3回に渡り手作りフードに使われるおいしいダシやスープの機能について話をしています。今回はその締めくくりで鰹ダシがテーマです。
目次
【かつお節と鰹ダシ】
かつお節は世界で一番堅い食べ物といわれています。またかつお節は表面にカビを植え付けて、タンパク質をうま味のアミノ酸に変化させているため発酵食品ともいえます。この堅いかつお節を薄く削って煮出したものが鰹ダシです。
含まれる栄養成分
かつお節と鰹ダシに含まれている栄養成分を確認しておきましょう。鶏ガラやコンブと異なり、かつお節は元々魚の筋肉部分ですので大部分はタンパク質が占めています。日本食品標準成分表(2015年版七訂)によると、かつお節100g中のタンパク質は77.1gもあります。
鰹ダシには、かつお節由来の様々な成分が含まれています。100gあたり40.9gものタンパク質・ペプチドをはじめとして、遊離アミノ酸22.7g、有機酸11.5g、ミネラル5.0gとなっています。
鰹ダシのうま味成分は核酸関連物質であるイノシン酸ですが、このイノシン酸は0.6gです。思っていたより少ない感じですが、鰹ダシのおいしさはイノシン酸だけではなく、タンパク質・ペプチドやアミノ酸などから複合的に出来上がっているようです。(野沢与志津 味の素㈱ 2014年)。
かつお節のヒスチジン
ここでかつお節に特徴的に含まれているヒスチジンというアミノ酸について説明します。私たち動物の脳の中にあり、いろいろな情報をやり取りする仲介役を神経伝達物質といいます。この1つにヒスタミンというものがあり、ヒスタミンは唯一ヒスチジンから合成されます。これよりヒスチジンと脳活性の関連性が研究されています。
ペットフードにもよく使われている食材100g中のヒスチジン量を確認してみましょう。まず肉類では牛肉(880㎎)、豚肉(920㎎)、鶏肉(690㎎)、魚類ではアジ(780㎎)、タイ(540㎎)、サバ(1,300㎎)です。これらに対してクロマグロ(2,400㎎)、カツオ(2,500㎎)と含有量が多くなっており、かつお節では5,600㎎もの量が含まれています(日本食品標準成分表2015年版七訂)。
このようにかつお節と鰹ダシは脳の働きを活発にする作用があると考えられます。これについては後程詳しく紹介します。
【鰹ダシの健康機能】
うま味のイノシン酸に加えタンパク質が豊富な鰹ダシですが、おいしさと共に健康応援作用もあることがダシメーカー各社から報告されています。ここではその代表を3つ紹介します。
食後血糖値の低下
鰹ダシと血糖値との関係を調べた研究があります。健康な男性14人(平均年齢47.1歳)を対象に白湯または鰹ダシを150ml、その30分後に米飯を200g摂取してもらい経時的に血糖値を測定しました(関 英治ら ヤマキ㈱ 2018年)。
結果、共に米飯を食べた30分後には血糖値のピークを迎えましたが、対照群(白湯)に比べて試験群(鰹ダシ)の方は数値が早く低下しました。
食後に上昇した血糖値はインスリンにより元に戻りますが、体内にはこのインスリン分泌を阻害する物質があります。鰹ダシにはこの阻害作用を抑える働きがあるためと考察されています。
血圧降下
泌尿器系の臓器である腎臓は毛細血管が密に集まり、血液をろ過して尿を作っています。毛細血管が硬くなると血圧は高くなり、血圧が高いと毛細血管に負荷がかかります。このような悪循環はペットの腎臓疾患にも当てはまることです。
㈱シマヤの針生 仁は高血圧のラットを用いて、鰹ダシの血圧降下作用について次のような検証をしました(2002年)。
●被験動物 高血圧ラット
●グループ
対照群(8匹) …水4ml/㎏、1回給与
試験群(8匹) …50%鰹ダシ4ml/㎏、1回給与
●測定項目
経時的に最高血圧を測定
この実験で鰹ダシを1回給与された試験群ラットは、4~8時間後に最高血圧が約15%低く抑えられることが判りました。ただし24時間後には対照群と同じ値に戻りますが、これは鰹ダシに含まれる有効成分が徐々に消化されたためと考えられます。
抗酸化活性
