早いもので2月も半ばに入りました。昨年・一昨年と比べると今年の冬は雪が多く、寒さがとても厳しいです。こんな季節にはおでんやシチューを食べて温まりたいものですが、ペットにアツアツの食事を与えるわけにはいきません。何か食べると体が温まる食材はないものでしょうか?
【食事と体温】
私たちはお腹が空くと寒く、食事をすると温かくなります。これはもちろん食事自体の温度もありますが、食べたものが消化され代謝により熱エネルギーが産生されるためです。
食事後の体温上昇
食事をすると本当に体温は上がっているのでしょうか?男女37人を対象にして、1日のエネルギー消費量を測定した海外の研究報告があります(海外文献 1999年)。
これによると、エネルギー消費量は夜寝ている間どんどん落ちてゆきます。そして目覚めて体を動かし出すと上昇し始め、3回の食事を摂った後には毎回グッと消費量はアップします。
エネルギーの消費量が増加するということは、体内で熱が産生されていることを意味します。このように食事をするとエネルギー産生=体温の上昇が起きていることが判ります。
1日のエネルギー代謝
私たちもペットも毎日何かしら体を動かして生活しています。体を動かすには熱エネルギーが必要ですが、1日に消費する全体のエネルギー量を100とした場合、その内訳はおおよそ次のようになっています。
○基礎代謝(60%)
…安静状態で呼吸や消化などに消費するもの
○活動代謝(30%)
…家事や仕事などの運動に消費するもの
○DITを活用する代謝(10%)
…食後に産生された体熱を消費するもの
ここで登場したDITとはDiet Induced Thermogenesisの略のことで、日本語では「食後誘発性体熱産生」と訳されています。すなわち食事によって発生した熱を由来とするエネルギー代謝が全体の約10%を占めているということです。
DIT:食事後の体熱産生
先ほどの基礎代謝や活動代謝は、食べた食事の栄養素を即座に利用しているわけではありません。以前に摂取した食事の栄養成分を消化・再合成してタンパク質(筋肉)、グリコーゲン(肝臓)、脂質(皮下脂肪)という形で蓄えておいたエネルギー源を貯金のように少しずつ使っています。
これとは別に今食べた食事が消化・分解・代謝を受け、食後間もなく熱となり体を温めるのがDIT(食事誘発性体熱産生)です。このDITは私たちヒトやイヌ、実験動物のラットにも確認されています。
【おいしい食事と体熱の産生】
次に食事・フードの栄養成分や美味しさとDIT(食事誘発性体熱産生)の関係について話をします。
体温を上げるタンパク質
食事による直接の体熱産生であるDITは、その栄養成分の種類によって発生するエネルギー量に違いがあるといいます。三大栄養素でいうとカロリーが最も高い脂質が食後の熱産生量も多いイメージがありますが、さてどうでしょう?
タンパク質、糖質、脂質の3つの栄養素の摂取カロリーを同じに調節してDITを測定すると、産熱割合はタンパク質が30%、次に脂質が6%、そして糖質が4%ということです。計算上では同じカロリー量の食事をした場合、高タンパク食では高脂質や高糖質食の5~6倍の体熱が産生されることになります。
私たちがよく耳にするタンパク質(4kcal/g)、炭水化物(4kcal/g)、脂質(9kcal/g)という数値は、摂取後代謝されて体内で燃焼した時に発生するエネルギー量という意味です。今回の食事の後にすぐ体を温めるDITとは異なりますのでご注意下さい。
美味しさと体熱の産生
同じ食事を摂って体温が上がるのであれば、好きなものや美味しいものを食べたいものです。これについて次のような大変面白い実験報告があります(海外文献 1985年)。
8人の女性を2グループに分けてA群にはおいしい食事、B群には同じ食事内容で作ったビスケットを食べてもらい、食後の体熱産生を測定しました。結果としてA群のDITは20%アップであったのに対して、B群では12%しか増加しなかったといいます。
このことから同じカロリー同じ栄養成分の食事をしても、美味しいものを食べたほうがより多くの体熱産生を得られるということが判ります。すなわちDITには食事の味やにおいが大きく影響するということです。この脳や神経が体熱の産生を促進する作用を頭相刺激といい、DITの約25%を占めると報告されています。
2段階の体熱産生
頭相刺激はイヌにおいても認められます。これも海外の報告ですが、イヌ6頭にフードを与え体熱の発生を測定しました。すると食後15分頃に1回目の体温上昇を認め、その後2回目の上昇が確認され2時間ほど続いたといいます(海外文献 1985年)。
このイヌで発生した2峰性の産熱の内、1つ目はフードのにおいを嗅ぎ歯で噛んで味わって食べたことによる体温上昇=頭相刺激によるもの、2つ目は胃の中での消化=代謝によるものと考察されています。
このように愛犬にタンパク質が豊富で嚙み応えのある肉を使ったフードを与えると、食後比較的早い時間に体熱が産生されて体が温まると言えそうです。
【体を温める肉】
ペットフードやおやつにはいろいろな種類の肉、野菜、果物が使われています。この中でどのような食材が体を温めるのか、今までとは少し違った漢方という視点から見てみようと思います。
温める食材と冷やす食材
最先端の医療・薬の開発には目を見張るものがありますが、漢方や薬膳の考え方にも高い評価があり広く支持を集めています。この薬膳では健康維持の観点から、代謝を促進させて体を温める食材を「熱・温」、逆に熱を冷まし暑さを抑える食材を「涼・寒」、そしてどちらでもない食材を「平」と呼ぶそうです。この考えから食材を分類すると次のようになります。
《温:体を温めるもの》
…香辛料(唐辛子、コショウ、ショウガ)
…もち米、かぼちゃ、栗
《平:どちらでもないもの》
…ご飯(うるち米)、大豆、さつまいも、じゃがいも
…キャベツ、ゴマ、牛乳
《涼:体を冷やすもの》
…麦、豆腐、柿、スイカ、バナナ
カレーやチゲ鍋といったスパイス・唐辛子が入った食事を摂ると体が温まります。これは料理自体の熱もありますが、「熱・温」とされる香辛料がたっぷり入っているためです。また冬至に食べる習慣があるかぼちゃには、寒さ対策といった意味もあるのでしょう。
体が温まる肉は?
寒い冬に体がホカホカするからといって、ペットにスパイスの効いた食事を与えるわけにはいきません。フードに使える肉では、どのようなものが体を温めるのでしょうか。
同じく薬膳では鶏肉、ヒツジ肉、シカ肉の3つが「熱・温」の肉とされています。日常の食事でよく食べている牛肉と豚肉は、食後の体温には特に影響しない「平」の肉、対してウサギ肉と鴨肉は体をクールダウンさせる「涼・寒」の肉に分類されています。
もう少し続く寒い日々を健康的に過ごすために、手作りフードに鶏肉・ヒツジ肉・シカ肉を使ってみてはいかがでしょうか。次回はこれら薬膳でいうところの「熱・温」の肉とDIT(食事誘発性体熱産生)との関係について探ってみようと考えます。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。