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ペットの栄養編: テーマ「便利なフリーズドライ食材」

前回はドライフルーツの人気が高まっているという話をしました。食材を乾燥させると味や栄養分が濃縮されます。また水分含有量が低くなるため、細菌やカビの繁殖が抑えられ保存性もアップします。今回は乾燥食材について考えます。

【いろいろな乾燥食品】

カップラーメンにお湯を注ぐ、インスタントコーヒーにお湯を入れるなど、乾燥された食品は水分を補給すると元の状態に戻ります。私たちの身の周りにはいくつもの種類の乾燥食品があります。

食品の乾燥方法

手作りフードの材料としての乾燥ワカメ、おやつにジャーキーや小魚を与えているオーナーのみなさんは多いと思います。このように私たちヒトはもちろんですが、ペットの食事にも乾燥食材は広く使われています。これら乾燥食材は次のようにそれぞれ異なった方法で作られています。

《自然乾燥》
魚の干物や干しシイタケ、かんぴょうなど昔ながらの天日干しされた食材です。

《人工乾燥》
 最新の技術と機械を使った乾燥食品があります。
・熱風乾燥 …食品に熱風を吹き付けて乾燥させる最も一般な方法
・噴霧乾燥 …液状の食品を高温の空気中に噴霧して粉末状に乾燥させる
・加圧乾燥 …食品に熱と圧力を加え一気に常圧に戻して膨化乾燥させる
・凍結乾燥 …食品を冷凍後に真空状態にして水分を蒸発させる

この中で近年その技術の進歩が著しいものが凍結乾燥という方法です。私たちが「フリーズドライ」と呼んでいるものがこれです。

フリーズドライとは?

「美味しさ長持ち」とか「ほんとにお湯で戻しただけ?」とテレビCMでよく耳にするフリーズドライ食品ですが、いつの間にか私たちの食生活の中にすっかり溶け込んでいます。

凍結乾燥または真空凍結乾燥という技術のスタートは意外と古く、今から100年以上も前に研究目的として開発されました。その後、医薬品や一部の食品に応用されましたが、フリーズドライ食材として認知され始めたきっかけはカップラーメンの具材でこれがおよそ50年前です。

ここでフリーズドライの原理を簡単に紹介しておきましょう。まず食品を冷やして内部に含まれる水分を凍らせます。水は気圧が低い環境では沸騰する温度も下がります。そこで次に気圧をゼロ=真空状態にします。すると食品内部の水分は氷の状態から一足飛びに蒸発します。この現象を「昇華(しょうか)」といいます。

昇華により乾燥した食品は氷の抜け殻、すなわちスカスカな状態になっています。カップラーメンやインスタントの味噌汁の具材が元の戻るのは、この空洞にお湯が入り込むためです。またフリーズドライ食材が軽く、手でつまむと簡単に粉々になるのもこのスカスカ状態=多孔質によるものです。

【フリーズドライの特徴】

フリーズドライ食材というとまず保存が利き、お湯をかけると味も食感も元通りといいこと尽くめのイメージがあります。しかしフリーズドライ(FD)食材にも良い点と悪い点があります。

FD食材の長所

フリーズドライ食材の長所として次のような点があげられます。

・形状や色の変化が少ない
・味や栄養価の劣化が少ない
・復元性が高い
・長期の保存が可能

食材の乾燥方法にはいくつかありましたが、フリーズドライは栄養価の劣化、中でもビタミンCの消失が少ない保存技術とされています。天野実業㈱の山口明子らは、野菜を用いて熱風乾燥とフリーズドライのビタミンCの保存率を比較しています。

●供試野菜 ホウレンソウ、パセリ、ブロッコリー など
●乾燥方法
  熱風乾燥 …60℃、8~20時間
  フリーズドライ(FD)
●ビタミンC残存率 
乾燥前の含有量を100として残存率を算出
  ホウレンソウ …熱風乾燥(32.8)、FD(88.9)
  パセリ    …熱風乾燥(62.2)、FD(102.4)
  ブロッコリー …熱風乾燥(4.3)、FD(69.6)