抗酸化活性というとビタミンB、C、Eなど野菜や果物を思い浮かべますが、かつお節・鰹ダシにもこの抗酸化活性が確認されています。焼津水産化学工業㈱の山田 潤らは鰹ダシのいろいろな煮出し条件のもと、抗酸化活性が認められる最適条件を報告しています(2008年)。
山田らはかつお節に20倍量の水を加え、温度と時間を組み合わせて鰹ダシをとり、ラジカル消去活性を測定しました。結果では煮出し温度が高いほど値も高くなり、100℃で30分の条件で作っただしに最も高い消去活性=抗酸化能が認められました。
このように鰹ダシには鶏ガラやコンブとはまた違った健康機能があるようです。これらの機能は鰹ダシにおよそ40%も含まれるタンパク質、またはアミノ酸が複数結合したペプチドの作用によるものと考えられています。
かつお節・鰹ダシはうま味の素である遊離アミノ酸やイノシン酸に加え、いろいろな機能性ペプチドを豊富に含む健康食材ともいえます。
【鰹ダシの抗疲労効果】
鰹ダシがもつ機能性のなかでとても興味深いものに抗疲労効果、すなわち体を疲れにくくするという作用があります。
鰹ダシと身体活動
マウスを用いた運動時の疲労度を調べる試験として、水の流れに逆らって泳ぐ時間を測定するというものがあり、これを限界遊泳時間といいます(少々可哀そうな実験です…)。味の素㈱の野沢は鰹ダシの抗疲労効果を次のような条件で調べました。
●被験動物 マウス
●グループ
対照群 …プラセボ給与
試験群 …鰹ダシを体重1㎏あたり0.43g、0.86g、1.73g給与
●測定項目
給与60分後の限界遊泳時間を測定
結果では対照群が9.1分間であったのに対して、鰹ダシ給与群ではそれぞれ11.0分間、12.1分間、12.0分間と長い時間泳ぐことができました。このように鰹ダシには体を疲れにくくして、身体活動時間を延長させる働きがあることが判ります。
脳の活性化
ではこの抗疲労作用は鰹ダシの何に起因しているのでしょうか?野沢は鰹ダシをいくつかの成分に分けて検討した結果、ペプチドやアミノ酸、中でもヒスチジンが疲労回復に大きく関与していることを確認しました。
ヒスチジンは脳の情報伝達物質ヒスタミンの材料になるアミノ酸で、カツオやかつお節に特徴的に含まれています。また鰹ダシの遊離アミノ酸のおよそ半分はこのヒスチジンが占めています。
マウスに鰹ダシを体重1㎏あたり1.6g給与したところ、60分後には脳内ヒスタミン濃度の上昇が始まり、120分後にはピークを示すというデータがあります。鰹ダシを飲むと含まれるアミノ酸ヒスチジンが体内でヒスタミンに変わり、脳の情報伝達活動が活性化されるということです。
血流量の増加
運動を続けるには脳の活動とともに、エネルギーの供給も欠かせません。ブドウ糖などのエネルギー源を全身の筋肉に届けるには血液の流れ=血流が大切です。
野沢は女性19人(年齢18~22歳)に25%濃度の鰹ダシを飲んでもらい、皮膚の血流量を調べました。結果では対照群(白湯摂取)には変化は見られませんでしたが、試験群(鰹だし摂取)では10分後から血液の流れが活発になり、60分後まで血流量の増加が維持されました。
以上の試験成績をまとめると、脳活動の亢進(=ヒスチジン、ヒスタミン)+血流量の増加(=エネルギーの全身供給)という2つが鰹ダシがもつ疲労回復のメカニズムとなります。かつお節・鰹ダシにはとてもユニークな機能をもったペプチドやアミノ酸が含まれています。
食品や食材には3つの機能があるといわれます。一次機能とは栄養源、二次機能は嗜好性、そして三次機能とは健康増進作用をいいます。これはダシ・スープにも当てはまることです。
ダシやスープを使ったフードはペットにとって水分補給やタンパク質、ミネラルなどの栄養源(一次機能)、うま味(二次機能)、そして抗酸化活性や抗疲労作用といった健康の維持増進(三次機能)の3つがそろっています。鰹ダシは運動が大好きな成長期から体調管理が求められる高齢期のペットまで、幅広く利用したい食材です。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。