獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「着せていますか?ドッグウェア」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
11月に入り一気に寒くなってきました。
暑かった夏に比べると愛犬との散歩には良い季節ですが、冷たい風が吹く日もあります。
今回は愛犬のウェアについて考えます。

ウェア着用調査

街を歩いていると、かわいい服を着た愛犬との散歩を楽しんでいる人を見かけます。
さてこのドッグウェアですが、オーナーのみなさんは季節的に寒くなってきたから着せているのでしょうか、それとも何か他にも理由があるのでしょうか?

ウェアの着用率

博報堂生活総合研究所が首都圏と阪神圏において、次のようなドッグウェアの着用率調査を行いました(2009年)。

○期間 
  2009年2月28日(土) 15:00~18:00(3時間)
○地域
  首都圏、阪神圏の12地点(ドッグラン、公園、河川敷など)
○調査対象
  犬を散歩させていたオーナー1,093人
  (首都圏:661名、 阪神圏:432名)

調査の結果、愛犬のウェア着用率は約42%でした。
もう少し細かい条件ごとにデータをみると微妙に違いがあります。

○全体の着用率 …41.2%
○地域別 …首都圏(44.3%)、阪神圏(38.0%)
○男女別 …男性オーナー(34.8%)、女性オーナー(48.5%)

愛犬サイズと着用率

さらに愛犬のサイズと着用率との関係をみると、小型犬はおよそ半数近くの47.6%、これに対し大型犬ではぐっと低く14.8%となっていました。

以上の条件をまとめると、散歩時の愛犬のウェア着用率が最も高い組み合わせは「首都圏×女性×小型犬」となり、その割合は56%と半数を超えていました。
なんとなく判るような気がしますが、次にウェアを着せる理由の聞き取り結果を見てみましょう。

ウェアを着せる理由

調査時期が真冬の2月であったため、ウェア着用の理由にはやはり防寒がありました。
これを含め愛犬にウェアを着せる理由として、次のような回答が得られました。

○寒さ対策
  ・ウェアは冬場しか着せていない
  ・小型犬は寒がり
○汚れやゴミから守る
  ・公園や河川敷などで遊ばせたいが、泥だらけになるのは困る
  ・ウェアは外出時しか着せていない
○乱れた毛並みを隠す
  ・毛が伸びてボソボソしている時に着せている
  ・老犬の薄毛を隠すために着せている
○個性の表現
  ・愛犬のキャラに合ったウェアを着せている
  ・ウェアは愛犬の個性を表現するツール
○注目を集める
  ・ウェアは特別なものではなく、日常の外出着
  ・イヌと散歩をしていない人からも注目が集まるのがうれしい

オーナーのみなさんは愛情や思い入れ、またそれぞれの理由から愛犬にかわいいウェアを着せて外出されているようです。

ウェアの防寒効果

イヌは夏よりも冬に強く雪の中でも元気に走り回るというイメージがあります。
では本当にイヌという動物は寒さが平気なのでしょうか?

被毛の保温構造

イヌの被毛の構造と保温性についての研究報告があります(岡崎登志夫ら ヤマザキ学園大学 2015年)。
イヌの毛は犬種によって長さや色が違ったり、直毛や巻き毛などさまざまです。
また構造として毛の中に空洞スペースがあります。

報告者の岡崎らは白毛、内部に空洞をもつ白毛、黒毛の3種類のイヌの被毛に白熱灯の光をあて保温性を比較しました。
その結果、予想どおり吸熱性が最も高かったのは黒毛でした。
これは私たちが冬場に黒っぽい服を着るのと同じ意味合いです。

これに対し白毛には被毛の内部に光を集める集光性があり、保温性については中に空洞をもつ白毛が最も高い効果をもつことが判りました。
白毛のイヌの場合、光の熱エネルギーは毛の内部に集められ、さらに内部の空洞スペースの空気を温めるというわけです。

