獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「スイカエキスとペットの健康」

スイカを代表とするウリ科植物にはシトルリンというアミノ酸が含まれています。このシトルリンには血管拡張・血流促進をはじめとする諸機能がありました。今回は夏の果物スイカと私たちのペットの健康維持との関係ついて紹介します。

【肥満を抑える】

いつもお話しているように、ペットにおいても肥満は様々な疾病の背景になります。まずはスイカ成分の体重や脂肪代謝に対する作用を見てみましょう。

体重

ヤマザキ学園大学の岡崎登志夫らは、スイカから各種栄養成分を抽出して作成したスイカエキスを用いて次のような試験を行いました(2014年)。

●被験動物 ラット12匹
●グループ 各6週間給与
対照群 …標準飼料+飲み水(4匹)
試験群A …高脂肪飼料+飲み水(4匹)
試験群B …高脂肪飼料+スイカエキス(4匹)
●測定項目
体重、肝臓重量、総コレステロール値

試験開始時の体重を100として6週目の相対体重を比べた結果、高脂肪飼料を給与された試験群Aは約230まで増加していました。これに対して、同じ高脂肪飼料でもスイカエキスを加えた飲み水を給与された試験群Bでは約200までに抑えられていました。

肝臓重量

高脂肪飼料の給与によって体重が増加したことを受けて、給与開始6週目の肝臓重量を比較しました。対照群の平均重量が約12gであったに対して試験群A(高脂肪飼料+飲み水)は約17g、試験群B(高脂肪飼料+スイカエキス)ではこれより軽く約13gという結果でした。

高脂肪飼料を毎日給与されると、消費しきれなかった栄養分は皮下脂肪や内臓脂肪となり体内に蓄積されます。スイカエキスの摂取は代謝を促進させることにより、肝臓の脂肪化(脂肪肝)を抑制したと考えられます。

コレステロール

一般的に肥満傾向になるとコレステロール値は上昇します。3グループの血中総コレステロール値を比較すると、対照群はおよそ50ng/dl、試験群Aは75ng/dl、試験群Bは55ng/dlという結果でした。

体重や肝臓重量が大きくアップしたA群では総コレステロール値も高いのに対して、同じ高脂肪飼料を給与されていてもスイカエキスを摂取していたB群の値は対照群と同等であったことが判ります。

以上の成績をまとめるとスイカエキスには脂質代謝を促進し、肥満を抑制する作用があると考えられます。

【運動能力を上げる】

現在、シトルリンというアミノ酸はスポーツの世界、特にマラソンのような持久力を求められる種目において注目を集めています。シトルリンを運動前に摂取することにより、パフォーマンスの向上が期待されています。

持久力の向上

20~30代男性22人にシトルリンを摂取してもらい、自転車型の運動機器で4kmのタイムトライアルを行ったデータがあります(協和発酵バイオ㈱ 2014年)。シトルリン2.4gを含む試験品を8日間摂取後、4km走破にかかった時間を測定した結果、対照群よりも試験群は約1.5%短縮したといいます。

加えて運動直後の感想では、対照群と比べて筋肉疲労の軽減や集中力のアップといったコメントがありました。このように運動前に機能性アミノ酸であるシトルリンを摂ることにより、パフォーマンスが向上することが確認されています。

血流の増加

シトルリンは体内に入ると一酸化窒素(NO)を産生し、血管を拡張させる作用がありました。運動前にこのシトルリンを摂取した結果、全身の血管拡張→血流促進→筋肉への酸素・糖の運搬能力アップ→運動パフォーマンスのアップにつながったと考えられます。

ペットでは病気・手術後の回復時や老犬において運動能力が低下します。このような時にはシトルリンを含むウリ科の果物や野菜を与えることにより、少しでも元気の回復が期待できるかもしれません。

【尿路結石の対策】

スイカはたっぷりの水分とK(カリウム)が多い果物として知られています。体内にKが取り込まれると尿の産生量を増やしてこれを排泄しようとします。これを利尿作用といいますが、では尿路結石症のイヌにスイカを与えた場合、どのような反応が見られるのでしょうか。

尿比重の低下

ヤマザキ学園大学の宮井紗弥香らは、イヌにスイカエキスを給与する次のような試験を行いました(2016年)。

●被験動物 イヌ9頭(2~9歳)
●試験品
…スイカエキス(スイカ果肉抽出物+アスコルビン酸)
●給与設定
…体重kgあたりスイカエキス150ml×3か月間
●測定項目
…尿比重、尿路細胞数、尿路結石数

尿比重とは水を1とした場合の尿の重さのことで、イヌの正常範囲は1.030~1.045とされています。試験開始時は9頭すべて1.040以上の高い値を示していましたが、給与3か月後にはこの内5頭において尿比重の低下が確認されました。尿比重の低下とは薄い尿がたくさん出るようになったということです。

尿路結石対策として動物病院からは、水を飲ませて尿を出させるようにしましょうという指導を受けます。K(カリウム)を含み利尿作用をもつスイカエキスには、尿路結石の形成リスクを低下させる作用があると期待されます。

尿路細胞の減少

尿は腎臓で作られ尿管→膀胱→尿道を通って排出されます。この通り道である尿路の内側はたくさんの細胞でおおわれていて、健全な状態でないとペラペラと剥がれてしまいます。これら剥離した細胞を核として形成される結晶が尿路結石です。

先ほど尿比重が低下しなかった被験犬No.5の尿中細胞数の変動を確認しました。すると尿道に由来する細胞数は、スイカエキス給与1.5か月後にはいったん増加し、3か月後には開始時と同等またはそれ以下にまで減少しました。

スイカエキスに含まれるシトルリンには抗酸化作用があり、体内で発生する活性酸素から尿路の細胞を守ります。細胞は常に生まれ代わりますが、すでにダメージを受けているものは剥がれてゆきます。給与期間中に剥離細胞数が一度増加しその後減少したのは、尿路細胞が丈夫に再生した結果と考えられます。

尿石の減少

スイカエキスを給与しても尿比重が低下しなかった4頭(被験犬No.5~8)について尿路結石の数を確認しましょう。尿比重が高い(=濃い尿)ということは結石発生リスクも高い状態ということになります。

尿中の結石(ストルバイト、シュウ酸カルシウム)は、給与開始時よりも1.5か月目では増加したものがありましたが、3か月目では全頭観察されませんでした。この動きは先ほどの剥離細胞数と同じです。結石の形成予防には尿路細胞の健全化が大切であるということが判ります。

スイカ果汁から作成したスイカエキスには、利尿作用(K:カリウム)や抗酸化作用(シトルリンなど)をもつ栄養素が含まれています。これらが総合的に働くことにより、ペットの尿路結石症の発生を抑えるという結果につながったと考えられます。

スイカは季節感が高いウリ科植物の果物です。昔から暑い夏に食べられているのは単なる季節ものというだけでなく、機能性アミノ酸であるシトルリンが含まれていて体温を下げる作用があるためでした。

また近年では、脂質代謝の促進や尿路結石の形成抑制などスイカエキスについての様々な研究結果が報告されています。今年もスイカを食べながらペットの健康についてあれこれ考えてみるのもよいでしょう。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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