11月も下旬に入り、そろそろお歳暮選びの時期になりました。以前はデパートに行ってあれこれ迷っていたものでしたが、近頃は自宅からネットで申し込みができ便利になりました。お歳暮の定番の品に食用油がありますが、今回は健康に良い植物油について考えてみようと思います。
目次
【健康に良い油】
「油→太る→コレステロール→生活習慣病」という連想ゲームのように、油は健康に悪いものというイメージがあります。その一方で近頃はトクホ(特定保健用食品)マークの付いた健康に良いとされる油も出回っています。
購入経験は?
家庭における植物油の使用状況と健康意識についてのアンケート報告があります(安藤真美ら 山口県立大学 2003年)。どれくらいの消費者が「健康に良い」をうたい文句にしている油を購入しているのかというと次のような結果になっています。
《健康に良い油の購入経験》
・常に購入している(10%)
・時々購入する(28%)
・贈答品として購入する(10%)
・1回だけ購入したことがある(9%)
・今後買ってみたい(30%)
・購入したことはない、今後も購入しない(9%)
「常に購入している」と「時々購入する」を合わせるとおよそ30%の人が健康に良い油を購入しているようです。また「今後買ってみたい」と興味をもっている消費者は同等の30%もいました。みなさんの場合はどれにあてはまりますか?
購入理由は?
では健康に良い油を購入している家庭では、どのような理由でそれを使っているのでしょうか。
《健康に良い油の購入理由》
・コレステロールが気になる(46%)
・広告を見て(37%)
・生活習慣病が気になる(28%)
・ダイエットによい(22%)
購入理由の上位4つのうち3つは血中脂肪や体脂肪に関係するものでした。先ほどの「油→太る→コレステロール→生活習慣病」とイメージしていた油ですが、これとは全く逆の「体脂肪を減らす油」というものがあるということになります。
【人気の高い油】
みなさんのお宅のキッチンにはどのような食用油がありますか?毎日の食事作りに油を使わないことはほとんどないと思います。日清オイリオグループ㈱の中央研究所が食用油の使用実態について次のような調査を行っていますのでそのデータを見てみましょう。
現在使用している油は?
1998~2018年の20年間にわたり、全国の20~60代女性を対象に現在使用している食用油を調べたところ、トップ3は①一般食用油 ②ゴマ油 ③オリーブ油という結果でした。これら3つの油の使用割合は70~80%もあり、第4位のアマニ油、第5位のトクホ指定健康オイルを大きく引き離しています。
ではこの食用油トップ3の購入理由はというと、次のような回答になっています。(ここでの一般食用油とはサラダ油、キャノーラ油、大豆油のことを指します)
〇一般食用油 …料理の使い勝手が良さそう
〇ゴマ油 …味や風味が好き
〇オリーブ油 …健康に良さそう
このように、キッチンにある食用油トップ3はそれぞれ「利便性」「風味」「健康」と使用目的が異なっていることが判ります。そして幅広い女性から「健康に良い油」として認識されているのがオリーブ油です。
単身女性に人気の油は?
食事にオリーブ油を使うようになったのは、この10年くらいではないでしょうか。オリーブ油は炒め物に使うというよりは、少しおしゃれに料理の仕上げにかけるといった使い方をされている方が多いと思います。
オリーブ油に関しては次のような調査報告があります。20~40代女性を対象に自宅の冷蔵庫に常備している食用油の種類を聞いたところ、サラダ油は夫婦世帯の常備率が高く、ゴマ油とオリーブ油は単身世帯の方が高いという結果でした(それぞれ+12ポイント、+19ポイント)。
家族がいる夫婦世帯では揚げ物、炒め物などいろいろな使い方ができるサラダ油が重宝されるのに対して、単身女性世帯では風味のゴマ油や健康を目的とするオリーブ油の人気が高いと言えそうです。
魅力的な成分は?
近頃は食用油に対しても健康機能を求めるようになっていますが、健康にうれしい油の成分といったら何を思い浮かべるでしょう?週に1日以上夕食を作る全国20~60代女性(500サンプル)を対象に、食用油に豊富に入っていると魅力的と思う成分を聞いたところ次のような回答が得られています。
《食用油の魅力成分トップ5》
①ビタミンE(35%)
②オレイン酸(33%)
③DHA(31%)
④ビタミンC(27%)
⑤EPA、リノール酸(同率23%)
ビタミンEとCは抗酸化ビタミンとしてお馴染みです(ただしビタミンCは水溶性ビタミンであるため植物油には含まれていません)。DHAとEPAは共にオメガ3脂肪酸で血液をサラサラにしたり、脳を活性化するとして人気の成分です。では魅力度第2位:オレイン酸と第5位:リノール酸とはいったい何物でしょうか?
【植物油の脂肪酸】
油(あぶら)とは大豆油のように常温で液体のものをいい、脂(あぶら)は豚の脂肪であるラードのように固体のものを指します。共にあぶらですが違いはその構成成分によります。
あぶらの構造と脂肪酸
私たちがあぶら(脂、油)を食べると消化されて、1つのグリセリンと3つの脂肪酸に分解されます。脂肪酸とは炭素(C)がいくつも手をつないだ形をしたもので、この手のつなぎ方により飽和脂肪酸(片手つなぎタイプ)と不飽和脂肪酸(両手つなぎタイプ)に分けられます。
あぶらの構成において固体の脂では飽和脂肪酸の割合が多く、液体の油では不飽和脂肪酸の割合が多くなっています。先ほど紹介した食用油に含まれる魅力ある成分としてあがっていたDHAやEPA、そしてオレイン酸やリノール酸もすべて不飽和脂肪酸です。
どうやら私たちがもっている「動物性脂肪=体に悪い」、「植物油=健康に良い」というイメージは、あぶらを構成しているこの脂肪酸の種類からきているようです。
人気の高い植物油の脂肪酸
では最後にみなさんのキッチンにある一般食用油(ここでは代表として大豆油とします)、ゴマ油、そしてオリーブ油の脂肪酸構成を確認しましょう。まずはどれも飽和脂肪酸は15~16%程度含まれています。そして不飽和脂肪酸の含有率は次のようになっています(日本油脂検査協会)。
《オレイン酸》
大豆油(23.8%)、ゴマ油(40.9%)、オリーブ油(76.0%)
《リノール酸》
大豆油(53.0%)、ゴマ油(42.6%)、オリーブ油(6.8%)
《αリノレン酸》
大豆油(7.4%)、ゴマ油(0.3%)、オリーブ油(0.7%)
これを見ると使い勝手が良い大豆油ではリノール酸が多く、健康に良いオリーブ油はオレイン酸が大変多いことが判ります。また風味のゴマ油は両方をバランスよく含んでいることも確認されます。
オレイン酸もリノール酸もコレステロールを抑える作用があるといわれている脂肪酸です。こうして見ると、キッチンにある植物油はそれぞれ健康に良いとされる不飽和脂肪酸を含んでいることに気が付きます。
自宅でペットの食事を作る時には、油をたっぷり使うことはないと思います。
しかし最近では、ペットの体重コントロールや肥満対策の1つとしてオレイン酸の可能性について研究されています。次回は女性からの人気が高く、このオレイン酸を豊富に含むオリーブ油の健康機能についての話をします。
(以上)
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。