「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
みなさんと一緒に暮らしているペットが「近頃あまり遊ばなくなった」とか「触るとすごく驚く」といったようなことはありませんか?
毎日の生活の中で何かおかしいな、なんだか以前と様子が違うなと感じた場合、ひょっとすると目がよく見えていないのかもしれません。
目次
ペットの失明
もし目が見えなくなっても、ペットはそのことを言葉で教えてはくれません。
すべては家族のみなさんが気付いてあげられるかどうかにかかっています。
失明を疑う行動
ペットの目が見えなくなっていたり、または見えづらくなっている場合、しばしば次のような行動が確認されます。
・家具やドアにぶつかる
・壁に体を添わして歩く
・段差でつまずいたり、転ぶ
・玄関のチャイムなどの物音に驚く
失明の原因
私たちヒトもペットも眼の構造は同じです。瞳孔を通って眼球内に入ってきた光は水晶体(=レンズ)で屈折し、網膜に像を結びます。
この情報が視神経を経由して脳に伝わることによって「モノが見える」となります。
この仕組みを通して失明の原因を考えると、次の4つにまとめることができます。
①光の通り道がにごる
…本来、光の通り道である角膜や水晶体は透明です。
これが角膜炎・角膜潰瘍や白内障などの病気により
にごってしまうと光が眼球内に入ってきません。
②網膜が正常に働かない
…眼球の内側を覆う網膜には明るさや色を認識する視細胞が並んでいます。
この網膜が縮んだり(網膜萎縮)、剥がれたり(網膜剥離)すると、
視細胞は光の情報を正しくキャッチすることができません。
③視神経が作動しない
…網膜でキャッチした視覚情報は視神経を通って脳に伝えられます。
脳腫瘍などにより視神経が圧迫を受けると伝達役としての
仕事ができなくなります。
④脳が認識できない
…外から入ってきた光(=視覚情報)は、最終的に脳において明るさ、
色、形として認識され「モノが見える」となります。
しかし、脳炎や水頭症など脳の障害により情報処理ができないと
いくら光が入ってきても「目が見えない」ということになります。
失明後の行動変化
もし病気や老化により目が見えなくなった場合、愛犬はどのような行動を見せるのでしょうか。
両眼を失明したイヌ(2~10歳 合計15頭)を対象に3か月間の生活の変化を調査した報告があります(柳いくみ ら 酪農学園大学 2011年)。
増える行動と減る行動
柳の報告では失明により増加または減少した行動として、次のようなものがありました。
○増加した行動
・物や人にぶつかる(100%)
・寝ている/じっとしている(93.3%)
・においを嗅ぐ(80.0%)
・家族のそばにいる(73.3%)
○減少した行動
・散歩への関心(75%)
家族への行動変化
加えて大変興味深い結果は、家族に対する行動の変化です。
調査対象15頭において、咬むなどの攻撃行動は増加率・減少率がバラバラでした。
○家族を咬む
…増えた(40%)、減った(20%)
○家族に吠える
…増えた(20%)、減った(60%)
失明犬の行動の変化は不安と恐怖によるものです。
不安により日常の活動は減少し(じっとしている、散歩に行きたがらない)、家族への依存度(そばにいる時間)が増えます。
また、目が見えないという恐怖から家族を咬んだり吠えたりしますが、これは失明までの時間経過と関係があります。
白内障のようにじわじわと見えなくなる場合に対して、事故や急性経過をとる病気(突発性網膜変性など)では、失明への準備ができないため恐怖感も大きく、その反動として過度な攻撃行動を示すようになります。
失明後の生活
ペットの目が見えなくなった以降、今までとは違った生活が始まります。
続いて柳の調査結果を見てみましょう。
オーナーの対応
「失明した愛犬に対して特に意識をしていることは?」という質問に対して、15人のオーナーが次のような回答をしています。
・声をかける(15人/15人)
・家具の配置を変えない(13人/15人)
・他人との接触時に失明していることを伝える(13人/15人)
・他の犬との接触時にオーナーに失明していることを伝える(11人/15人)
・急に触らない(9人/15人)
またこれらの他にも、触合う時間を増やす(8人)、散歩コースを変えない(7人)、段差の軽減(4人)、よくぶつかる所をタオルで覆う(3人)といった対応がありました。
失明してしまった愛犬がその後の生活を送るために、オーナーのみなさんは考えられる様々な対応・行動をとられています。
困り事の推移
先ほどのアンケートで失明犬の行動変化として「物や人にぶつかる」というのがありました。
このような生活上の困り事ですが、いったいどれくらいの期間続くのでしょうか?
動物病院で失明の診断を受けた日以降3か月間で、物・人へのぶつかり、段差でのつまずき、散歩の3項目の困り事がどのように移り変わっていくかを調べています。
この結果、1~2か月はモノが見えないという生活に愛犬はとても困っている様子ですが、3か月目にはだいぶ慣れてきているということが判ります。
さまざまな理由で愛犬が失明してしまっても毎日の生活は続きます。
生活上の困り事も、1か月~2か月~3か月と経過するにつれて徐々に「困った」という認識も軽減してゆくようです。
3か月後の意識
最後に、失明3か月後に何割の愛犬およびオーナーがこの生活に慣れたと感じているのかというデータを紹介します。
○愛犬(オーナーの判断によるもの)
…慣れない(0%)
…何ともいえない(6.7%)
…少し慣れた(40.0%)、慣れた(46.7%)、とても慣れた(6.7%)
○オーナー
…慣れない(0%)
…何ともいえない(13.3%)
…少し慣れた(40.0%)、慣れた(46.7%)、とても慣れた(0%)
両者共に「慣れない」という回答は0%であり、「失明しているという生活に慣れた」と感じている割合は85%以上もありました。
大変希望が持てる結果ですが、これには背景に愛犬とオーナーの努力があると思われます。
「慣れる」には「学習」が必要です。
残念ですが失明は一部を除き、元の状態に戻ることはありません。
そこで目が見えないという新しい生活を学習し、1日も早く慣れることが大切になります。
視力を失うとこれを補うために聴覚や嗅覚が鋭くなるといいます。
動物は失った機能を他の機能でカバーするようにできていますが、このためにはトレーニングが重要です。
ぶつかりの安全対策(家具のカバー、段差の補修など)をしっかりする、家の中で音が鳴るおもちゃで遊ぶ、今まで以上に注意深く散歩につれて出かける、など毎日の学習/トレーニングが失明犬の生活の不安を少しずつ和らげてくれるでしょう。
次回はイヌの失明原因の1つである白内障について、原因と栄養面からの対策について考えます
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。