれる食物繊維量は乾物100gあたり約30gと大変多いことが判ります。
脂質の吸収抑制
海苔由来の水溶性食物繊維が脂質代謝に与える影響を調査した報告があります(友寄博子ら 熊本県立大学 2017年、2018年)。
友寄らが用いた海苔はスサビノリといって日本で一般的に養殖されている「あまのり」です。
試験設定は次のとおりです。
●供試動物 ラット、ナタネ油を2mL/体重㎏給与
●グループ
:試験群 …海苔由来の水溶性食物繊維を280㎎/体重㎏給与
:対照群 …蒸留水を給与
●測定項目 血清中の中性脂肪量
結果ではナタネ油を与えてから60分~120分後の中性脂肪値に大きな差が認められました。
試験群に給与された水溶性食物繊維は、海苔に含まれる食物繊維のおよそ30%を占めています。
この結果から、まずは海苔の食物繊維には脂質の吸収を抑制する作用があることが確認されました。
リパーゼ活性の抑制
続いて友寄らは海苔の食物繊維が脂質の吸収を抑えた理由を調べました。
材料は粉末状にした海苔に水を加えて加熱抽出した熱水成分と、さらに処理を加えて取り出した水溶性の食物繊維成分です。
これらを用いてすい臓の消化酵素リパーゼが脂質分解する作用に対する影響を確認しました。
すると対照に比べて熱水抽出成分はリパーゼ活性を70%、水溶性食物繊維成分は42%低減させました。
以上2つの試験結果から海苔はフード内の脂質の吸収を抑える作用があり、その理由は含まれる水溶性食物繊維がすい臓から分泌される酵素リパーゼの活性をブロックするためであることが判りました。
以前から食物繊維はダイエット食材として利用されてきました。
食物繊維がフード中の脂質を物理的に包み込み、糞便と一緒に体外に排泄するという考えによるものでした。
これに加え近年は、特定食材中の食物繊維には、胆汁やリパーゼの働きをブロックする能力があることが確認されてきました。
今回はリパーゼブロッカーとしてのフスマや海苔・海藻の研究データを紹介しました。
次回はすい臓ケアフードに活用できる意外なリパーゼブロック食材をお知らせしようと思います。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。