「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
現在、アメリカでは代替肉がブームになっているようです。
代替肉とは家畜の肉を使わず植物性のタンパク質を主原料に加工したものですが、その材料は大豆や小麦などです。
今回は植物性タンパク質が豊富な大豆について探ってみようと思います。
目次
大豆の用途
農林水産省その他の資料によると、日本の大豆需要量は年間でおよそ350万トンです。
ではこの内、食用としての消費量は何割程度でしょうか?
大豆油
私たち日本人にとって大豆=食料ですが、諸外国では大豆は食べるものという感覚はあまりないようです。
大豆は油を採るための植物、ちょうどナタネのようなイメージです。
しかし実際は日本においても大豆の用途の約70%は採油用、すなわち大豆油を搾るために使用されています。
大豆から油を搾った残りを脱脂大豆とか大豆ミールと呼びますが、これは家畜の飼料やペットフードの大切なタンパク質源として活用されています。
食用としての大豆
大豆の食用としての使用割合は全消費量の30%足らずです。
大豆から作られる食品には豆腐、納豆、みそ、しょうゆなど、私たちが毎日のように食べているものですのでとても意外な感じがします。
先ほど外国では大豆を食べるという習慣がないと述べましたが、近年の日本食ブームにより、海外でも豆腐やしょうゆなど大豆を食材とする文化が理解されてきています。
大豆をタンパク質源とする代替肉の市場が拡大しているのもこの1つでしょう。
大豆の栄養特性
昔から「大豆は畑の肉」と言われています。
タンパク質を始めとして、大豆がもつ栄養価を確認してみましょう(日本食品標準成分表 2015年版七訂)。
タンパク質
大豆と同じように食材として馴染みがある豆類にそら豆とえんどう豆があります。
これらの100gあたりのタンパク質量を比べてみると、大豆(33.8g)、そら豆(26.0g)、えんどう豆(21.7g)となっています。
豆類は植物性タンパク質が豊富に含まれている食材ですが、なかでも大豆はその量が多いことが判ります。
脂質
大豆油はよくありますが、そら豆油とかえんどう豆油は聞いたことがありません。
それぞれの豆に含まれる油の量は大豆(19.7g)、そら豆(2.0g)、えんどう豆(2.3g)です。
大豆は他の豆類と比べると、10倍くらい多くの油を含んでいる訳です。
日本をはじめ世界中で大豆から油が搾られています。
なお、前回紹介した植物ステロールもこの油の中に含まれています。
糖質
テレビのCMで「糖質ゼロ」などと耳にしますが、糖質と炭水化物は何が違うのでしょう。
栄養的には「炭水化物=糖質+食物繊維」という関係です。
糖質の役目はエネルギー源であり、食物繊維は腸の中のそうじ役です。
各豆類の炭水化物と食物繊維の含有量は次のようになっています。
○大豆 …29.5g、17.9g
○そら豆 …55.9g、9.3g
○えんどう豆 …60.0g、17.4g
3種類とも食物繊維の量はほぼ同等ですが、大豆の炭水化物はおよそ半分しかありません。
すなわち大豆は糖質が少なく食物繊維が多い豆ということになります。
以上、大豆の栄養特性をまとめると肉(豊富なタンパク質と脂質)と野菜(食物繊維を含有)の両方の長所を持つユニークな食材であるといえます。
大豆の健康応援成分
大豆といえばイソフラボン、イソフラボンといえば大豆です。
大豆が単に栄養価が高い食材というだけでなく、特有の健康機能成分を含んでいることはテレビや雑誌でよく紹介されています。
大豆の有用成分
大豆に含まれている機能性成分をまとめると次のようになります。
○大豆タンパク質
…コレステロール値の低下や肥満を抑制する作用
○食物繊維
…整腸作用、脂質の吸収を抑える作用
○イソフラボン
…骨密度低下防止との関連性
○植物ステロール
…コレステロールの吸収を抑える作用
これらの他にも大豆オリゴ糖や大豆ペプチドなどがあり、現在では大豆をもとにした様々な特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品が開発販売されています。
大豆タンパク質
大豆は肉のようにタンパク質を豊富に含んでいるため、筋肉づくりに有用です。
これに加えて大豆タンパク質にはコレステロール値を下げるという機能があります。
大豆タンパク質の成分が胆汁(胆汁酸)と結合してコレステロールの乳化・消化吸収を阻害し体外に排出させるというのがその作用のしくみです。
またこの働きにはイソフラボンも関与しているとのことです。
ではこの大豆タンパク質がコレステロール値を下げる力はどの程度あるのでしょうか?
海外で報告されている複数の研究データをまとめた次のような報告があります(菅野道廣ら 熊本県立大学 2004年)。
《血清コレステロール濃度の低下率》
○食事療法(-7.5%)
○水溶性食物繊維(-10%)
○大豆タンパク質(-17%)
○治療薬:スタチン(-25%)
ここにあるスタチンというのは脂質異常症の治療薬のことで、体内でのコレステロール合成を阻害する薬です。
この数値を見ると薬には劣るのはもちろんですが、大豆タンパク質には相当高いコレステロール値を下げる力があることが判ります。
豆腐とおから
大豆を原料とした食品に豆腐があります。
また豆腐を作る過程でおからができます。
では最後に大豆に含まれる健康成分の内、みなさんの関心が高いイソフラボンと植物ステロールはどちらに含まれているのか見てみましょう(笠原 貢ら 岡山理科大学 2009年)。
イソフラボンのゆくえ
大豆イソフラボンは主に大豆の胚芽(芽の部分)に存在するフラボノイドの一種です。
豆腐やおからは多くの水分を含むため、乾燥重量100gあたりに換算するとイソフラボンの含有量は次のように算出されました。
○大豆 …100.7㎎
○豆腐 …64.4㎎
○おから …53.0㎎
イソフラボンというと大豆や豆腐にたっぷり含まれているというイメージがあります。
しかし実際は、大豆からほぼ同じくらいのイソフラボンが豆腐にもおからにも移っているということです。
イソフラボンはヒト、特に女性の骨粗しょう症予防との関連性を始めとして様々な健康機能が報告されています。
しかし、ペットにおいての作用ははっきりとは確認されていません。
現在のところとしては、あくまでのペットの健康への期待という感じに止めておこうと思います。
植物ステロールのゆくえ
前回紹介した植物ステロールとは、穀類や豆類、野菜・果物に含まれるあぶら成分のことでした。
湿重量100gあたりの植物ステロールの含有量は次のとおりです。
○大豆 …43.6㎎
○豆腐 …(測定限界以下)
○おから …21.5㎎
植物ステロールは腸管内でのコレステロールの吸収を抑える作用があり、自分自身も吸収されにくいという性質をもっています。
植物油である大豆油にたっぷりと含まれている植物ステロールは、加工した際には豆腐にはほとんど移行せず、その残りであるおからの方に移っていました。
今まで「残り物」というイメージが強かったおからですが、イソフラボンや植物ステロールといった大豆由来の健康成分を豊富にもっている食材であったということになります。
今回は大豆の有用性を紹介しましたが、ペットフードにおいては大豆そのものを原料とすることはあまりありません。
主に使用されているのは、油を搾った残りである脱脂大豆(大豆ミール)です。
タンパク質や食物繊維、植物ステロールといった大豆に含まれる健康応援成分は、大豆油や脱脂大豆、豆腐、おからなどに移行しています。
ペットの健康維持のために、これら大豆を原料とする食材を上手に使ってゆきましょう。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。