獣医師が解説

【獣医師が解説】ケアフードを考える:テーマ「ペットへのビタミンC補給」

時々ですが「ペットにビタミンCの補給は必要でしょうか?」という問い合わせを受けます。近頃はネットでいろいろな情報が入手できますので、イヌやネコには特にビタミンCを補給する必要はないことはよく知られています。しかしこれにはペットの肝臓のコンディションが大きく関わっています。

【ビタミンCの合成】

私たちは1日に100㎎程度のビタミンCを摂取するよう推奨されています。これはヒトという動物は体内でビタミンCを作ることができないためです。ではイヌやネコではどうでしょう?

作れる動物と作れない動物

動物の中には体内でビタミンCを作ることができる種類とできない種類とがあります。身近なところで見てみると次のような2つのグループに分かれます。

〇体内合成できる動物

  家畜 …ウシ、ウマ、ヤギ
  実験動物 …マウス、ラット、ウサギ
  ペット …イヌ、ネコ

〇体内合成できない動物

  霊長類 …ヒト、サル
  実験動物 …モルモット
  その他 …魚、コウモリ

このようにペットのイヌやネコは体内でビタミンCを合成できる動物ですがここで問題です。ビタミンCはどこで何から作られているのでしょうか?
 

肝臓とビタミンC

体の中でビタミンCが合成されるルートをざっくりと確認しましょう。場所は肝臓、原料はブドウ糖です。炭水化物の消化によりできたブドウ糖は肝臓で10ぐらいの工程を経て最終的にビタミンCになります。各工程では専門の酵素が働いて次々と化学反応が進んでゆきます。

ビタミンCが完成する一つ手前の物質にL-グロノ-γ-ラクトンというものがあり、これをビタミンCに変換するのがL-グロノラクトン酸化酵素(長いのでGLOと略します)です。その動物が酵素GLOをもっているか、もっていないかにより、体内でビタミンCが作れるか作れないかが決まります。

ということでイヌ・ネコは酵素GLOをもっており、ブドウ糖を原料にして肝臓でビタミンCを合成できる動物であるということになります。

各種動物のビタミンC量

ビタミンCは抗酸化作用があることでよく知られています。毎日の生活の中でいろいろな酸化ストレスから私たちを守ってくれている大切なビタミンCは体内にどれくらいあるのでしょうか。

血中のビタミンC量は測定方法により若干の違いがありますが、いろいろな研究者の報告をまとめるとヒト(約9㎎/L)、イヌ(約7㎎/L)、ウシ・ウマ・ラット(4~5㎎/L)です(京都大学 林 海鷹ら 2003年)。

ヒトとイヌは比較的多くのビタミンCをもっています。また体内でビタミンCを作れる動物が必ずしもたくさんのビタミンCをもっているとは限らないようです。

【ペットとビタミンC】

今回のテーマである「イヌやネコへのビタミンC補給は必要か?」という問いの答えは実は簡単ではありません。その1つはビタミンCを作る量にあります。

イヌ・ネコの合成能力

いろいろな文献で各種動物の1日あたりのビタミンC合成量を調べてみました(重岡 成、三石 巌)。それぞれ体重1㎏あたりに換算すると次のような値になります。

〇家畜 …ヤギ(190㎎)
〇実験動物 …マウス(275㎎)、ウサギ(225㎎)、ラット(150㎎)
〇ペット …イヌ・ネコ(40㎎)

このようにイヌやネコは体内でビタミンCを作ることができるものの、その合成能力は他の動物に比べると低いことが判ります。先ほどイヌの体内ビタミンC量はヒトと同じくらい高いというデータを紹介しましたが、イヌは少ないビタミンCを上手にやりくりして消費している動物であるといえます。

加齢とビタミンC量

もう1つイヌに関する気になるデータを紹介しましょう。京都大学の林 海鷹らは柴犬他48頭を対象に年齢と血中ビタミンC濃度との関係を調査しました(2003年)。

測定結果全体から成犬の血中ビタミンC濃度の基準値は4.8~9.2㎎/Lとなりました。イヌの年齢で見ると最も高かったのは1歳未満グループ(4頭)で10.18㎎/L、そして年齢が進むにつれて減少し10歳以上グループ(13頭)では6.56㎎/Lでした。なお性別や避妊/非避妊との間に差は見られませんでした。

