ペットとの生活に関する記事

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「ペットの車酔い」

ペットと一緒にドライブに行くのは楽しいものですが、その反面いろいろな心配事もあります。
その代表が車酔いです。
今回はペットの乗り物酔いのしくみとその対策を考えます。

ドライブ時の失敗

ペットとの外出やドライブ時に経験した失敗にはどのようなものがあるのでしょう?
前回に引き続きイヌを飼っているドライバー1,000人へのアンケート結果を見てみましょう(㈱ホンダアクセス調べ 2017年)。

車酔い

質問:愛犬とのお出かけ・ドライブ時に起きた失敗は何ですか?
…吠えたり飛びついて他の犬や子どもを驚かせてしまった(22.8%)
…車に酔ってしまった(15.2%)
…外出先の施設や車内で粗相をしてしまった(14.1%)
…走行中の急ブレーキや急ハンドルで座席から転落してしまった(10.7%)
…拾い食いをして体調をくずしてしまった(8.7%)

どうやら、ペットを連れての外出やドライブでの失敗事の背景には「しつけ・トレーニング不足」があるようです。(ご注意:このトレーニングにはドライバーの運転テクニックも含まれます)
この中でもトレーニングが難しいのが車酔い対策ではないでしょうか?

休憩の頻度

愛犬の車酔いを経験された割合は約15%とのことですが、一番簡単な車酔い対策として「休憩」があります。

質問:愛犬との長距離ドライブではどれくらいの時間を目安に休憩を取ってい
ますか?
…30分に1回(11.4%)
…1時間に1回(44.2%)
…2時間に1回(24.6%)
…3時間に1回(3.9%)、その他

全体のおよそ55%のオーナーは、1時間に1回以上の割合で休憩を取っています。
車から降りて外の新鮮な空気を吸うのはペットの車酔い防止に有効であり、ドライバーのリフレッシュにも大切です。

乗り物酔い

今回のテーマの車酔いですが、そもそも乗り物酔いとはどのようなしくみで起こるのでしょうか。

動揺病

乗り物酔いのことを正式には「動揺病」といいます。
車、バス、飛行機、船などに乗った場合この動揺病=乗り物酔いを起こすことがあります。
動揺病は日常生活ではあまり経験しない揺れや回転が原因で発症します。

ここで問題です。
体の中で揺れを感知しているのはどこでしょうか?
答えは耳の奥にある「前庭(ぜんてい)」という器官です。
耳は耳の穴から鼓膜までを外耳、鼓膜の奥を中耳、さらにその奥の部分を内耳といいます。
体の揺れやバランスの認識は内耳にある前庭という部分が担当しています。

乗り物酔いのしくみ

乗り物酔いが起きるしくみにはいろいろな説があり、まだ良く判っていません。
現在のところ「感覚混乱説」という考えが最も有力とされています(武田憲昭 大阪大学 1991年)。
これによると、車や船のようにバランスが不安定な乗り物に乗ると私たちの脳は次の3つの情報を受け取ります。

①内耳前庭情報 …前庭がキャッチする不規則に体が揺れる感覚
②視覚情報 …目から入って来る流れる景色
③体性感覚情報 …皮膚が感じる温度や触感

日常生活においてこれら3つの感覚を同時に体験することはほとんどありません。
過去の経験パターンと異なる情報により、脳は「自分はどこにいるのだろう?何をしているのだろうか?」と大混乱します。
これが感覚混乱です。

急ハンドルや急ブレーキなどの荒い運転により車酔いをするというのは、①内耳前庭情報が多すぎるということになります。
また車内温度が高いと気分が悪くなるのは③体性感覚情報によるものです。

感覚混乱により興奮した脳は嘔吐中枢を刺激し、私たちやペットは気持ちが悪くなるというわけです。
子供に乗り物酔いが多いのは体験時間が短く、脳内に蓄積されている情報メモリーが少ない(=慣れていない)ためと考えられています。

アロマの活用

酔い止めの薬がありますが、これは脳の中の嘔吐中枢に作用してその働きを和らげるというものです。
しかし、ペットにあまり薬を飲ませたくないというオーナーも少なくないと思われます。

乗り物酔いのサイン

乗り物に酔った時にヒトなら「気持ちが悪い…」と言葉にできますが、ペット場合はそうはいきません。
私たちがそのサインを見極める必要があります。
緊張や不快な状態にあるイヌの行動サインとして次のようなものがあげられます。