このように、黒毛も白毛もイヌの被毛には高い吸熱性と保温性があり、どちらも寒さに強いことが確認されました。
しかし冬場は日差しが少なく、冷たい風が吹く日もあります。
いくらイヌは保温効果が高い被毛をもっているといっても、やはりこのような天気の日には寒くて外出を嫌がると思われます。

ウェアの着用と体温

冒頭のアンケート結果のように、小型犬はとても寒がりです。
これは大型犬に比べると体の筋肉や皮下脂肪の量が少ないため、体温を貯めておく力が小さいためでしょう。

では実際、愛犬にドッグウェアを着せると、どれくらい暖かくなるのでしょうか。
冬の2月に成犬(合計11頭、平均体重27㎏)に散歩をさせ、ウェアの有無と体の表面温度の関係を調べた報告があります(福澤めぐみ 日本大学 2012年)。

これによると耳の表面温度は、ウェアなし(32.6℃)に対してポリエステル製ウェア着用(33.75℃)という結果でした。
やはりウェアを着ると胴体はもちろんのこと、耳のように外気に直接触れる部位でも体温が上昇することが判ります。

私たちが冬の外出にセーターやマフラーを手放せないのと同様に、愛犬にも防寒対策としてドッグウェアを着せてあげたいものです。(できればおしゃれのものがいいでしょう)

ウェアの抜け毛防止効果

防寒やおしゃれとはまた違った意味合いからウェアを着用しているイヌがいます。
それは盲導犬やサポート犬です。

盲導犬の被毛ケア

少し考えさせられるデータがあります。
日本盲導犬協会が行った調査(2005年)において、およそ半数の52%の人が盲導犬との施設同伴を断られた経験があると回答しています。
この中で特に入店を断られたのが飲食店(62%)で、その理由は衛生上の問題と抜け毛でした。

厚生労働省から出されている『身体障害者補助犬法の衛生確保のための健康管理ガイドライン』には『身体障害者補助犬の使用者は、自らが飼養および利用する犬の被毛等について、適切な管理を行う必要がある』と記載されています。

これを受けて盲導犬使用者のみなさんは、日頃からグルーミングを行う(98%)、外出時には服を着せる(89%)、敷物を携帯する(71%)などの抜け毛対応をとっています(日本盲導犬協会 2005年)。
ウェアの着用にはもう1つ抜け毛防止という大切な意味があります。

ウェアの着用と抜け毛

最後にドッグウェアの着用にはどれくらいの抜け毛防止効果があるのかを見ておきましょう。
日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校の山田 大は次のような試験を行いました。(2008年)

●被験動物 
  ラブラドールレトリバー(グルーミング1~2日後)
●グループ
  ウェアなし(4頭)、ウェアあり(4頭) 
  …両グループとも30分間の伏臥状態で観察
●平均抜け毛本数
  ウェアなし(238本)
  ウェアあり(156本)

このように30分間おとなしく伏せの状態で座らせていても、ケージには200本前後の被毛が落ちていました。
しかしウェアを着ていないグループに比べ、これを着ていたグループでは34%も抜け毛が少ないという結果が得られました。

今回の実験で使用されたウェアは綿製でしたが、他の材質によってはより強く抜け毛をキャッチするものがあります。
このようにドッグウェアの着用には、抜け毛を少なくする効果があることが確認されています。

これから本格的な冬の季節に入ります。
どうしても寒さが増してくると、オーナーのみなさんも愛犬も散歩がおっくうになってきます。
しかし、運動不足は万病の元ですので、このような寒い日にこそ散歩に出かけましょう。
そして散歩の途中にペット同伴OKのお店でゆっくりと時間を過ごすのもいいと思います。

この冬は防寒と抜け毛対策、そしてすれ違う人におしゃれな姿をアピールするためにも、愛犬に素敵なドッグウェアを着せて外出してみませんか?

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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