獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「牛乳に替わる植物性ミルク」

牛乳は栄養価が高くCa(カルシウム)も豊富で、今の季節では熱中症予防に有効な食材であることが良く知られています。また牛乳を与えられているペットは長生きしているという報告もあります。近頃この牛乳に対して第2、第3のミルクと呼ばれる食材が人気を集めています。

【植物性ミルク】

「植物性ミルク」とか「プラントベースミルク」といった言葉を聞いたことはありませんか?これらは動物由来ではなく、植物(=プラント)を材料として作られたミルクみたいな食材というもので、豆乳といえばみなさんピンとくると思います。

植物性ミルクとは?

牛乳は日々の健康に良いことは判っていても、お腹がゴロゴロしたり、アレルギーがあって飲めないという人は少なくありません。ここで登場するのが植物性ミルクです。

ウシやヤギなどの家畜から搾った動物性ミルク(少々変な言い方ですが…)に対して、いろいろな植物の種子をすりつぶして得られた白い液体を植物性ミルクと呼んでいます。

第2のミルク、第3のミルク

植物性ミルクの具体例として豆乳、アーモンドミルク、ココナッツミルク、オーツミルク、ライスミルクなどがあります。これらのうち世の中に広まりだした順番から豆乳を第2のミルク、これ以外をまとめて第3のミルクと呼んでいます。

近年、植物性ミルクが注目されているのは、単に乳糖不耐症や食物アレルギー対策としての牛乳の代替品というだけではありません。老化や認知症対策、生活習慣病予防などの健康機能に関する研究結果が報告されていることがあります。

1番人気の植物性ミルクは?

現在、日本国内ではどれくらいの人が植物性ミルクを飲んでいるのでしょうか。今年の4月に10代~70代の男女合計10,096人を対象にアンケート調査が行われました(マイボイスコム㈱ 2022年)。

これによると全体のおよそ半数の人がこの1年間で飲んだことがあると回答していて、そのうち最も多かったものが豆乳(38.9%)でした。これに近頃良く見かけるアーモンドミルク(17.1%)、そしてココナッツミルク(5.5%)、オーツミルク(3.1%)、ピーナッツミルク(1.1%)、ライスミルク(1.0%)と続きます。

人気No.1はやはり豆乳でしたが、他のものはまだまだこれからといった感じです。みなさんはどれか飲まれたことがありますか?

【植物性ミルクのイメージ】

アンケート結果の続きを見てみましょう。牛乳とは全くの別物である種子類から作った植物性ミルクを飲んだ経験がある人たちはどのようなイメージをもっているのでしょうか。

魅力・飲用理由

植物性ミルクの一番の魅力は健康に良い(53.0%)、続いて栄養価が高い(21.4%)、低カロリー(20.2%)です。また飲む理由でも健康のため(58.0%)、体に良さそう(34.9%)が高い結果になっています。

確かに植物由来であるため、牛乳と異なりコレステロールは含んでいません。またカゼインやホエーといったタンパク質を原因とするアレルギーの心配もありません。私たちは無条件に「植物性=体に良い」というイメージがあるようです。

気になること

植物性ミルクを初めて飲んだ時の感想は「あれ?違うな…」というものでしょう。今まで飲み慣れてきた牛乳と見た目が同じため、どうしても味や匂いを比べてしまうと思います。

植物性ミルクを飲用している人が気にしている点では、美味しくない(25.9%)や価格が高い(19.7%)、香り・風味が良くない(9.2%)という回答がありました。本来植物性ミルクは牛乳とはまったく別の食材なのですが、やはり牛乳との違いを感じてしまいます。

また他には「砂糖・添加物が入っているものがある」、「原材料の産地・安全性・遺伝子組み換えなどの不安がある」といった意見がおよそ8%ありました。大豆やアーモンド、ココナッツはほぼ輸入品ですのでこのような点を気にしている方も少なくないのでしょう。では次に国内自給率100%であるコメから作られるライスミルクを見てみようと思います。

【ライスミルクの活用】

私たちにとってコメは毎日のご飯、そしておせんべいなどのお菓子にも使われているため、わざわざライスミルクにして飲もうと考える人はほとんどいないのではないでしょうか。

世界の普及率

近年、純菜食主義(ヴィーガン)や食物アレルギーなどの点から、海外では植物性ミルクや牛乳代替食品への関心が高まっています。alic(独立行政法人 農畜産業振興機構)は2021年に世界8か国の消費者7,789人を対象にした植物性ミルクの普及率調査を行っています。

調査対象の国の中でライスミルクの飲用経験があると答えた割合が最も高かったのはタイ(49%)でした。他にアジアでは中国(26%)、欧米では米国(15%)、ドイツ(24%)、オーストラリア(15%)というように平均すると20%前後の普及率といったところでした。

これらの国々と比べて最も割合が低かったのは日本で8%でした。その理由としてはライスミルクの栄養成分にさほど目新しさを感じない、どのような健康応援をしてくれるのか判らないなどの点があるのではないでしょうか。

主要な栄養成分

コメは三大栄養素のうち炭水化物の供給源として大切な食材ですが、特にこれといった特徴的な栄養素を含んでいる感じはありません。ではここで牛乳と第2のミルクである調整豆乳、そして第3のミルク代表としてライスミルクの栄養成分を比べてみましょう(佐藤由衣ら 相模女子大学 2016年)。

この報告では玄米ごはん40gに水200mlを加えミキサーにかけたものをライスミルクとしています。まず主要栄養素としてタンパク質、脂質、炭水化物では、牛乳と調整豆乳はほぼ同じ内容です。これに対してライスミルクでは炭水化物は豊富ですが、タンパク質と脂質は低い値しか含まれていません。

次にミネラル成分についてですが、Ca(カルシウム)はやはり牛乳がもっとも多く100g中110㎎であるのに対して、調整豆乳は31㎎、ライスミルクは1㎎しかありません。

またNa(ナトリウム)、K(カリウム)、P(リン)も牛乳と調整豆乳では同等量ですが、ライスミルクにはとても少ない量しか含まれていないことが判ります

フードへの活用

このように栄養的にはあまりパッとしないライスミルクですが、私たちやペットの健康維持に利用できることは無いのでしょうか?先ほどの栄養成分のデータをまとめた佐藤はライスミルクを肥満・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病や腎疾患のケア食事としての応用を提案しています。

ライスミルクは一般に玄米ごはんを焚いて、これに水を加えミキサーにかけて作ります。したがって米ぬか(こめ油)も一緒に摂ることができます。以前このコラムでも紹介しましたが、米ぬかには食物繊維やGABA(γアミノ酪酸)、γ‐オリザノールといった機能性成分が含まれています。

また低タンパク質、低脂質、低カロリーであるため肥満や糖尿病対策、またミネラルの中でもP(リン)が少ないという点から腎臓ケアへの活用が考えられます。私たちヒトではライスミルクはゴクゴクとそのまま飲めますが、ペットの場合は手作りフードやおやつのベース材料として利用するのが実際的でしょう。

日本では第2のミルク豆乳は結構昔から飲まれていますが、第3のミルクは外国と比べて歴史は浅くこの数年ほど前から出回ってきました。牛乳は牛乳でとても栄養価が高い食材ですが、いろいろな理由で利用できない場合があります。これからはペットの食事においてもプラントベースフードやプラントベースミルクといった新しい食材の利用が進むと思われます。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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