新型コロナウイルスの流行をきっかけにペットを飼い始めたという方は多いと思います。家庭にペットがやって来るということはフードや散歩、健康チェックなど新しく仕事が増えるということですが、同時にたくさんの得られるものもあります。今回はペットの存在が小さな子どもたちのキャラクター形成に与える影響について考えます。
目次
【ペットと子どもの性格】
ペットは一緒に暮らす家族のみなさんに安らぎを与えてくれます。中でもこれから人格を形成するという小さな子どもに対して、さまざまな影響をもたらします。
動物に対する印象
4~5歳くらいの幼い子どもにとって動物はどのような存在なのでしょうか?青森中央学院大学の三上ふみ子らは、保育園児を対象に動物というものに対するイメージ調査を行いました(2017年)。
●調査対象 保育園児12人(男子8人、女子4人、平均年齢4.4歳)
●グループ
:ペットを飼育している3人
:ペットを飼育していない9人
●調査内容 日常における動物に対する印象をポイント化
結果では両グループで大きな差が認められたものがありました。ペットがいる家庭の子どもにとって動物は「親しみやすい、一緒にいると安心する存在」という回答が多く、逆にペットと暮らしていない子どもでは「攻撃してくるもの、臭く汚い存在」という印象をもっていました。
日頃ペットと暮らしている保育園児は、動物に対してポジティブなイメージを強くもっていることが判ります。
イヌがいる家庭の子ども
子どもをもつ親御さんが考えるペット飼育の効用には次のようなものがあります。(日本ペットフード協会 2015年)。
《子どもにおけるペット飼育の効用》
・心豊かに育っている(60.7%)
・生命の大切さをより理解するようになった(59.4%)
・家族とのコミュニケーションが豊かになった(53.1%)
・他者を思いやるようになった(50.2%)
・寂しがることが少なくなった(44.6%)
京都女子大学の森下正康らは、ペット飼育が小学生の心理や行動に与える影響について報告しています(2014年)。
●調査対象 イヌを飼っている小学校5、6年生の児童55人
(男子23人、女子32人)
●調査項目
・間接的世話 …ペットにエサや水を与える、掃除をする
・愛情 …ペットの気持ちを考えようとする
・感受性 …悲しいドラマをみると泣いてしまう
・共感性 …元気のない友達をみると心配になる
・向社会的行動 …仲間を助ける行動をとる
各項目とイヌ飼育との関連性の強さをポイント化して回答結果を分析すると、女の子の方がやや高い傾向にあるものの、男女ともに広く優しい心を持っていることが判ります。
中でもイヌを飼っている家庭の子どもは、「他人の気持ちを理解する、困っている人や動物を見ると悲しい気持ちになる」という共感性を強く身に着けていることが注目されます。
【友達を助けるという気持ち】
親御さんが小さい子どもたちに期待するキャラクターとして、仲間や友達を助けたいと思う心や援助する行動があります。これを向社会的行動といいます。
ペットの飼育経験との関係
向社会的行動の具体例として次のようなものがあります。
・仲間外れになっている子を遊びにさそう
・重いものを運んでいる子を手伝う
・悪口やいじめられている子をかばう
この大切な向社会的行動とペットの飼育経験の有無との関係を見てみると、男の子は現在飼育中という子で高く、ペットと暮らしたことがない子は値が低いことが確認できます。
これに対して女の子はペット飼育の経験の有無に関係なく高い数値を示しています。男の子に比べて女の子はベースとして「友達を助けようと考える心」を持っているようです。
ペットの種類との関係
こうなると男の子を持つ親御さんは少々心配になってしまいますが、1つ対応策があります。それは飼っているペットの種類により、向社会的行動がアップするということです。
森下らは飼育するペットの種類と子どもたちの向社会的行動との関係について調査しました。すると金魚を飼っている小学生51人(男子11人、女子40人)では、女子においてややポイントが高い結果でした。これに対してイヌを飼っている55人(男子23人、女子32人)では、男子のポイントがグッと高くなっています。
これは男の子においては、金魚のように「見る」だけの関係ではなく、イヌのように一緒に遊ぶ、散歩をする、病気になれば動物病院に連れて行くなど「互いに触れ合う」という関係が向社会的行動を発達させると考えられます。