《姿勢》
 ・立位
 ・ウロウロする
《行動》
 ・あくび、舐める、匂いを嗅ぐ、身震い、毛づくろい、吠える
 ・パンティング
 
もちろん、完全に酔ってしまった状態としては伏臥位(うずくまる)や横臥位(横になる)になりますので、あくまでもその前段階サインとして参考にして下さい。

ラベンダーのはたらき

耳のツボを刺激してイヌの車酔いを軽減する方法(川口博明 鹿児島大学 2016年)やアロマの活用など、薬を用いない愛犬の車酔い対策の研究があります。

日本大学の福澤めぐみらは、ラベンダー精油を用いたイヌのリラックス効果に関する次のような報告をしています(2014年)。

●供試動物 イヌ8頭(7か月齢~8歳5か月齢)
●供試アロマ ラベンダーエッセンシャルオイル
●グループ
  :対照群
  :試験群 1/3量群(規定の1/3量を30分間吸入)
       1/2量群(規定の1/2量を30分間吸入)
●測定
  :供試犬の姿勢や行動の継続時間を測定

イヌの緊張時の姿勢としての立位(立った状態で周囲を見渡す)がありますが、対照群と比べてラベンダー吸入群ではその時間は短い結果でした。

また、イヌの車酔いサインの1つとしてパンティングがります。
この継続時間は対照群(66.92秒)、1/3量群(35.00秒)、1/2量群(7.46秒)という成績でした。

以前ペットの虫よけ対策としてアロマの活用を紹介しましたが、ラベンダーの香りにはイヌをリラックスさせる作用もあることが確認されています。
もちろん強すぎる香りは逆効果ですが、各種アロマは愛犬の車酔い予防にも応用できそうです。

ペットの車酔い対策

では、動揺病の考え方からペットの車酔い対策をまとめてみましょう。

揺れ防止

何といっても車酔いの一番の原因は「予想していない揺れ」です。
急ハンドルによって体は左右に揺れ、急発進/急ブレーキでは前後に激しく揺れます。
これによって内耳の前庭は大きく刺激を受けます(=内耳前庭情報)。

荒い運転を行わないのは大前提ですが、ペットを入れているクレートやケージはできるだけ動かないように座席や床にしっかりと固定しましょう。

車内環境

私たちヒトと比べてペットは車の中のにおいや温度に対して敏感です。
においの原因として、車内の汚れやエアコンの風、また車用芳香剤がペットに合わない場合などがあります。

またケージを座席と座席の間の床や、後ろのラゲッジスペース(荷室)に置くと中のペットにはエアコンの風があたりません。
私たちが快適に感じている車内温度でもペットにはやや高めに感じている事があります。

車内のそうじはこまめに行い、走行中は時々窓を開けるなどにおいや車内温度の対応もお忘れなく。

リラックス

ドライブ中のペットは揺れや音、どんどん変わる外の景色などさまざまな刺激を受けて興奮しています。
この状態が長く続くと脳が混乱(=感覚混乱)を起こしてしまいますので、家にいるのと同じような状態にしてリラックスさせましょう。

長距離ドライブの場合は、1時間おきくらいに休憩を取り外の空気を吸わせてあげたり、またいつも遊んでいるおもちゃを与えるなどするものも良いアイデアです。
また先ほど紹介したラベンダー系のアロマオイルなどを使うのも一案です。

車慣れ

現在、動揺病=乗り物酔いの原因は脳の混乱と体験不足と考えられています。
従って、ドライブによる刺激や情報を少しずつ脳に覚えさせることはペットの車酔い対策に有効と考えられます。
簡単に言えば上手に車に慣れさせるという作戦です。

前回紹介した「愛犬のドライブトレーニング法」として1番多かった回答に「短時間のドライブから徐々に慣れさせた(22.8%)」というのがありました。
ペットを定期的に短時間のドライブに連れて行くことは、脳のドライブトレーニングとして良い方法です。

快適な車内環境のもとでやさしい運転を行い、リラックスした状態でドライブをするのは楽しいものです。
家族もペットも十分に慣れたところで、いよいよペットと一緒に旅行に行ってみませんか?
次回はペットツーリズムについてお話をしましょう。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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