体内のビタミンC量は食事内容やストレス、感染症、そして肝臓機能などにより減少します。これら影響因子の背景として加齢があることが判ります。

【ビタミンC補給の必要性】

ビタミンCのしごとといえば酸化から体を守る抗酸化作用ですが、この他にも鉄の吸収促進、各種酵素の応援、発がん物質の生成抑制、抗老化作用などがあります。最後に次の3つとビタミンCとの深い関係を見ておきましょう。

白内障の予防

ペットの老化に伴いよく見られる病気の1つに白内障があります。その発症率は7歳を過ぎたころからぐっと上昇しますが、これには水晶体の酸化ストレスが関係します。水晶体とは眼のレンズにあたる透明な部位です。

毎日太陽の紫外線を浴びることにより水晶体の中では活性酸素が形成され、本来透明な水晶体が徐々に白く濁ります。これが白内障です。しかしイヌやネコは体内で抗酸化作用をもつビタミンCを作ることができるため、白内障にはなりにくいはずではないでしょうか?

イヌの白内障と体内のビタミンC濃度との関係を調べた報告があります(海外文献 1999年)。これによると正常群27頭の血中ビタミンC量に対して白内障群14頭ではおよそ16%も少なかったといいます。

イヌは元々体内のビタミンC合成能力が低い動物です。加齢に伴う肝臓コンディションの低下などの理由で体内濃度が下がってくると酸化ストレスに負けてしまいます。白内障予防として高齢ペットにはビタミンC補給が必要のようです。

コラーゲンの合成

前回、肝硬変にはコラーゲンの架橋が関係していることを説明しました。しかし本来コラーゲンは悪者ではなく、健康な肝臓や皮膚・被毛には大切なタンパク質です。このコラーゲンの形成にビタミンCが必要であることはみなさんもよくご存知です。

コラーゲンはタンパク質ですが、筋肉とは少し異なったアミノ酸メンバーからできています。コラーゲン全体のおよそ半分はグリシン、そして20%はプロリンとヒドロキシプロリンというアミノ酸から成ります。このヒドロキシプロリンはコラーゲンの立体構造を維持するしごとをしているため、必須なものであり特有のアミノ酸といえます。

ヒドロキシプロリンはプロリンというアミノ酸から作られ、この時に作用するのがプロリン水酸化酵素です。そしてこの酵素反応を進めるのが鉄とビタミンCです。というわけでコラーゲンという特殊なタンパク質を合成するにはビタミンCが必要ということになります。

抗老化作用

最後に少しショッキングなデータを紹介しましょう。体内でビタミンCが足りなくなると老化が進行し、寿命が短くなるというものです。ビタミンCは肝臓でブドウ糖から作られます。この合成経路において最後から2番目のところでグルコノラクトナーゼ(GNL)という酵素が働いています。

正常マウス群と酵素GNLの遺伝子をもたないマウス群の50%生存期間を調べた報告があります。これによると前者が約24か月であったのに対して、後者では約6か月しかありませんでした。

50%生存期間とはグループ全体の半分のマウスが寿命で死亡するまでの期間をいいます。すなわちビタミンCが作れないマウスは4倍の速さで老化が進行し、老衰により死亡したという結果です(石神昭人 東京都老人総合研究所 2007年)。

ビタミンC合成に必須である酵素グルコノラクトナーゼ(GNL)は年齢と共に減少するため、「加齢→酵素GNLの減少→体内のビタミンC減少→老化」とつながります。したがってビタミンCを補給すると老化の進行緩和が期待されることになります。ビタミンCに抗老化作用があるといわれるのはこのような理由からです。

今回のテーマは「ペットにビタミンC補給は必要か?」ということでした。生物としてのイヌやネコは体内でビタミンを作れるため「特に必要なし」となりますが、元々の合成能力が低く酸化ストレスへの対処やコラーゲン合成など消費量は加齢に伴い増大します。

肝臓コンディションの応援や老齢準備として、みなさんのペットにも7歳くらいからビタミンCを補給するのが良いと考えています。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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