学校と動物飼育
一般市民(ペット飼育者500人、非飼育者100人:合計600人)が考えるペット業界の活性化に必要な事は何か?というアンケート結果があります(千葉県経済センター 2020年)。
最も多かった回答は「ペットのしつけ、飼い主のモラルの向上、ペットに関する地域の理解など動物愛護精神の醸成」44.7%でした。第2位は「ペットと共に暮らせる特養ホームなど、人と共に一生ケアしてもらえる場所の増加」25.8%、そして第3位に「動物とのふれあいや小・中学校での動物飼育などによる学校教育」22.2%というものがありました。
このように教育の現場に動物を取り入れて、子どもの道徳心や人格の形成、そして学習能力などを向上させようとする取り組みを『動物介在教育』と呼んでいます。近年はこの動物介在教育を実施する学校が増えています。
【動物介在教育】
幼い子どもはペットと暮らすことにより、優しい心や感受性豊かな性格、生命を大切にする気持ちが養われるといいます。動物介在教育というと何やら難しそうな気がしますが、要するに動物飼育を通して子どもの心を育てるということです。
目標と達成度
北翔大学の今野洋子らは札幌市内の全公立小学校を対象に、動物介在教育の現状を調査しました(2010年)。これによると学校において動物飼育の必要性を感じているという回答率は全体の92.6%でした。
また、学校で飼育されている動物のトップ3はウサギ(80.0%)、魚(67.0%)、ニワトリ(24.2%)ということでした。比較的世話がしやすい小型の動物が多く、残念ながらイヌやネコを飼育しているという学校はありませんでした。
小学校が動物飼育を実施する目的/目標としては、次のような回答がありました。
○生命の大切さを気付かせる(89.4%)
○思いやりの気持ちを育てる(62.1%)
○動物をかわいがる気持ちを育てる(57.6%)
○責任感を育てる(51.8%)
○豊かな感受性を育てる(49.4%)
このように子どもたちの心を育てる動物介在教育ですが、学校としてその達成度はどのように評価しているのでしょうか?上記の目的の中でほぼ達成できていると回答があったのは「動物をかわいがる気持ちを育てる」と「責任感を育てる」でした。
これに対して達成度が低いと自己評価されたのが「生命の大切さを気付かせる」でした。これを目標に掲げていた学校は89.4%とトップであったのに対して、「生命の尊さを実感できるようになった」と回答したのは22.7%しかありませんでした。この結果の理由には何があるのでしょうか。
動物介在教育の限界
現在広がりつつある動物介在教育は、すべての点で上手く進んでいるというわけでもないようです。学校関係者が考える実行する上での困難点として次のようなものがあります。
○夏休みなどの長期休業中の飼育が大変(69.3%)
○動物が死亡した時の処置に困る(41.3%)
○土曜日曜の飼育が大変(41.3%)
○動物がケガや病気になった時に困る(40.0%)
○その他 …エサの確保、そうじ、子どもたちへの病気の感染リスク など
どうやら動物介在教育の限界の背景には、小学生が学校で動物と過ごせるのは(月)~(金)の登校から下校までの限られた時間しかないということがあるようです。
ペットと暮らすということ
困っている人や友達を助け生命の大切さを理解する人間に育つには、幼稚園・保育園や小学校のうちからペットと同じ時間を過ごすことが有効であることが判りました。さらにこれには、男の子女の子ともにイヌのように直接触れ合って世話をする動物が適しているようです。
自宅にペットがいると、土日夏休み関係なく365日フードをあげたり、散歩に連れて行く必要があります。また病気やケガをしたときは一緒に動物病院に行き、元気になるところやまた死ぬという場面を目にすることになります。
このように幼い子どもがペットと一緒に暮らすということは、学校以上に家庭が一番の動物介在教育の現場であるといえるのではないでしょうか。
昨年は新型コロナウイルスの流行をきっかけとしてオーナーデビューされた方が多かった年でした。幼い子どもをもつオーナーのみなさんは、毎日の愛犬・愛猫の世話が子どもの心を育てているということを思いながら、これからもペットと一緒の時間を過ごして下さい。
(以上)
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。