この結果から加熱工程がないフリーズドライでは、熱に弱いビタミンCが多く残っていることが判ります。

FD食材の短所

では逆にフリーズドライ食材の弱点とは何でしょうか?それは先ほど説明した「氷の抜け殻=多孔質」であることに起因する次のようなことが考えられます。なお、これについては後ほど詳しく説明します。

・酸化、吸湿しやすい
・粉々に壊れやすい
・価格が高い(製造費や包装費)

 

【冷凍保存 vs フリーズドライ】

フリーズドライよりももっと身近な保存食品に冷凍食品があります。栄養素の保存性として、冷凍保存とフリーズドライとではどちらが優れているのでしょうか。

野菜やイモ類など13種類を用いて、下茹で後に冷凍した食材とフリーズドライした食材を1年間保存し、そのビタミン類の残存率を調査した報告があります(辻村 卓ら 女子栄養大学 1997年)。この中でペットの手作りフードによく利用される食材について見てみましょう。

カロチン

カロチンは緑黄色野菜にたくさん含まれていて、その代表にニンジンや西洋カボチャがあります。保存3か月後の100gあたりカロチン残存量と残存率は次のようになっていました。

○ニンジン
  冷凍 …含有量(12,508μg)、残存率(100%)
  FD  …含有量(28,320μg)、残存率(100%)
○西洋カボチャ
  冷凍 …含有量(2,050μg)、残存率(93%)
  FD  …含有量(5,720μg)、残存率(68%)

ビタミンB1

ビタミンB1が豊富なフード材料にグリーンアスパラガスがあります。保存期間に伴いアスパラガスのビタミンB1は、冷凍もフリーズドライも徐々に減少してゆきます。3か月後の値は次のとおりです。

○アスパラガス
  冷凍 …含有量(0.15mg)、残存率(88%)
  FD  …含有量(1.73mg)、残存率(93%)

ビタミンC

最後はビタミンCです。フード材料ではビタミンC源としてキャベツがよく使用されています。キャベツの場合、残存率は比較的良好で3か月後の成績は次のとおりです。

○キャベツ
  冷凍 …含有量(41mg)、残存率(93%)
  FD  …含有量(640mg)、残存率(100%)

ここで1つ注意する点があります。グラフを見ると各ビタミンの保存性は冷凍保存の方が良好な感がありますが、その絶対量はフリーズドライの方が多くなっています。これは冷蔵保存ではあらかじめ下茹でを行っているためです。

冷凍保存もフリーズドライも味や食感の保存性は優れていますが、栄養価としては3か月を目安として消費するのが安心です。それぞれの保存食材の長所を生かしてペットの食事に利用して下さい。

【保管上の注意点】

最初の方で少し述べましたが、フリーズドライには酸化・吸湿しやすいという短所があります。これについて説明しましょう。

多孔質であること

フリーズドライ食材は氷の抜け殻、すなわち大小無数の空洞をもつ構造をしています。お湯をかけるだけでインスタント食品の具材が元の状態に戻るのはこのためです。すると開封後は、この空洞部分に酸素や空気中の水分(=湿気)が入り込むことが考えられます。

空洞部分に酸素が侵入すると、食材中の脂質の酸化やビタミンの変性消失の可能性があります。また湿気ると食べた時の味や食感も元の食材とは異なるものになってしまいます。

このようにフリーズドライの特徴である多孔質構造が、逆に食材の栄養価や風味を損なう原因となることが考えられます。これでは本末転倒です。何か良い対策はないのでしょうか?

真空保存が安心

フリーズドライ食材の保管上の注意点は空気を遮断することです。開封と同時に空気中の酸素と水分はジワジワと空洞内に入り込んできます。したがって使用した残りは密閉できるタッパー、最も良い方法は真空包装容器に入れて空気をシャットアウトすることです。

真空保存することによりフリーズドライ食材は開封後も、栄養価の劣化消失が少なくパリッとした状態が長期間保たれます。

「ペットの健康のために野菜を食べさせてあげたいのですが…」という問合せをよく受けます。しかし生の野菜や果物はかさ張るため、食事量全体のボリュームが増えてそうそう食べられるものではありません。

このような場合に乾燥させた野菜やフリーズドライ食材を提案しています。かさ張る野菜も乾燥させると手で簡単につぶせてフードにトッピングできます。みなさんもこれら乾燥食材をフード材料として上手に利用してみて下さい。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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